最後の冬休み編(1)
羊野が運転する黒塗りベンツの後部席に直恵と桜が乗っていた。
今日から本格に的に冬休みだ。
これから高速に乗り、某県にある桜の家の別荘に向かっていた。
黒塗りベンツなど乗った事のない直恵の表情は、やや緊張感に満ちていた。
「淡雲さん、そんなに緊張しないでくださいよ」
「そうよー、直恵。私は毎日送り迎えして貰ってるポンコツよ」
直恵の隣にいる桜は、ケラケラと呑気に笑ってじゃがりこを食べていた。じゃがりこのカスが落ちていたが、それを見ていると直恵の緊張感は解けてきた。
「別荘は、羊野さんの弟さんが管理しているんですか?」
そんな事を小耳に挟んだので聞いてみた。
「ええ。弟の直也と奥さんの歩美さんが管理しているんです。と言っても普段は、直也は向こうで介護の仕事してるんですけどね。まあ、管理自体はほとんど歩美さんの仕事ですね」
別世界の話で庶民の直恵は怖気付く。とはいっても家つきの別荘管理の仕事も少し裏やなしくなってきた。
「別荘の近くには神社やお寺みたいのはある?」
直恵は不安な点を聞いてみた。
クリスマスは終わったとはいえ、年始は悪霊の動きが活発な時期でもある。とくに神社や寺で初詣する人が多いと、悪霊は大喜びだ。人々の願いと引き換えに悪霊を送って、その人の人生を破滅させる。
「ないですよ。あそこは別荘地で、ちょっとした観光地もありますけどね」
「よかったわ。除夜の鐘を聞かされると困るのよね」
「えー、どういう事? 直恵。除夜の鐘って問題なの?」
「あの鐘の音は悪霊呼ぶのよ」
この直恵も発言に桜も羊野もかなり驚いていた。
一般的にはそう悪いとされていない神社仏閣だが、所詮神様がいない悪霊ホイホイ施設。特に除夜の鐘は、あの音で悪霊達は大喜びしていた。
除夜の鐘のクレームがある地域もあるそうだが、その感性は正しいと思う。直恵はクレームを入れるほどではないが。そもそも除夜の鐘を肯定的に捉えている人は意味がわかっていないだろう。
毎年の行事でサラリと当たり前だと思っているはずだが、鐘=バアル=悪魔という説もある。日本でなんとなく根付いている行事も、意味を深く知ると全部偶像崇拝にいきつく。華やかなイメージの七夕や雛祭りも偶像崇拝的なお祭りだ。
神社の祭りも乱行パーティーがルーツのものが多い。男性器を象った御守りやオブジェを祀ってある所もあるし、しめ縄も蛇の後尾を象ったものだ。恋愛運が上がる神社も淫乱や姦淫の悪霊がついて一時期モテるだけで、縁結びとは言いがたい。縁切り神社もかえって不幸になった人のコメントも見た事がある。特に多くの人の悪い想念が集まる京都の縁切り神社は、迂闊に行く場所ではない。直恵はその神社の写真を見るだけでも悪霊を感じてしまった。
ちなみに大晦日の国民的テレビ・紅白歌合戦も舞台演出や歌詞の内容が悪魔的だったりする。一見華やかだが、画面越しでも悪霊の動きが感じられた。まあ、歌番組なのでちょっと試聴するぐらいなら大きな影響は無いが、のめり込んで熱心に試聴するとメンタルに大きな影響を与えるだろう。
本来、歌は讃美歌しか無いのだが、この世は悪魔の世界だ。歌も悪魔的なものが多い。悪魔も元々天使長・ルシファーだった。天使だった時は讃美歌も毎日歌っていた。歌を悪魔的にコントロールするのが、おそらく彼の中で優先度が高い。あまり律法主義的になるのは良くないが、世にある音楽を聴く時は注意が必要だと直恵は思う。
そんな事を考えていると、車内のラジオから激しいロックミュージックが流れた。
「なんだ、この音楽は。ごめんなさい。すぐ消しますよ」
羊野は慌ててラジオを消した。
直恵は普段、こう言った音楽は聞かないが、嫌な予感がした。こんな風に偶発的の流れる音楽は悪霊の攻撃だったりする。すぐに消えたが、車内に悪霊がふらついているのが見えた。
隣にいる桜はなぜか苦笑していた。
「さっき流れたロック音楽、篝火の歌ね」
「そういえば、あなた元バンギャだったわね」
直恵はすっかり忘れていたが、桜はバンギャだった。悪霊を追い出してから、そんな音楽には全く興味を持っていないようだ。実際、今はまるで興味が無いという。
「まあ、篝火の事は恨んでないよ。変な痛い音楽作ってたけど、早く神様に立ち返ってほしいね」
「そうね、桜」
「アーメンです。でも、日本がロックバンド人気ですね。少し聞くぐらいなら重度の影響は無いと思いますが、依存するのはダメですね」
羊野のちょっと苦々しい超えが響く。
気づくと高速に乗りパーキングエリアによった。
休憩がてら味噌ラーメンや唐揚げ、フランクフルトなどを楽しんだ。
食いしん坊な桜は、この寒い中なのにソフトクリームも楽しみ、自撮りもしてSNSに載せていた。あのYouTubeの騒ぎはすっかり落ち着いたので、自撮りをSNSに上げたい欲求がかなり強まっているようだ。
桜は楽しそうなので直恵もだんだんと気が抜けてきた。
年末年始の悪霊の動きは気になるが、別荘のそばには神社仏閣は無いという。全く悪霊が無いというわけでは無いが、それが無いだけでもホッとする。紅白歌番組も見ないで、桜と二人で御言葉の朗読をしていれば問題無いだろう。
「直恵、ソフトクリーム超美味しいよ!」
「良かったね」
「ええ、本当に爺の私はお嬢様の笑顔が生きがいです」
幸せそうな桜に直恵も羊野もすっかり毒気を抜かれていた。冷静に考えればサービスエリアの食事はそんなの美味しいわけでも無いのに、なぜか美味しく感じた。ちょっと浮かれていた。
別荘で過ごす冬休み。
きっとこんな瞬間の連続だろうと思っていた。




