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祟られdie

今日もまた目が覚める。蒸し暑い夏の湿気が部屋に充満している。そして僕の喉に若干の違和感があった。先日の"アレ"のせいかもしれない。

もう一度枕に頭を沈めて、じっくりと昨日の"アレ"を思い出そうか。


登尾山は寒かった。山頂近くまでは片道で3時間。断崖の急斜面を自分の足で登らなければならない。

昨日は雨が降っていたので登路はより険しかった。山頂は雨雲とは別の雲がかかっていて視認すらできなかった。


そんな悪天候だったのになぜわざわざ山を登ったのか。


昨日のアレは明らかに異常だった。


いつもは大人しいはずの結衣が昨日だけ、登尾山についてだけ、アレについてだけ、誰よりもハキハキと僕にその思いを伝えてきたのだ。


「7月の晦日に高尾山に島の最も若い男子が登らなければならない。」


この島には小学生もいれば幼稚園児もいる。ではなぜ僕が選ばれたのだろう。


けれど結衣は僕にだけ登るよう何度も求めてきた。


それはなぜだろうか。けれども僕は快く結衣と約束をした。その約束が一週間前。そして当日、大雨。



「今日は大雨だから難しいかも。」

「登って。約束」


「…わかったよ」


かくして僕は大雨の中、山頂を目指した。


山頂に着いた時、僕の手持ちの水筒は空だった。汗は服の中を滝のように流れていき、靴の中は自分の汗で湿っていた。

山頂を少し歩いていると、さらにもう一段小高い丘があることに気づいた。苔むした石段が奥の方まで続いている。あたりに生えている木々の幹に、白い布がいくつも巻かれていた。全ての白い布に「蛇」と赤い文字で書かれていた。

けれども、そんなものに怯える必要はない。僕は長靴と長ズボンを履いている。蛇に噛まれる心配はない。

もう一度、奥を見た。

石段がいくつも続いているさらに奥。それこそが、結衣が僕に登尾山に登るように命じた理由だったのかもしれない。


第一段に足を乗せた。

雨で濡れた石はよく滑る。何度も姿勢を崩しながら僕は100段を超える参道を登る。杉の木の間を縫うように続いている石段を登りきる。否、登りきった。


そんな僕の前に広がっていたのは目を疑うような光景だった。高尾山は針葉樹林で覆われている。なのに目の前にスギもヒノキも一本もない。自然林と呼べるような、管理されていないであろう樹林がそこにはあった。倒木があたり一面にある。


先ほどまで降っていた雨もそこにはなく、雨雲も空にはなかった。雲ひとつない快晴だった。


鳥居があった。

頭の上に聳えていた。


文字かすれていたが、なぜか読めた。


「菊蛇神社」


鳥居をくぐった。

本殿に向かった。


そこにも白い布が貼られていた。「菊」の赤文字だった。帰り際、記念に持ち帰ろうと、一枚だけ白い布を引き剥がした。

「蛇」と書かれたその白い布は僕の手の中に包まれていた。



ふぅ。

一息吐いた。とりあえず、結衣に昨日のことを伝えようと携帯電話を開いた。画面には新着メッセージがあった。莉花からだった。深夜1時。

一体なんだろう。


『結衣が迷子らしい。どこにもいない。』


携帯電話が手から離れる。

鈍い音が聞こえた。


辺りを見回す。

あの記念の布はどこに行ったのだろう。

窓を見ると、赤い手の跡がいくつもあった。

誰かが部屋の中にいる、そんな気がした。


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