↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
33/35

三十三、戦神VS新たな戦神! 忘れられた「純潔」が奇跡を起こす時

鉄戟堡の議事堂は戦場と化していた。


トールとアレスは同時に両手剣を掲げる。


その威圧感は二つの山岳が激突するかのようであり、刃が触れ合う前から神威だけで空気が引き裂かれていた。


最初の一撃が轟音とともに炸裂する。


白光と血炎が交錯し、巨剣同士の衝突音は天を揺るがす戦鼓のように響いた。


その音は神術の投影を通じて、すべての信徒たちの耳へ届けられる。


無数の戦士が武器を握り締める。


無数の民衆が息を呑み祈りを捧げる。


まるで心臓までもが、その一撃ごとに脈打っているかのようだった。


刃が交差するたび、戦争の領域は激流のように膨張していく。


二柱の神性によって、かつてないほど鍛え上げられていた。


トールの肩が裂かれ、鮮血が飛び散る。


その瞬間、彼の復讐の領域が怒りの炎を燃え上がらせ、攻勢をさらに苛烈なものへ変えた。


一方で、白光の剣がアレスの鎧を切り裂く。


血炎の奥から低いうめき声が漏れ、暴力の領域が膨れ上がる。


アレスの斬撃はより凶悪な破壊力を帯びていった。


二人は信じられない速度で交錯する。


連続する斬撃の中で、狂信の領域は戦火の竜巻のように荒れ狂った。


観戦する信徒たちの胸には揺るぎない確信が芽生える。


勝者が誰であろうと――


この戦神こそ、自分たちがすべてを捧げるに値する存在なのだと。


そして一つひとつの剣技。


不可能な角度から繰り出される刺突。


そのすべてが兵法の領域を震わせ、成長させていた。


フレイヤの胸は震えていた。


戦争はただ戦っているのではない。


進化している。


この神戦を糧として、戦争の領域そのものがさらに高次の形へ近づいていた。


再び剣と剣が激突する。


火花が爆ぜる。


白光と血炎が天を染め上げる。


それはまるで二つの真理が、唯一の答えを巡って争っているかのようだった。


*


フレイヤは沙盤と神術の光幕に照らされながら、二柱の戦神の戦いを見つめていた。


剣戟の音は鉄槌のように何度も彼女の胸を打つ。


《兵法》の領域は絶え間なく未来を演算し続ける。


だが導き出される未来は、どちらも残酷だった。


一つ目はトールの勝利。


信仰は洪水のように彼へ流れ込み、もはや彼はあの愚直な青年ではなくなる。


唯一の守護戦神となるのだ。


だがその勝利は解放ではない。


永遠に戦神の座へ縫い付けられ、終わりなき戦争へ沈んでいく未来だった。


二つ目はアレスの勝利。


その時、世界には一つの真理だけが残る。


「戦争だけが人を守る」


純潔も。


愛も。


美も。


すべてが弱さとして切り捨てられる。


彼女が大切にしてきたものは幻想となり、人々の心から枯れ果てるだろう。


フレイヤは無意識にスカートの裾を握り締めた。


どうしようもない無力感が胸を締め付ける。


視線の先では、トールとアレスの剣閃が雷光のように走り、衝撃は雷鳴のように轟いていた。


まるで群れの王を争う二頭の獅子。


二人は完全に戦いへ没入していた。


その轟音はアレスの神術によって全土へ届けられる。


村々へ。


町々へ。


人々は空を見上げた。


黒紅と白光。


二頭の竜が天地を舞うように激突している。


火花が散るたびに歓声が上がる。


「アレス! 我らを守る王よ!」


「トール! 本物の勇者だ!」


人々の心は熱狂に染め上げられていく。


恐怖も。


苦痛も。


忘れていく。


残るのは勝者への渇望と、力への賛美だけだった。


信仰は奔流となって二柱の戦神へ流れ込み、戦いはさらに激しさを増していく。


フレイヤは悟っていた。


今さら何をしても止められない。


この神戦は結末まで進むしかない。


彼女は見つめることしかできなかった。


アレスの黒紅の剣は語る。


戦争こそ唯一の守護だと。


トールの白光は叫ぶ。


勝利と庇護への渇望を。


二つの力は世界そのものを引き裂きそうなほど激しく衝突していた。


だが、その中でフレイヤは奇妙な違和感を覚える。


剣と剣の隙間に。


何かが欠けていた。


暴力ではない。


復讐でもない。


狂信でもない。


兵法でもない。


トールの笑顔はもう純粋ではない。


村人の涙を慰める者はいない。


兵士の苦しみを理解する者もいない。


彼女が最も大切にしてきたもの。


それが失われていた。


純潔。


それは戦場の轟音に埋もれ、忘れ去られていた。


だが、だからこそ。


彼女の中でより鮮明になる。


純潔とは弱さではない。


戦火に心を呑み込まれないための力だ。


その瞬間だった。


フレイヤの領域が微かに震える。


それは戦神の剣撃のような輝きではない。


静かな白い光。


取るに足らないほど小さな輝き。


だが誰にも見向きもされないその純潔だけが――


運命づけられた結末を書き換える可能性を秘めていた。


フレイヤは唇を噛む。


戦場を見据えながら、心の中で祈った。


(トール……)


(奪われないで)


(せめて……なぜ戦うのかだけは忘れないで)


*


戦鼓のような剣戟が天地を震わせる。


アレスとトールは燃え盛る二つの炉のようだった。


人々の信仰と歓声を吸収し続けている。


戦神の威光は、もはや世界規模の祭典となっていた。


「アレス! 勝利はお前のものだ!」


「トール! 俺たちを守ってくれ!」


歓声は天を突く。


すべてを飲み込もうとしていた。


フレイヤはその傍らに立ち尽くしていた。


信仰の奔流は二柱の戦神へ向かう。


彼女の《純潔》は、ほとんど見えないほど微弱だった。


理解していた。


この祭典の本質は、自分を淘汰することなのだと。


愛を。


美を。


純潔を。


だが。


その歓声の海の中に。


わずかに違う声が混じっていた。


それは雄叫びではない。


すすり泣きだった。


家族を失った女性が、子どもの手を握り締めながら祈る。


「もう戦争なんていらない……どうか平和を……」


かつてトールに励まされた子どもが、小さく呟く。


「あのトールおじさんのままでいて……怖い人にならないで……」


そして。


フレイヤの祝福を受けた少女が、そっと両手を合わせる。


「女神様の純潔が……消えませんように」


その声はあまりにも小さい。


だが戦火の中で揺れる蝋燭のように確かだった。


フレイヤの胸が震える。


逆流が生まれていた。


小さい。


弱い。


けれど本物だった。


純潔はまだ死んでいない。


戦火の中でなお愛と美を守ろうとする者がいる限り。


その光は――


最後の希望となり得るのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。