悪霊の同士討ち編(8)
電気が止まった学校は、ゴーストタウンみたいだった。
ゾンビでも出てきそうな雰囲気だったが、残念ながら居るのは悪霊だった。
三人は、陽那を探すために空き教室に向かった。懐中電灯のおかげで三人の周りだけは明るいのが救いだ。
個々の悪霊を祓うよりは、陽那を見つけるのが先という事でまとまった。さっき、職員室で悪霊を少し祓ってみたが、案の定すぐに戻ってきた。
いちいち個々の悪霊を払っていくのは効率が悪い。悪霊を呼び寄せる門になっている陽那をとっ捕まえて、まとめて悪霊祓いをした方が早そうだった。
まあ、廊下にウロウロしている悪霊は邪魔なんで祓って行ったが。
「すっごい、淡雲さん。本当に映画みたいに祓うのねぇ」
こんな現場はあんまりお目にかかる事はないし、真澄はただただ目を丸くしていた。
「あ、桜。頭上に貧困の悪霊がいるわ。祓って」
「オッケー。貧困の悪霊よ、イエス様の御名前で命令する。出て行け〜!」
桜は気の抜けた声で言ったものだが、明らかに神様の御名前に反応し、頭上にいた貧困の悪霊が消え去った。
「朝霧さんもすっごいわ。まあ、私は悪霊見えないけど」
「私も直恵と違って見えないけどね。それぐらい神様は強いのよ!」
「私も祓える〜?」
真澄もエクソシストに興味を持ち、悪霊祓いしたいと言い始めた。
「まあ、一応クリスチャンで牧師と結婚予定の真澄先生でもできるけど」
渋々、直恵はエクソシストしたいと騒ぐ真澄に廊下にへばりついている暴食の悪霊を指差した。
「ここに暴食の低級悪霊がいるわ。これだったら先生も祓えると思う」
「きゃー、先生祓って、祓って!」
桜がはしゃいでいるものだから、この場はちっとも深刻なムードがない。むしろ呑気だった。
「じゃあ、祓ってみるよ! 暴食の悪霊よ、イエス様の御名前で命令する。でてけ〜!」
真澄も桜同様に呑気な声で言っただけだが、暴食の悪霊がビビり散らして逃げていった。やっぱり悪霊は神様の御名前が嫌いという事がよくわかる。
こうして廊下を歩きながら、悪霊を祓い、時には御言葉を宣言し、祈って陽那を探した。
あの空き教室にはいなかったが、エントランスホールのクリスマスツリーの前でぐったりと倒れている陽那を見つけた。
クリスマスツリーと陽那の身体を依代にしながら、悪霊がドバドバと行き来していた。まるで悪霊の蛇口みたいに見える。
何も見えない桜や真澄も何か感じとったらしい。
「何ここ、空気が重くない?」
「本当、朝霧さんの言う通り。何か空気が重いわね」
桜と真澄が、ぷるっと震えて自分の身体を抱きしめていた。確かにこの場所だけ、気温も低くなっているようだった。
明らかの悪霊への門が開いている。しかもかなち大きな門だった。
悪霊が見える直恵にとっては、クリスマスツリーは全く綺麗に見えない。むしろ悪霊の住処であるマンションと化している。
飾りの一つ一つのべったりと悪霊が棲みつき気持ち悪い。直恵は思わず顔を顰めた。
「陽那、意識ある?起きて?」
直恵はしゃがんで、陽那の身体を揺すった。
顔は真っ白で、そこに陽那の意識は全くかんじなかった。むしろ、触った皮膚から何か冷たい感触がし、直恵の全身が泡だった。これはもう悪霊に身体がのっとられているようだ。
覚悟を決めて直恵が、陽那を乗っとった悪霊に向き合った。
「出てきなさい、霊媒の悪霊!」
『呼んだか? エクソシストのお嬢さん」
陽那を乗っとった悪霊は話し始めた。陽那の口や身体を借りて。
見た目は陽那だったが、明らかに別人格が話しているいるように見えた。
「今から、あんたを追い出すけどいい?」
『嫌だ!』
断末魔のような悪霊の声が響いた。