悪霊の同士討ち編(9)
明らかに陽那じゃない。
悪霊がのっとられた状態の陽那を見て、さすがに桜や真澄も怖気付いて腰を抜かしていた。
二人が持っていた懐中電灯が床に落ち、変な方向に光が散らばるが、直恵は気にせず悪霊と会話して見る事にした。
正直怖いが、見た目は陽那そのものだ。少し冷静になってくる。
「あなた、陽那にずっと憑いていた霊媒の悪霊?」
『そうさ。陽那は孤独な子供だったからね。両親は敬虔ぶっている偽クリスチャンだったし、イージーに纏わりつく事ができたよ。ひひひ』
嫌な笑いだ。陽那が普段しないような邪悪な笑みを見せている。声のトーンも下がり、男みたいだった。演技でここまではできない。やっぱりこれは悪霊が言わせている。
「もしかして、あんたがいじめをするように影で糸引いた?」
腰を抜かしがらも桜が声をあげた。真澄は声を出せず、気が遠くなるぐらい怖がっていたが。
『そうだよ。桜に憎しみを持たせるように、こっそりこっそり悪い事を吹き込んだ。桜が陽那の悪口言ってるよーとか囁いてみたり』
「ちょ、ひどい! 私は陽那ちーの悪口言ってないから」
いじめの主犯が誰かわかって、桜は逆にホッとしたような表情を見せていた。悪霊にはこうして文句を言ってたが。
「本当、最低な悪霊ね。イエス様、こいつなんとかしてください」
桜がそう言うと、悪霊はビビりはじめた。やめろーとか、助けと情け無い声を上げる。
そんな悪霊の声など無視して直恵と桜は、悪霊追い出しを続けた。
なかなか執念い悪霊で、真澄にも応戦してもらった。といっても背後で創世記から聖書を朗読して貰っただけだが。
さすがに三人がかりで悪霊追い出しにかかられて、陽那についた悪霊はだんだんと弱り始めた。
『まあ、俺を追い出したっていいぜ? でもまた帰ってくるけど、いい?』
脅されもしたが、悪霊の同士討ちの祈りもした。
おそらく陽那には再び悪霊が帰ってくるだろうが、悪霊たちが同士討ちしている間に時間稼ぎができる。
陽那を説得のは難しいかもしれないが、とりあえず時間は稼ぐのがよいと思った。
すると、ツリーの飾りについている悪霊達が、口喧嘩を始めた。
陽那とツリーを依代にして生き生きしていた悪霊だったが、動きが止まった。
悪霊達も普段は親分のルシファーに忠実に動く僕だが、所詮悪霊。別にルシファーにすごい忠誠心があるわけもなく、普段の不満を口々に言い始め、喧嘩が始まってしまった。
陽那に憑いている悪霊も、明らかにダメージを受けていた。
あと一歩だ。
最後に桜が、悪霊達に「イエス様の足元へいけ〜」と呑気に言ったとき、すっと綺麗に消えてしまった。
同時に電気も回復し、エトランスホールに明かりが戻った。
他の職員達も回復したようで、何人かクリスマスツリーの方に近づいてきた。
陽那は目が覚めず気を失ったままだった。
結局、陽那だけ病院に運ばれる事になった。
悪霊が消え去った周囲は、空気も元に戻ったようで、もう変な匂いもしなくなった。
「こ、これで悪霊はいなくなったの?」
真澄は目をぱちくりと白黒させながら、周囲を伺った。
「ええ。とりあえずここの悪霊も陽那の悪霊は消えたわー」
「おつかれ、直恵!」
桜はポンと直恵の肩を叩く。
しかし、気が抜けてその場に座り込んでしまった。
「今回の霊媒の悪霊、しつこかったわー」
情け無い直恵の声が響き、同時に腹の虫もなった。
意識を失った陽那の事は気になるが、その前に空腹過ぎて直恵は死にそうだった。
直恵の腹の虫の声を聞き、桜と真澄は顔を見合わせた。そして吹き出すように笑っていた。




