勇者はやられる20
翌朝、朝日を感じて怠い体を起こす。
「俺……いつの間に寝ていたんだ?」
どうもその辺りの記憶がない。
ぼんやりとしているとレオが部屋へと入って来る。
「シーおはよう。皆、朝食を食べる為に下へ行っているぞ」
そう言われて部屋を見回せば確かにセイがいない。
「起こしてくれても良いのに」
ぼやくように愚痴ってしまう。
同室なんだから起こしてくれても良いだろう。
きっとレオなら見捨てないと思うんだ。
「今からだと出発まで食事を摂るのは難しいから宿の女将に軽食を頼んだ。馬車の中で私と一緒に食べよう」
レオはそう言うと俺に上着を取ってくれる。
「ごめん。俺に付き合わせてくれたんだな。ありがとう」
上着を着ながらレオに感謝する。
やっぱりレオはお母さんみたいな人だな。
そう再認識してしまう。
「いや、こちらも殿下と一緒に朝食を摂らなくて良い理由になったから逆に感謝だ」
レオは笑いながら俺の頭を撫でる。
まるっきり子供扱いだけど、なんかこそばゆい。
それと、殿下と食べたくないとは何故だろう?
普通の貴族なら王族と仲良くしたいだろうに。
「朝食が終わるまで少し時間があるから話をしようか」
レオはそう言うと近くにある椅子に座った。
「アスベル殿下の事で言っておかなければならない事がある。シーは片田舎に住んでいたのだから、そう言う政治的な事は知らないだろう」
レオはそう言うと目線で俺に座れと合図する。
促されるまま俺はレオの向かいに静かに座った。
何せレオは俺の義兄になるのだ、従うのが下の者の勤めだろう。
「今の第一王子と第二王子の母君は、現在の王妃が来る前までは王妃だった方だ」
つまり、今の王様には奥さんが二人以上いるという事か?
「名前はエメリア様と言われ、ユステル侯爵のご令嬢だった方だ」
レオはそう言うと俺の顔をじっと見る。
「アスベル殿下の母君は第二王子が生まれた翌年に隣国から嫁がれて来た。勿論既に王妃は居るが、身分的に王女だった方だ。エメリア様が側妃になる事で両国で条約が結ばれた」
何となく後だしじゃんけんみたいな感じだな……と思った。
「勿論、次期王太子には側妃の王子ではなく王妃の王子がなるのが習わしなのだが……」
レオはそこまで言うと言葉を区切る。
「アスベル殿下はこちらの国に王女が嫁がれて7ヶ月でお生まれになった……臣下は皆疑惑を持っている」
そりゃそうだろう。
歳月の計算が合わない。
「早産だったとの話もあるが、お生まれになられた殿下は普通の子供と同じように育ったそうなので、更に疑惑が深まっている」
そりゃそうだ。
「今回の勇者選定でも怪しい事があるんだ」
レオは俺の右手を掴むとそのまま自身の方へと引く。
「この光の紋様にはお互いが共鳴し合う性質があるらしい」
すると、俺とレオの紋様が光輝く。
「仲間が何処に行っても直ぐに出会えるようにだと思うんだが、殿下には何も感じられなかった」
「そうなのか?俺からしてもレオとセイにも何も感じないぞ」
その共鳴するってやつだな。
「普段は何も感じない。相手を強く思ってこの紋様に魔力を流し込めば何となく相手の方向とかが分かるんだ」
レオはそこまで言うと俺の手を離す。
「明日、洗礼が終わればシーにも加護が付き光の紋様の使用の幅が広がるはずだ。だから……」
レオは俺に深々と頭を下げる。
「私達の親友にして主でもあるアルベルト殿下を見つけて欲しい。彼は今行方不明になっている。そして、幼い日に見た彼の右手の甲にも紋様が確かにあったんだ。だから……きっと見つかるはずなんだ」
それって……アスベル殿下は勇者の偽者って事か?
正直その事実にほっとした。
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