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お嬢様はエクソシスト  作者: 地野千塩


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最後の冬休み編(2)

 桜の家の別荘は木々に囲まれるようにあった。桜の住む屋敷よりはだいぶ小さい家だったが、赤い屋根は趣きがあって可愛らしい雰囲気だ。童話に出てきても違和感が無さそうな別荘だった。


 はじめて別荘地に足を踏み入れた直恵は緊張していたが、桜は実家にでも帰るようなリラックスした表情を見せる。


 今は冬だが、このあたりは雪はあまり降らないという。別荘に入ると暖房の暖かさに思わず頬が緩む一同だった。


 暖かいのはそれだけではない。


 迎えてくれた管理人夫婦・直也と歩美もハグをして出迎えてくれた。若い頃は、海外に住んでいたといい、スキンシップは普通のの日本人より過剰だったが、直恵の緊張もすっかり解けてしまった。


「よく来てくれましたよ。さっそくお茶にしましょう」


 管理人の歩美は笑って言い、さっそくリビングでお茶を飲む事になった。歩美は少々太った中年女性だったが、その分大らかで優しそうな雰囲気が滲み出ていて、第一印象も良い。


 直也は羊野の弟だというが、ちょい悪オヤジ風の雰囲気だった。ただ、妻の歩美と同様に大らかで優しい笑顔を見せる。


 二人とも悪霊が憑いてなく、霊的状態も良さそうだった。別荘の周りも地域の悪霊があまり漂っておらず、直恵は思わずホッとする。


 こんな管理人夫婦、桜、羊野と一緒に楽しむお茶は、直恵にとってかなり至福だった。お昼がサービスエリアでたらふく食べたのに、歩美が作ったクッキーやジャム入り紅茶が進んでしまyた。ジャムも歩美の手作りだという。確かに市販のジャムより優しい味がした。


「歩美さん、料理上手なんですね」


 直恵が素直に褒めると、歩美は笑顔を見せた。笑うと八重歯が見え、人懐っこい子犬のようで可愛らしい。


「ありがとう。料理でもなんでも主に見られていると思うと、頑張れるのよ、私は」

「その気持ちわかるわぁ。私も最近、神様に見てもらいながら勉強しているイメージ持つと、かなりはかどる」


 桜はそう言ってクッキーにジャムを塗って食べていた。かなりのハイカロリーだが、今日ぐらいはダイエットもお休みでいいだろう。直恵も桜と同じようにクッキーにジャムを塗って食べた。


「そうだ、直也。お嬢様方に新曲を披露したら、どうだい?」


 羊野は、何か閃いたように言った。ちなみに羊野は、別荘についたらいつもの燕尾服からジャージに着替え、すっかりリラックスしていた。まあ、今も桜の面倒を見るという仕事を受けているわけだが、仕事という感じではなくすっかりプライベートだった。


「新曲って?」


 桜は不思議そうに首を傾ける。桜意外の人がやったらかなり気持ち悪い仕草だった。こんな可愛い子ぶりっ子のような仕草さは、桜しか許されないだろう。


「実は俺、趣味でギターやってるんだ」


 直也はちょっと恥ずかしそうにはにかんだ。


 詳しく聞くと、昔はミュージシャンだったらしい。マイナーバンドだったが、メジャーデビューしてCDも三枚出したと語る。道理でちょい悪親父風だと直恵は納得した。


「すごいじゃない。メジャーいけるなんて」


 桜は興奮気味に笑っていたが、直也は微妙な表情だった。歩美も、少し顔が曇った。


「いやぁ。ミュージシャンの世界はなかなか厳しいよ。メジャーは特にね。レーベルの上の方から、サタンを讃える歌を作れって言われた時はブチ切れた」

「そんな」


 桜は直也が語る昔話に驚いていたが、直恵は深く頷きながら甘いジャム入り紅茶を啜る。


 音楽業界はすっかりサタンの遊び場だろう。雰囲気は善良そうなバンドでも歌詞、ジャケット、ライブの舞台演出が悪魔的なものはよくある。


 元々サタンは天使長ルシファーとして讃美歌を歌っていた。芸術、とりわけ音楽の分野は何が何でも牛耳りたいはずだ。直也がサタンを讃える歌を作れと言われる事も十分あり得る。


「ま、今は音楽作ってから足を洗えて幸せだ。メジャーに残ったバンド仲間は、言われた通りに悪魔的な曲を作ってたが……。早死や病気になったものも多いね……」

「そうね。成功するのが幸せというわけじゃないのよ」


 幸せそうな歩美に念を押しように言われた。成功するのが良いだなんてつくづくサタンが作ったこの世的な価値観だと改めて直恵は思う。成功しても、そこに神様がいなかったら何の意味がない。


「でも私、直也さんの新曲聴きた〜い!」

「私もですよ! 弟よ、新曲聞かせてくれ」


 桜と羊野がそんな事を言い、直也は別の部屋からギターを持ってきた。


 こうして直也のプチ演奏会のようなものが始まった。


 ギターといってもエレキギターではなく、優しい音色のアコースティックギターだった。


 全部讃美歌だった。


 歌詞は神様の栄光を表したり、御力を讃えるものだ。御言葉が引用された曲もある。


 元ミュージシャンという直也は、歌もギター演奏も上手だったが、心に響く讃美歌だった。まるで天国にまで届いていくようなイメージが浮かぶ。死んだらこんな讃美歌をずっと歌っていたいと思わせた。


 直恵も桜も思わず手を叩きながら、ハミングする。楽しいひとときだった。


 この場所には絶対悪霊は入れない。


 悪霊は御言葉も嫌いだが、讃美歌も嫌いだった。実は心から讃美歌を歌うだけでも、悪霊はすぐ逃げたりもする。聖書の第2歴代誌20章などを読むと讃美歌の力がよくわかる。


 このあたりで地域の悪霊がさほど活発に動いていないのも、直也がいつも讃美歌を歌っているおかげだろう。悠一も地域の悪霊を追い出す時は、讃美歌を歌う事があった(もっとも悠一は音痴だったが。讃美歌は技術的な事は関係なく、いかに気持ちを神様に向けるのかが重要だ)。


 一通り演奏し終えた直也は、満足そうに頷いた。


 直恵達も大きな拍手を送った。


「よく律法主義に人は、音楽や娯楽を否定するが、俺がそうは思わないね。元々文化や芸術は神様を賛美するものだ。実際、西洋ではイエス様の絵も多かったりする。要は誰に心を向けるかが重要さ」


 直也の言葉に一同深く頷いた。直恵も律法主義的に音楽などの娯楽を否定していた面もあったが、それはサタンに向けたものが多かったからだだろう。


「でも、今の音楽も小説も漫画も、神様から離れたものが多いわね」


 歩美は寂しそうに呟いた。


「そうねー。サタン礼賛ばかりね。でも、もう私は変な音楽聞かない。讃美歌だけで十分」


 桜はそう言って、クッキーにたっぷりジャムを塗り、幸せそうに頬張った。

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