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出迎えの海

深海の暗闇を切り裂いて、一筋の強烈な紫の光が上昇していく。

その光を目指して真っ直ぐに潜行してきた百五十四の白銀の輝きが、水圧に軋む和泉の機体を温かく包み込んだ。


『捕まえたぞ、大隊長!』

『まったく、重てえ機体だぜ! 全機、スラスター全開! 大馬鹿野郎を引きずり上げるぞ!』


小島の声と共に、ボロボロの牙たちが和泉の『紫』の機体の四肢や装甲に次々と取り付き、上へ上へと強引に引っ張り上げていく。機体を失いコアだけで海に飛び込んだ者たちも、その白銀の力場を使って機体を下から懸命に押し上げていた。


そして、玄界灘の海面が大きく盛り上がり、膨大な海水が白波となって弾け飛んだ。


凄まじい水柱と共に、和泉と百五十四名の仲間たちが、ついに海面へと躍り出た。

分厚い雲はとうに消え去り、視界を覆い尽くしたのは、東の空から差し込む黄金色の強烈な朝陽だった。


「……ぷはっ! 眩しすぎんだろ、クソが……」


和泉は手動でコックピットのハッチを蹴り開け、潮風と朝陽を全身に浴びながら悪態をついた。

周囲には、海面に浮かびながら歓声を上げる小島や片倉、装甲の上でガッツポーズをする伊達たちの姿がある。


小島の機体が横に並び立ち、彼がハッチから身を乗り出して和泉を見上げた。


「和泉。全員で『帰る』んだろ」


その言葉に、和泉はフッと顔をほころばせた。


「……ああ、そうだな」

笑いながらそう返し、和泉はふと、小島たちの向こう側――黄金色に輝く海原の広がりへと視線を向けた。

そして、その光景に紫の瞳を見開いて息を呑んだ。


和泉たちを囲むようにして、海と空を埋め尽くすほどの「大軍勢」が展開していたのだ。


水平線を埋め尽くす海上防衛隊の護衛艦群。上空を分厚い雲のように覆う輸送ヘリや戦闘機の編隊。そして海面にホバー展開し、あるいは艦の甲板にズラリと立ち並ぶ、無数の人型兵器たち。

それは、九州戦線で生き残った部隊だけではない。四国の松山防衛線で死闘を繰り広げていた部隊や、本州から駆けつけた増援部隊。日本全国に散らばっていた、ありとあらゆる残存戦力のすべてが、この玄界灘に集結していた。


「……なんだよ、これ。お祭りでも始める気か?」

和泉が呆然と呟くと、小島がスピーカー越しに答えた。


『お祭りじゃねえよ。こいつらはみんな、アンタが海ごとぶった斬ったあの『黒い波』――敵の総攻撃を迎え撃つために、最終決戦の覚悟で全国から集結してきた連中だ』


本来ならば、あの落下してくる巨大母艦と、九州へ上陸しようとしていた無数の敵軍勢を前に、日本そのものの存亡を懸けた絶望的な総力戦がこの海で行われるはずだったのだ。

だが、彼らが死を覚悟して決戦の海へ準備していた時、空にあったはずの神の城は消え失せ、海を覆っていた黒い波は塵一つ残さず蒸発していた。


和泉と王、そしてアグレッサー大隊が、たった一部隊で日本の空を守り抜いてしまったのだ。


ザザッ……と、全軍の共通回線が開く音が響いた。

通信の主は、かつて和泉が背中を預けた松山防衛線の中隊長や、各地の司令官たちだった。


『……こちら総司令部。目標であった敵超大型構造物の消滅、ならびに敵大軍勢の完全な殲滅を視認した。……我々の出る幕は、最初からなかったようだな』


その声には、安堵と、信じられないほどの奇跡を成し遂げた者たちへの深い敬意が滲んでいた。


『全軍に通達。これより本作戦の目的を「最終防衛戦」から、「英雄たちの出迎え」に変更する!』


その号令が響き渡った瞬間だった。


『『『敬礼ッ!!!!』』』


海を埋め尽くす数万の兵士たちが。

甲板に並ぶ無数の人型機体が。

上空を旋回する航空部隊の翼が。


朝陽を背に受けて海面に立つ、満身創痍の『紫』の機体と、百五十四の傷だらけの牙たちに向けて、一斉に最大の敬礼を捧げた。

艦船からはけたたましい汽笛が鳴り響き、勝利と帰還を祝福する音が、日本の夜明けの海を震わせる。


『……和泉よ』


和泉の胸の奥底で、機体と同化した王が震える声で呟いた。


『これが、お前たちの星の……人間の姿か。これほどまでに美しく、これほどまでに暖かな光景を、我は悠久の時の中で一度として見たことがなかった』

「……そうかよ。なら、しっかり目に焼き付けておけ。これが、俺たちの護りたかったもんだ」


和泉はコックピットの上に立ち上がり、吹き抜ける潮風の中で、出迎えの大軍勢を見渡した。

血とオイルに塗れ、体中が軋むように痛む。だが、和泉の眼差しはすでに、この空の先――まだ敵に奪われたままの世界の果てを鋭く見据えていた。


「待たせたな、お前ら! 最高の出迎えだ!!」


和泉は空に向かって力強く拳を突き上げ、まだ終わっていない戦いの幕開けのために、再び熱く吠えた。


「ほかの大陸も取り戻すぞ! 行くぞ、ついてこい!!」


その言葉に、周囲を取り囲んでいたアグレッサー大隊の百五十四名も、彼らの機体に宿る忠臣たるコアたちも、そして海を埋め尽くす全国の兵士たちも、一斉に鼓舞と歓喜の雄叫びを上げた。


九州を取り戻すための絶望とのたたかいは、今ここに終わりを告げた。

昇る朝陽に照らされた彼らの帰還の航路は、ここから世界を奪還するための、輝かしい反撃の道へと続いていくのだった。

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