44話
「ライアットさんっ!シータさんリフルさんっ!!」
康一は必死になって声を上げるが光の壁に阻まれ届くことはない。
「ダメだっ、このままじゃ…みんながっ…!!」
駆けつけようにも壁に阻まれ出られない。いや、それ以前に足が震えてその場から動けない。
「っ――――!!」
そんな現実に目を背けるように目の前の壁を叩きつける。
だが、リフルが施した魔法は強固で壊れるどころかヒビ一つ入らない。
「何でっ!早くいかないといけないのに!早くっ、助けないとっ」
――本当にそう?本当にそう思っているの?
「っ!?」
――分かっているんでしょう?。自分が行ったって大した助けにならないことくらい。
「………」
足掻く康一を諌めるように心の声が聴こえ、動きが止まる。
――大丈夫さ。三人とも強いんだ。今はちょっとだけ苦戦してるけど、ここから逆転するに決まってる。だから僕はここでおとなしくしてればいい。そうだろう?
足掻くな、任せろ。お前はただ待っていればいいと声は囁く。
「でも…」
――だいたい最初から相手が悪かったんだ。魔族なんてイレギュラーもあったし、ここはあの三人に助けてもらおうよ。
「助けてもらう?」
声の声に流されようとした康一だが、最後の言葉を聴いて踏みとどまる。
「――やっぱりいかないと」
――どうして?やめときなよ、僕にはまだ無理なんだよ。
「そうかもしれない。でも、ここに来るとき決めたんだよ。こんな僕でも誰かの助けになれるならって」
元な世界で病弱な自分は様々な人達に支えられてきた。
だからこそこの世界では他の誰かの助けをしたいと思ってこの世界に来たのだ。
「そうだよ。僕は誰かの助けになりたくて来たんだ。誰かに守ってもらうんじゃなくて、今度は僕が力になるんだ!」
足の震えが止まる。体に力が入る。萎縮していた気持ちが軽くなっていく。
――理解出来ないよ。怖くないの?下手をしたら死んでしまうんだよ?
「怖いよ、不安だよ。でも勇気を出して進んでって言われたんだ」
それはリフルに言われた言葉。
「ここで勇気を出さないと、僕はこれから先一歩を踏み出すことは出来ないからっ!!」
決意は心を動かし宣言をして言葉になる。
「はああああ―――!!」
今の自分では目の前の壁を壊せないのなら、たった今、少しでも成長すればいい。
体に魔力を流す。それはライアットが行っていた『フィジカルエンチャント』だった。
――止めなよ!それはまだ成功どころかやったことすらないのに!
心の声が警鐘を鳴らす。確かにこれは高等技術で自分ではまだ扱えるモノではないのだろう。
「だからどうしたっ!」
更に魔力を込めていく。込めた魔力に体がついていかないのか、激痛が走る。
「この世界の人達は、精一杯戦ってるんだっ!そんな人達を僕は助けたいんだ!!だからこんなことで弱音を吐くわけにはいかないんだよ!」
拳を振り上げる。今出来る限界まで強化した体から繰り出された一撃は光の壁を打ち砕いた。
シータは追い詰められているこの状況をどうにかするために思案していた。
(どうしたものかしら。さすがに状況が悪すぎる)
チラとライアットを見るがいまだに膝立ちの状態でこちらに駆けつけられる状態ではない。
かといって負傷したリフルをおいて逃げ出すという選択はない。
(ここまで来てさすがに安全な一手はないか。ならばせめて相討ち、最低でも一太刀浴びせる!)
戦いである以上、常に最悪な結果に対する覚悟は出来ている。
今優先すべきことは自己の安全ではなく目の前の脅威の排除。
(最速で呪文を唱えて一撃を与える!)
すかさず行動しようと手をかざすが、それより早くジグーが行動を起こした。
(早いっ!?間に合わないっ!)
殺られる。そう覚悟した瞬間。
「二人からっ!離れろおおっ!!」
シータの後ろから、高速で駆け抜けた康一がジグーへと切りかかる。
「ヌゥッ!!?」
ジグーは槍で防ぐが康一の勢いに押され、後ろに飛び退いた。
「康一っ!?どうやってここに来たの!?というか早くここから離れっ……!アンタ、それどうしたの?」
シータの視線の先には血を流している右手で剣を掴みながらジグーを見据える康一。
『フィジカルエンチャント』を完璧には扱い切れず。体内に流れる魔力のせいで体に痛みが走っており、息も荒い。
「ごめんなさい…っ、遅くなりました。ここからは僕が、戦います。シータさんはリフルさんを連れて離れていてくださいっ!」
「戦うってアンタ怪我してるじゃない!というかアンタこそ離れなさい!アイツは手負いだけども危険なのよ!」
「ごめんなさい。それは聞けません。今度こそ僕は助けるって決めたんです!」
シータの警告を無視し、ジグーへと駆ける康一。その姿勢に迷いはなく駆ける足は力強い。
「何者ダオ前ハ!邪魔ヲスルナア!」
康一を迎え撃つべくジグーも槍を振るう。
「でやあああ!!」
だけど康一は止まることなく剣を振り抜く。
お互いの攻撃はぶつかり、つばぜり合う形となった。
「グウッ!?コンナ餓鬼ヲオ押シキレナイダト!?」
いくら片腕とはいえ人間の餓鬼と競る形となったことに驚くジグー。
「これで、も、駄目…ならっ!これよりっ、強くっ!!」
康一は更に魔力を体に流す。それにともない体を走る痛みが格段に大きくなった。
「っ!?んっ!がああっ!!」
痛い、いたい、イタイ!止めろ!やめろ!ヤメロ!!
今まで感じたことのない痛みにより脳が警鐘を鳴らす。
だけど康一はそれを呑み込み、押さえつけ、剣を振る腕に力を込める。
自分にはライアットのような戦闘技術はない。シータやリフルのように魔法を扱える訳ではない。
ならばたとえ身の危険を犯してでも力を振るわねば、自分の望みは果たせない。
――痛い。
だからどうした。皆戦ってるんだ。それがここで止める理由にはならない。
――怖い。
だからなんだ。この世界の人達は常に魔物の脅威にされされていた。それでも立ち向かっているんだ。
――逃げろ。
ふざけるな。もう決めたんだ助けるって。自分が心の底からそうしたいって。
だからもう、邪魔をするな!!
「オオオォアアアア!!!!」
康一の剣が徐々に押し始める。
「馬鹿ナ!?俺ガ押サレテイル!?アア有リ得ナイッ!!」
ジグーは叫ぶが結果は変わらない。それどころか受け止めていた槍にヒビが入り始めた。
「フザケルナッ!俺ハココデ死ヌ訳ガナイ!オ前達ヲ殺シテ強クナリッ!奴ラヲ見返スノダ!!ソレガッ!!コンナアアアア!!!」
槍が壊れる。阻むモノがなくなった康一の剣は、ジグーの体を両断した。




