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分断の回廊

職人たちの手によって切り拓かれた純白の迷牢の最奥。

和泉たち三十機の牙が歩みを進めた先で、空間が唐突に開けた。眼前に立ちはだかるのは、これまでとは比較にならないほどの重厚さと、禍々しいデータトラフィックを放つ「中枢への扉」だった。


「大隊長、間違いない。この奥が中枢だ」

データリンク越しに小島が告げる。

前衛として先行していた和泉、源田、佐々木、岩本、峯崎の五機が扉へと接近し、後続がそれに続こうと陣形を整えかけた、まさにその瞬間だった。


頭上の空間が激しく鳴動し、空間全体が不気味にきしむ音を立てた。

天井の装甲板が一斉にパージされ、巨大な隔壁が真上から落下してくる。先行する五機と、後続の二十五機を物理的に分断するための悪辣なトラップだ。


同時に、パージされた天井の広大な隙間から、無数の防衛兵器が滝のように雪崩れ落ちてきた。先ほどのステルス機体ではない。重装甲を備えた、純粋な「暴力の群れ」だった。


「上から来やがったか」

酒井が『紅』の力を使い、全身から溢れ出す熱量と共に落下してくる敵の群れへ向けて跳躍する。彼は自身の得物である巨大な近接刃を猛然と振るい、空中の敵を次々と一閃の下に葬っていく。だが、降り注ぐ敵の数はあまりにも多すぎた。


「小島、金子!」

和泉が叫ぶ。落下してくる分厚い隔壁の真下に、歩みの遅い支援機の小島と金子が差し掛かっていた。和泉が救出のために『紫』の力を引き出そうとした、その時だった。


空気を叩き潰すような猛烈な風圧と共に、落下してくる何千トンもの隔壁の下へ、一筋の影が滑り込んだ。

寡黙な戦闘のプロ、伊達だった。


伊達は言葉を発しない。彼は自らの機体が下敷きになる寸前の速度で、その分厚い鉄拳を振るった。小島と金子の機体を庇うようにして、強引に「向こう側」――安全な和泉たちのいる中枢側へと二機を突き飛ばした。


直後、和泉たちの目の前で分厚い隔壁が床に叩きつけられ、逃げ場のない爆風が回廊を駆け抜けた。


「伊達……」

突き飛ばされた衝撃から体勢を立て直した小島が、閉ざされた壁を見つめて息を呑む。

伊達のその無骨な行動からは、仲間を救い、そして自分は残るのだという鋼のように固い意志が伝わってきた。


これで和泉たちの側には七機が揃った。

だが、完全に閉ざされた隔壁の向こう側には、伊達を含め、酒井、菅野、杉田たち二十三機が残されている。


「酒井、そちらの状況はどうだ」

和泉は乱れる通信のノイズを無視し、落ち着いた声で隔壁越しの近距離通信を入れた。

敵の駆動音と激しい交戦音が漏れ聞こえる中、酒井の不敵な笑い声が返る。


『問題ない、大隊長。……ここは、俺たちが塞ぐ』

「酒井中隊長の言う通りです」

第三小隊長の菅野が、冷静な声で続いた。

「俺たちはここで、アンタたちが帰ってくるための『帰り道』を守る。だから、さっさと奥のデカブツをぶっ壊してきてください。一匹たりとも、アンタたちの背中には行かせない」


彼らの声に迷いはなかった。

前衛が中枢を叩き潰す間、背後を死守し、全員で明日へ帰るための道を繋ぎ止める。それが自分たちの果たすべき役割なのだと、言葉を尽くさずとも理解し合っていた。


その時、和泉たちの通信帯に、硬質な金属を規則的に打ち鳴らすような打撃音が響いた。

伊達が、閉ざされた隔壁の向こう側から、自らの鉄拳を壁に打ち付けて鳴らしているのだ。


「……モールス信号か」

小島が即座にそのリズムを読み取る。

短音と長音が紡ぎ出した、不器用で、だがこれ以上なく力強い伊達からのメッセージ。


『――行け』


そのたった二文字に込められた、絶対的な信頼。


和泉は分厚い隔壁へと一度だけ視線をやり、その向こう側で無数の敵に立ち向かっているであろう二十三機の背中を、心の中で真っ直ぐに見つめた。

悲壮感はない。あるのは、必ずここで再会するという確信だけだ。


「……わかった。ここは任せるぞ」


和泉は短く応えると、操縦桿を強く握り直した。

仲間たちが命懸けで守り抜く「帰り道」を背に、七機の精鋭は真の決戦の地へと駆け出していった。

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