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衝突

強襲揚陸艦の下層ドック。昨晩の宴会の余韻が微かに残る朝の空気の中、アグレッサー大隊のパイロット百五十五名と、彼らを支える大勢の整備兵たちは、和泉の前に整列していた。

彼らの視線の先には、昨夜和泉たちが解体した「最新鋭パーツ」の残骸と、そこから引きずり出された不気味な隠しロガー、そしてキルスイッチの基盤が無造作に転がっている。


「……というわけだ。上の連中がよこした手厚い褒美には、ご丁寧に俺たちをいつでも爆殺できる首輪が仕込まれていた」


和泉の淡々とした説明に、ドック内には激しいどよめきと、静かな、だが狂暴な怒りが広がっていく。


「ふざけやがって……!」

「一緒に血を流した相棒に、そんなモン組み込めるわけねえだろ!」


「ああ、その通りだ。だから俺たちは、あの支給品を一切使わねえ」


和泉は荒ぶる部下たちを手で制し、きっぱりと言い放った。


「午前中のうちに、手持ちの旧式パーツとありったけの予備資材で全機の修理を終わらせる。見栄えは悪くなるが、中身のわからねえ毒リンゴよりは百倍マシだ。……作業、かかれ!」


「「「了解!!」」」


怒声にも似た返事が響き渡り、ドックは一気に戦場のような熱気を帯びた。


しかし、整備を開始してすぐに深刻な問題にぶつかった。小島や源田、伊達を中心に、旧式パーツのニコイチ作業を急ピッチで進めたものの、激戦を経た百五十五機を補うには、圧倒的にまともな部品が足りなかったのだ。


「大隊長! 関節パーツの在庫が底を突きました!」

「駆動系のバイパスも足りねえ! 艦の予備じゃ全然追いつかないぞ!」


整備兵たちの焦燥の報告を聞き、和泉は咥えた煙草の煙を吐き出した。


「……だったら、ここを守ってる現地部隊から融通してもらう。小島、金子、海防隊の連中のところへ行って『機体を、使える資材ごとくれないか』と言ってこい。使えるモンは全部引っ張ってくるんだ」


和泉の指示で、古参のメンバーたちが基地を守備している現地部隊へと交渉に走った。「国を護る英雄」としての知名度だけでなく、最前線で命を懸けてきた彼らの言葉には重みがあった。現地部隊のパイロットや整備兵たちもまた、上層部のやり口に不信感を抱いていたこともあり、「アグレッサーの頼みなら」と、快く自分たちの予備機体や資材をドックへと持ってきてくれた。


「俺たちの機体だ、好きに使ってくれ! その代わり、整備のコツを少し教えてくれよ!」


現場の兵士たちの熱い協力によって物資は集まり始めたが、それでも輸送の手配や整備兵の絶対数が足りず、作業は難航した。午後の早い時間に差し掛かっても、改修と整備が終わったのは全体の三分之二程度だった。


そして、最悪のタイミングで「それ」はやってきた。


「……ずいぶんと散らかっているな、和泉大隊長。我が軍が誇る最新鋭パーツの組み込みは、まだ終わっていないのか?」


ドックの入り口に、ピカピカに磨き上げられた革靴の足音が響いた。

総司令部から派遣された視察団の将校たちが、護衛の憲兵を引き連れて傲慢な態度で現れたのだ。将校は、格納庫の片隅に「未開封」のまま山積みにされている最新鋭パーツのコンテナを見て、不快げに眉をひそめた。


「どういうつもりかね? 貴重な国家の財産を放置し、こんなガラクタで機体を継ぎ接ぎするとは」

「ああ、そいつのことか」


和泉は油まみれの手をウエスで拭いながら、ゆっくりと将校たちの前へ歩み出た。

その後ろには、中隊長や小隊長を務める面々が、無言の圧力をもってズラリと並び立つ。


「俺たちの『戦友』に、薄汚いゴミを混ぜようとした輩がいたみたいでな。……不良品は全部、そこのゴミ箱に突っ込んでおいた。俺たちは俺たちのやり方で整備させてもらう」


和泉が顎でしゃくった先、ドラム缶のゴミ箱の中には、引きちぎられた盗聴器やキルスイッチの配線がこれ見よがしに捨てられていた。


将校の顔が、怒りで一気に朱に染まる。


「貴様ら……! それが上官に対する態度か! これは明確な命令違反だぞ!」


将校は喚き散らしながら、和泉の背後に立つ小島、金子、片倉、酒井たち古参の将校たちを睨みつけた。


「小島、金子! 貴様らは元々、総司令部でもエリートコースに乗っていたはずだ。片倉や酒井もだ! そんなならず者に付き従えば、貴様らの軍歴に傷がつくぞ。二度と昇進の道はないと思え! 今すぐその男を拘束し、命令に従え!」


出世と保身を盾にした、あからさまな脅し。

だが、名指しされた四人は顔を見合わせると――ドックに響き渡るほどの大声で、腹の底から笑い出した。


「はっはっは! 昇進だと? エリートコースだと?」


小島が涙を拭いながら前に出る。金子も呆れたように肩をすくめ、将校へ冷ややかな視線を向けた。


「肩書きやバッジが、あの大群から俺たちの命を救ってくれたか? 違う! この戦場において、俺たちが背中を預けられるのは、絶対に諦めず、最前線で泥水を啜りながら、人類と……この鉄の『仲間』たちのためにまっすぐ戦い抜く男だけだ」


酒井が静かに、だが揺るぎない声で言葉を継ぐ。


「勘違いしないでいただきたい。俺たちが入隊時に宣誓し、命を懸けているのは『この国と民を護ること』であって、安全な地下室にふんぞり返る『軍部』に媚びへつらうことじゃない」


片倉が、前へ立つ和泉の背中を指差して力強く頷いた。


「(……伝えるとめんどくさい。このままいくか)」なんて無茶な脱出プランを平気で一人で抱え込んで、最前線の泥水の中で誰よりもその誓いを体現しているのが、この和泉大隊長だ。俺たちはこの国を護るために、この男に命を預けると決めたんだ。昇進なんざ、犬にでも食わせておけ」


彼らの迷いのない言葉に――百五十五名のパイロットたちと、彼らと共に油と泥にまみれて機体を支え続けてきた大勢の整備兵たちが、一斉にスパナやアサルトライフルを打ち鳴らし、地鳴りのような咆哮を上げた。


その圧倒的な「現場の意思」と凄まじい殺気に当てられ、視察団の将校たちは顔を青ざめ、後ずさりする。


「き、貴様ら……後悔するぞ! 反逆者どもめ!」


将校は震える声で捨て台詞を吐くと、護衛の憲兵たちに怒鳴り散らした。


「引き揚げるぞ! こんな奴らにくれてやる物資はない! 最新パーツも、支給した食料も酒も、すべて残らず没収しろ!!」


数十分後。

総司令部の部隊は、昨夜気前よく置いていったはずのコンテナを、食料や水、生活物資に至るまで一つ残らず回収し、逃げるように去っていった。


空っぽになった格納庫。

残されたのは、いつもの泥水のようなレーションと、現地部隊から譲り受けた旧式パーツで継ぎ接ぎされた機体だけだ。

腹の虫を鳴らす若い兵士たちを見て、和泉が苦笑混じりに振り返る。


「……いいのかよ、お前ら。せっかくの出世街道をフイにしちまって。これでまた、当分は干からびたビスケット生活だぞ」


小島が愛用のレンチを肩に担ぎ、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。


「上等だ。毒入りのフルコースより、アンタと食う泥水の方がよっぽど腹の足しになるんでね」


大隊の面々は再び笑い合い、何事もなかったかのように作業へ戻っていく。

昇進も、豪華な食事も、最新鋭の兵器も失った。しかし彼らの手には、決して誰にも奪われない「国を護る戦士としての矜持」と、鋼鉄の戦友たちとの強固な絆が、確かな熱を伴って握られていた。

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