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お嬢様はエクソシスト  作者: 地野千塩


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幻想物語編(6)

 書店を出た令美は、駅ビルの中にある百円均一に向かった。すぐのキッチン用品コーナーに直行し、包丁を眺めていた。多くは小さな果物ナイフだったが、令美に憑いた悪霊は『憎いやつ殺しちゃえよ』などと囁き始めていた。


 殺人などの犯罪は、本人が好き好んで犯した件もあるだろうが、背後にいる悪霊が裏で糸を引いているというケースもある。アメリカであった「サムの息子事件」という連続殺人事件の犯人は、サムという名前の悪魔に命じられたと述べている。


 他にも「犠牲者はサタンに捧げる」と言ったサタニストの事件はアメリカでよくあるそうだ。アメリカだけでなく、イタリアの看護師が悪魔に捧げる為、患者を殺した事件も直恵は聞いた事がある。カトリックでは相変わらず幼児虐待のニュースをネットを賑わせている。


 こんな風に近くで悪霊に囁かれると、抗えないのが人間なのだろう。神様を知らない人間は心が壊れている。悪霊の声に聞き従いやすい面もある。


 統合失調症と言われて病気も、悪霊の声が聞こえているケースもあるだろう。霊が見える直恵も医者からするれば病人だろう。霊が見える事は悠一と桜、エクソシスストえをしたホームレスぐらいしか知らないが。


 こんな事が知られたら、病院に行かされる可能性もある。そう思うと桜は、そういった行動をとらずすんなりと受け入れてくれた。今まであまり意識しなかったが、これはありがたい事だったのかも知れない。


 やっぱり人は誰かに肯定してもらいたい生き物だ。もちろん神様に認められればそれで良いと考える直恵だが、神様を知らない普通の人は人の評価に依存してしまうのは仕方がない。


 特に創作している令美にとっては人の評価は死活問題だろう。人間というのは自分勝手で、時によって好みも変わりやすい。小説の評価もウケるものは一定ではないだろう。


 令美の心が病みやすい環境にいるのも理解できた。昔の作家がよく自殺していたのも、別に不思議な事ではない。何か新しいものを創作する事は、想像以上のエネルギーがかかる行為である事は直恵でも想像できる。


 ただ、人間は愚かだから、そんな想像は完璧にうまくできない。出来上がったものをみて、好き勝手に感想を言い合う。聖書でも人を裁くなと書いてあるが、他人の背景や見えない努力など完璧に想像する事など出来ないからだろう。人はやっぱり神様ではない。自分の視点、思考、悟りだけに頼りがちだ。


「ちょ、直恵。令美さん、包丁を買おうとしてるわ。これは大丈夫なの?」

「大丈夫じゃないわね。やっぱり声をかけましょう」


 このままでは、実際の殺人に手を染める可能性もある。少し迷ったが、直恵は令美に声をかける事にした。


「えっ、なんであなた達いるのよ……」


 令美は、直恵や桜が尾行していた事など全く気づいていないようだった。けっこうバレバレであった気がするのだが。


「お料理でもするの? 100均の包丁がキレが悪いわ」


 桜の呑気な発言に、令美も気が抜けたらしい。ポロポロと涙をこぼした。


「ダメよ、私なんか。私なんか全然ダメなのよ……」


 顔を真っ赤のして泣く令美に、他の客たちがジロジロと見てきた。この場所に居続けるのはまずい。


 泣く令美に拒絶の悪霊や自己否定の悪霊もワラワラとよってきて、この場所にいるのは不味そうだった。


 こうして直恵と桜は、悠一の教会に令美を連れていった。


 運が良いのか悪いのか定かでは無いが、悠一は近所の悪霊を祓う為に出かけてしまっていた。


 令美は礼拝室の信徒席に座らせると、気を失ってぐったりとし始めた。


『よくも教会なんかに連れてきたな!』


 令美に憑いた殺人の悪霊が暴れて、報復をし始めた。

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