悪霊の同士討ち編(10)
学校で起きたこの騒ぎはネットニュースで少し騒がれた。
まあ、悪霊の事件ではなく、原因不明の停電事故としてだったが。なぜか職員や生徒が原因不明な吐き気やめまいに襲われたという一文も掲載されていたが、悪霊の仕業だと言うものはさすがになかった。
似たような事件は、過去にもある。
コックリさんに手を出した子供が原因不明の吐き気やめまいに襲われて病院に運ばれたという。
十数年前の記事で、こちらも悪霊の仕業だとは書いていなかったが、直恵はそのせいだとしか思えない。
コックリさんも悪霊を呼ぶし、原因不明の吐き気やめまいも霊障のようだった。
悠一に聞くと、この手の事件が意外とあるらしく、コックリさんなどの霊媒行為は絶対すべきでは無いと言われた。
悠一の教会にもコックリさんに手を出して気が狂ったような状況の子供が来た事があるらしかった。その時は祈ってすぐ追い出したらしいが、迂闊に手を出すものでは無いという。
コックリさんと言うとカジュアルだが、完全なる悪霊を呼ぶ霊媒行為。霊障もあるだろうし、ひどい場合はその人の人生が乗っ取られる可能性があるようだ。やっぱりこう言った霊媒行為は気軽に手を出してはいけないと改めて思う直恵だった。
こんな騒ぎがあったものの、学園内は静かだった。クリスマスイブにイベントを開き、礼拝も行われたが、何事もなく終わった。
直恵や桜が目を光らせているので、悪霊も迂闊に行動できないようだった。25日の夕方には無事学園内クリスマスツリーも撤去された。
悠一の教会もクリスマス礼拝を行ったが、やはりこの時期は地域の悪霊がザワザワと動き、結局深夜まで悪霊祓いをしていた。
こうしてクリスマスも終わり、冬休みに入った。冬休みは桜から別荘に遊びに行こうと誘われた。さらりと各地に別荘があるという金持ち発言にビビってしまった直恵だが、今回の陽那の悪霊騒ぎではかなり疲れた。少しリフレッシュしたい。という事で桜の別荘に行きたいと思い、27日から年明けの3日まで行く事になった。
その前に冬休みが始まった初日の26日は、直恵と桜は市の病院に向かった。
陽那が入院している病院の行く為だった。あの後、陽那はしばらく意識を失っていた。一時は命も危ういぐらい心臓が弱っていたらしい。おそらく悪霊の攻撃とは思われるが、最近やっと面会できるまでに回復したと橋爪から聞いた。
という事で花、スイーツ、暇つぶし用に令美の少女小説をお土産にして陽那が入院している病室に向かう。
最近は感染者数がだいぶ減ったとはいえ、新型インフルエンザの騒ぎは収まっていないようだ。検温などもしっかりとし、看護師に病室を教えてもらった。やはり長居をするなと釘を刺されて、足音を立てずに静かに歩いて病室へ向かった。
大部屋だったが、陽那以外の患者は休憩に出かけているようだ。長居をせずに帰るつもりだが、運よく他の患者がいないで有り難かった。
「陽那ちーん、きたよ!」
桜はいつも通り無邪気な笑顔で挨拶したが、陽那はげっそりとやせていた。
上半身だけ身体を起こして、ぼんやりと遠い目をしていた。意外な事に陽那に悪霊は戻っていなかった。それどころか本当に憑き物が落ちたようなスッキリした顔で、何かに守られているような雰囲気すら感じるほどだった。
「桜、私、あなたの嫉妬してた。ごめんなさい」
しかも頭も下げてきた。この変化の直恵も目を丸くしてしまった。
「ぜいぶんと変わったね。何かあった?」
確かに死線を彷徨えば、何か悟るのかもしれないが、どういう事か聞きたくなった。
陽那は、ぽつりぽつりとここ数日の事を話してくれた。最近幼い頃の夢を見るそうだ。夢を見ながら、寂しい子供時代、「かみさま」に話しかけていたのを思い出したそうだ。
「かみさま」は一度だけ陽那の前に現れ「あなたの事は尊く、価値のあると思ってる」と言ったそうだ。
「すっかっ忘れたけど、確かそんな事があったのよね……」
ここで陽那は涙をこぼした。
この「かみさま」が聖書の神様かどうかはわからない。ただ、この事実を思い出したとき、涙が止まらなくなったという。確かに「かみさま」は、御言葉とも一致している。直恵は、陽那の記憶違いや勘違いには、どうしても思えなかった。実際、陽那は悪霊が戻ってきてないし、桜に謝罪までしていた。
「淡雲さんにも酷い事言った。ごめんなさい」
別人のようになった陽那を見て、直恵は深く頷いた。
「『かみさま』は、きっと神様の事だと思う」
「私も直恵と同じ意見だよ。イエス様はあなたの事を愛してるよ」
桜の言葉に陽那は、再び涙を落とした。この様子だともう悪霊が陽那に戻ってくる事はなさそうだ。
「でもイエス様に自分だけ見てほしいな。正直なところ、他のクリスチャンに嫉妬しちゃう」
「それは誤解よ、陽那。神様はどこにでも臨在できるお方だもの。あなたが信仰を持てば、あなただけのご主人様、神様になるのよ。その証拠に聖霊もくれるんだから」
「えー、そうなの? 直恵。初耳だよ」
「そう。神様の力は私達とは想像できないからね」
「そうなんだ、淡雲さん。じゃあ、私はもう寂しくないかも」
陽那は、頬の涙を拭って笑っていた。
こうして陽那の悪霊騒ぎは解決した。直恵や桜の力はほとんど使っていない。全部神様のおかげで解決できたようなものだ。
改めて直恵は、桜と陽那と一緒に神様に御礼の言葉と共に祈った。
クリスマスも終わり、ようやく直恵にも冬休みがきそうだ。
今年は桜の別荘に明日から遊びに行く。
何事もないと良いと直恵は思ったが、桜は「またエクソシストしたい」と騒ぎ始めた。




