第二十三話 朔仁という捨て子
「これ。」
封筒に入った僅かな紙が音を立てて机に置かれる。
「・・・お母さんっ。」
「もしもし、はい〜!紗҉梨҉恵҉ です〜。ああ、この前の件ですね!その節はどうも〜。」
電話にでると女の口調が変わった。喉が渇くような甘さだ。
母は時々家に帰ってきてお金を渡しておいていく。もう少し小さい頃はまだ家にいたそうだが、今は一言だけだ。次第に母は一言も言わずお金を置くだけになり、しばらく経ったある日、いつもあるはずのお金がなかった。
それから俺はお金がないのに商品を買おうとし、異常を察した店員に警察にだされたらしい。
らしいというのはその頃の記憶がほぼないからだ。母親の顔も声も名前も今となっては思い出せない。この名前も本名かどうか怪しい。市役所で母親の息子らしき名前を見つけて、その名前にしたらしい。
生年月日・誕生日も一応あるが、本当に俺のなのかは検証のしようがない。
一度、母を見てみたい___そう思い、市役所へ行ったこともあった。
「あの、俺の母を探していまして・・・。」
「はい。母親ですね。お名前を伺っても?」
「田中朔仁です。」
「はい。田中様。・・・・・・あ。」
職員はパソコンに映し出された情報を読み、思わず言葉がでたのだろう。
「た、田中様のお母様の名前は、吉田紗梨恵、現在は再婚し子どもが___。」
「あ、やっぱり大丈夫です。すいませんお手数をおかけして。」
職員さんが一瞬だけ躊躇ってすぐに作り笑顔で対応してくれた。職員さんが見つけた人は俺の母親であっているんだろう。紗梨恵___俺の母親は紗梨恵だったのか。
「お、お役に立てず申し訳ございません。お気をつけてお帰りください。」
職員は深々と頭を下げた。この人はいい人なのだろう。ものすごく。見ず知らずの俺のために躊躇ってくれたのだから。
俺は覚悟できていなかった。母の現状について聞く勇気がなかった。だから俺はその日、帰った。
母の詳細が分からなかったモヤモヤがなかったのは、あの職員さんに頭を下げさせてしまったという罪悪感が肩代わりしてくれたからだろう。いや、もっと別のなにかが上塗りしたのかもしれない。
「俺は母親に捨てられたんだ。名前も生年月日も正確かどうか・・・。そんな環境で育ったからか俺は口下手で、この前も本当に分からなかっただけで・・・。でも、皆を___皆様を深く傷つけてしまったことをお詫び申し上げます。本当にごめんなさい。」
リビングで若竹一家が集まり、朔仁の話を聞いた。
「そんなことが・・・。」
「・・・。」
『朔仁くんは多分、悪気なく言ったのよね?』
『うん。なんか朔仁くん、本当に悪気なさそうだった。』
墓参りから帰ってきた後、メッセージでのやり取り。
そうだ。母と寛蓮のいう言う通りだ。あれは、本当に悪気がなかった。・・・本当に弔う気がなかったんだ。
『朔仁くんが気付いた後は、瑛華に任せようか。それでいいね?』
『了解!(スタンプ)』
スマホをしまい、深呼吸をする。
「・・・。任せる、か。許していいの?お姉ちゃん。」
「朔仁・・・。私も昔の話をしようと思う。」




