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28話

「状況を詳しく説明してくれ」


 ソーマの報告を受けたクーガーは直ぐ様その場に止まりライアン達の合流を待ち、集まったところでクーガーが切り出す。


「ああ、最初はゴブリンの集団を見つけたんだが、あまりも数が多いから数を数えようと木に登り周囲を見渡したんだ。すると先頭の方に一際大きなヤツが居て眼を凝らして確認したらトロルだったんだ」


 ソーマの言葉で緊張が走る。


「マジかよ…。トロルってあれだろ?討伐推奨がLv5以上の冒険者のパーティーからのやつだよな…。どうするよ!?俺達の中でLv5はライアンだけだぞ!?」


「ここは一旦シグマさんに指示を仰いだほうがいいんじゃ……」


「それより先行した奴らにも伝えないとっ!」


「伝えてどうすんだよ!?トロルだけならこの人数ならなんとかなるかもしれないけどゴブリンもいるんだろ!?」


 ソーマの報告を受けて慌てるライアン達。当然だ最初の報告では相手はゴブリンだけだったのだから。いくら数が多くてもこちらも相応の人数を揃えた、だからこそ今の今までこの依頼は成功出来ると意気込んできたのだ。それがたった一体の魔物の存在で崩れ去った。


『トロル』、大人の人間よりも巨大な肉体を持ち、その身を厚い脂肪に覆われた魔物。動きは鈍いがその巨体から繰り出される一撃は並の冒険者を容易く仕留めるほど。ゆえにギルドではある程度戦闘に慣れたLv5以上の冒険者のパーティーで挑むことを推奨としている魔物だ。


「くそっ、ここまで来たのに…」


 ライアンが歯を食い縛りながら洩らす。他の仲間も同じように顔を沈める。ソーマですら苦い顔だ。それほどまでにトロルの存在は大きかった。


「――なによ。まさかここまで来て諦めるつもりっ!?」


 その空気に我慢出来なくなったルセアが叫ぶ。


「そういうが相手はトロルだ。俺達じゃどうにも荷が勝ちすぎてている」


「それじゃあ村の人達を見捨てるっていうの!?そんなのはゴメンだわ!!」


「俺達だってゴメンだ!…だからシグマさんに指示を仰ごうと―」


「そんなことしている間に村が襲われたら元も子もないのよ!――良いわ、皆が行かないなら私ひとりでも――!」


「待て」


 感情のまま走り出しそうなルセアをクーガーが制す。ルセアは今にも食って掛かりそうな勢いでクーガーを睨む。


「なによ、アナタも止めるつもり?」


「落ち着け。まだ状況を整理しきれていない。ソーマ、相手の数と陣形を分かる範囲でいい、教えてくれ」


「え、あ、ああ――」


 そしてソーマは自分が見て確認した光景を説明する。


「なあ、おいクーガー。まさかお前さん。俺らで相手するなんて言うんじゃないだろうな?」


 いくらクーガーがこの中で一番戦闘に関して秀でているといえ、そんな無茶な事は流石にしないだろうとライアンは確認した。


「そのまさかだ」


「っ、いくらお前さんがいても今回は無謀だ!トロルだけならまだしもゴブリンもかなりの数がいるんだぞっ!」


 ライアンの語気が強くなる。クーガーの実力は知っている、しかし今回は相手が悪すぎる。よしんば討伐できたとしてもこちらも被害が出ることは免れないだろう。


「だがトロルは一体だけだ」


「その一体が問題なんだよっ!!」


 たかが一体、されど一体と言わざるを得ないほどトロルは強敵なのだ。どうしてそれが分からない、とライアンは更に語気を強める。


()()()()なら俺とルセアとソーマでどうにでもなる」


 そんなライアンなどお構い無しにあまりにもサラッと言われた一言にその場の空気が一瞬固まる。


「は―」


「はあああぁぁああ―――!?!?!?お前何言ってんの!?何あれぐらいなら余裕でしょ?って感じで言ってるんですかねえぇコイツはあああ!?」


 ライアン達よりも驚いたのはソーマだった。まさか全員ではなく自分達のパーティーでトロルを倒せるなどと言われれば当然と言えば当然だが。


「――出来るの?」


「言ったろ?一体程度ならどうにでもなると。時間がない、作戦を纏める。話を聞いてくれ」


 クーガーが立てた作戦はこうだ。トロルを先頭とするゴブリンの集団の中間を狙い突撃する。それにより集団をある程度分断し、ライアン達が後続のゴブリンを抑え、クーガー達が先頭のトロルに迫るというもの。


「ソーマの報告では、集団の間隔はそこそこ空いているらしい。だからこそこのやり方でいけると判断した」


「まあ、納得したっちゃ納得したけど…」


「悪いがこれ以上時間をかけたくはないんだ。直ぐにでも向かうぞ」


「待てっ!本当にこんな作戦でいけるのか!?百歩譲って俺達はなんとかなるかも知れないがお前達は無事ではすまないかも知れないんだぞッ!!」


「そうだな」


「!?―――ふざけているのか!?」


 緊張感を感じられないクーガーの言葉にライアンは怒る。


「あんた達が後続を確りと抑えてくれれば三人とも無事で成し遂げられるさ」


「……どうやってその言葉を信じろと」


「悪いが証は立てられない。証明出来るのは戦いが終わってからだからな」


 つまり無事に戻ってくるからそれで納得しろと言外に言った。


「―――分かった。三人全員で戻って来なかったら承知しねぇからな」


 まだ納得しきれないが、クーガーの言葉でようやく覚悟を決めたライアン達。そしてクーガー達はゴブリンの集団へと駆け出す。






「いたぞ。ゴブリン達だ」


 ゴブリンの集団にたどり着いたクーガー達は、茂みの中から様子を伺う。


「トロルが通る道だからかある程度開けているな」


 トロルはゴブリンとは違い巨体である。そのためスムーズに移動できる道をゴブリンが見つけたのだろう。だがこれはクーガー達にとっても好都合だ。ある程度開けているということで戦闘への支障が減るからだ。それに見た感じトロルの姿が見えない、ということは少なくとも先頭集団ではないということ。仕掛けるには絶好のタイミングだった。


「準備はいいな?」


 後ろを向いて確認すると、ライアン達は了承の合図を送る。


「よし、――いくぞっ!!」


 戦況は不利、だが勝機がないわけではない。クーガーの頭の中では勝ち筋は見えている。後はそれを確実なものにするために尽力するだけだ。

武器を強く握り、掛け声と共にクーガー達は飛び出していった。

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