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ルノと旅する吸血鬼  作者: 立木ヌエ
トワイライト編
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ダスク発トワイライト行き

 ここはトワイライトのとある土地。

 レンガ造りの街でも一際目立つ屋敷……その中の開けたホールにて、多種多様な吸血鬼狩りが集結していた。


『あーいよいよ最初のプラン始動だな——』

『まだ着いてないやつらは何してんだよ。アンディとドミノもいない? またかよアイツら——』

『他にもまだ着いてない子がいるらしいわよ。上位席も全然いないらしいし——』

『二席とか三席は地方にいるって話だよ——』


 部屋の中から聞こえる同僚たちの話し声に、桃色髪の少女ユミアは手を引っ込める。


「……ほとんど集まってる、かな……」


 招集された吸血鬼狩りたちは皆実力者。ユミアでもそう簡単には勝てない者たちだ。

 国に散開したままの中程度の実力者たちとは訳が違う。


 つまり、迷い続けるユミアはこの中では完全な孤独にある。


「はぁ……」


 屋敷に入るまでは出来たと言うのに、それより先に進む勇気がない。

 こんな時、誰か一緒にいてくれたら……


 迷いのうちに頭に浮かび上がるのは、今日も昨日もずっと考え続けている疑問だ。


 本当に計画が人々のためになるのか?

 わたしたちは正しいのか?


「……ボスに聞かなきゃなんだ」

「何を聞きたいんだい?」

「ッ!」


 冷や汗がジワジワと湧き出る。

 甘く溶けるような声が背後から脳内に侵入し、体を支配してしまうのかと錯覚する。


「ぼ、ボス! 驚かさないでください!」

「あはは、すまないねユミア。何やら思い詰めているようだったからね」


 ユミアは振り返ると衝撃で固まってしまう。


 勘弁して欲しいといったふうに手のひらを見せるのは白いロングコートを着た男。

 目の前にいるのは確かにボスだ。感覚で分かる。


 名前は愚か、素顔すらその赤い瞳しか見えないという明らかに怪しい様相。


 それが共通の認識だったのだが……


 目の前に立つ男は藍色の髪を整髪料で軽く整えた爽やかな顔立ちで、これまでフードの下に隠れていた素顔が露わになっていた。


「ああ、私がフードを外しているからか……いやね、私もそろそろ同志に顔を隠すままでいるのは良くないと思ってね」

「皆より先のお披露目になってしまったね」


 ボスはそうして微笑む。

 なんて優しい笑顔だろう。慈悲という言葉はこの人の為にあるんじゃないかと思ってしまうほどだ。


「改めて挨拶はするが、私はログネスという名前なんだ。これからは呼び捨てで呼んでもらって構わないよ」

「あの……と、唐突すぎて慣れないです」

「それもそうだ」


 紳士的に静かに笑うログネスは、ユミアの肩に手を置くと、そのまま扉を開く。


 それを見た吸血鬼狩りたちが歓喜し、祝福を叫ぶ。


 ——さらに、いつの間にかその斜め後ろには透明感のある銀髪をなびかせた少女が立っている。

 華奢な体に長いドレス。しかし纏うのは強者のオーラ。ユミアにも一切の油断が許されない相手。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 いつ、いつから。いや、まさか初めから居た……?


 こんな事は初めてだ。初めて出会った。しかし、分かる。あれはボスの右腕の——


「あ……」


 いつ現れたのかを考える間もなく、ユミアは熱気に包まれる。


「質問なら後で聞こう。大丈夫だ」


「我々の結果は約束されている。長すぎた過程もすぐに忘れてしまえる程の偉業が、眼前にあるんだ」


 ログネスの嬉しそうに笑う瞳が、ユミアの脳裏にこびり付いた。





 フラレスを出て二週間弱、ルノ一行はトワイライト近くの港町ダスクへとたどり着いた。

 幾日の航海を経て足を踏み入れる大地、後ろから潮風がルノを押し出すように背中に吹く。


 その風を自分のものにするかのように、ルノは足を一歩さらに一歩と踏み出す。


 そして、新たな町を見渡すと深く息を吸い込む。

 この町自体はあまり大きくないが、ルノが禁書で見たトワイライトに似たような造りでかなり発展しているという印象を受けた。


「さっきも確認したけど、ここからトワイライトは駅馬車が出てるから、それに乗れば数時間で着くよ! ちゃっちゃと乗っちゃおー!」


 後ろから歩いてきたメルトが手を振り上げる。

 その後ろからルノに並ぶようにアーヴァンスが歩いてくるのを見ると、ルノはアーヴァンスに向けて尋ねる。


「そうなんだ……アーヴァンスさん、なんでこんなにいろいろ新しいの?」

「ダスクは、ほぼトワイライトみてぇなもんだァ。都市間協力だとか言ってトワイライト側から金が出てるから小せぇ割には発展してんだァ」

「アーヴァンスさんって結構物知りだよね」

「結構ってなんだァ」


 アーヴァンスがルノの頭をぐしゃぐしゃと雑に撫でる。

 メルトはそんな二人の間に割って入ると、アーヴァンスをにらみつけてからルノの手を引き歩き出した。


「ほら、いいから行くの! 時間もあるか分かんないし、もしかしたらもう結構やばいかもなんだから!」

「友達とやらが言ってたアレかァ? トワイライトにボスやら狩人やらが集まってるとかいうゥ」


 アーヴァンスがルノたちの後ろを歩きながら気だるげに言った。

 メルトは振り返らずに一言「そう!」とだけ言って進み続ける。

 自身の腕を引っ掻いていたようで、メルトの腕には爪痕と少量の血が残っていた。


 さっきルノがアーヴァンスと話した時につけたのだろうか。


 若干歩きづらく、駆け足に近い形でついていきながら、ルノは後ろに続くアーヴァンスへと問いかける。


「やっぱりアーヴァンスさんもなんのことか分かんない?」

「……まァ、十中八九ドデカいことを始めるだろうがなァ。まさかあれを始めるだなんてことは……いや、あるかァ?」


 アーヴァンスにしては珍しく悩んでいるようで、ハッキリとした答えが返ってこない。

 船旅の際もこの件に関してだけアーヴァンスは煮え切らない返事しかしないのだ。


「あのさー、ずっとそんなちょーしで『あれ』とやらを強調してるけど、いい加減なんなのか言わないとぶっとばすよ!」

「あァ? なんだやんのかァ? 攻撃じゃなきゃぁやりようはいくらでもあるんだぞォ?」


 すぐに一触即発の雰囲気になってしまう二人にこの先の不安を覚えると、ルノはアーヴァンスをにらみつけるメルトの横顔を見る。


 アーヴァンスと喧嘩しているときのメルトは少しだけ、前に戻ったような感じがする。

 無理に張り合っているわけじゃない。ただ純粋に言い合っているのだ。


「(やっぱりぼくが……)」


 メルトの傷の原因なのだ。


「……はぁ、仕方ねぇなァ。言っても信じらんねぇだろうから言わねぇでおいたが、もういい。話してやるゥ」

「ボスはルズニアに吸血鬼狩りを認めさせようとしてる……魔法騎士団レベルの組織としてなァ」

「そのためにまず国を裏からじわじわ掌握するってのが、俺が入った頃に聞いたボスの目的だァ」


「……っと、着いたしとりあえず乗れぇ話は後だァ」


 話していると馬車駅にもう着いていたようで、三人は乗車券を購入すると、受付横に立てかけられた看板を見る。

 次の駅馬車まで数分といったところだ。


 少し賑わった待合所もまたレンガ造りで、少し待っている人数が多いように思える。

 ざっと十数人。これまで見たことのある馬車では到底運べる人数ではない。

 それに、いくらなんでも待合所が大きい。


「こんなに乗れるの?」

「あー、それはね! 見たら分かると思うよ!」


 メルトがそう言って馬車が来る方向を指す。

 ルノはその方向をじっと見つめ続ける。数分経ち定刻、遠くから蹄の音が軽快に近づいてくる。


 気配とともにその目に映ったのは、ただの馬よりひと回りは大きく、体長が5メートルはある馬だった。


 しかし、そのなにより特徴的なのはその馬の中腹から生える腕で、ルノの腹回りを優に超える太さをしている。


「おおきい……」

「あれァ六本馬だなァ。魔物んなかじゃあかなり友好的だが、なんせ強い。手懐けるには相当な調教師が必要だァ」

「まァ、トワイライトが吸血鬼の街だった時の遺産だなァ。今残ってるやつらは温厚だろォ」


 アーヴァンスが先に馬車へと歩き出す。

 ルノとメルトもその後を追い、馬車へと乗り込む。


 待っていた乗客全員が乗っても余裕の広さで全員が座席に着くことができた。

 四人用の向かい合う座席で、ルノは窓際の席に座ると外を見つめる。


 動き出した馬車は揺れが少なく快適なものだ。


「……まぁ馬の話はそこまでとして、ボスの目的の話だがァ……ボスは人は殺さねぇはずだ。国を裏から掌握するってのも、吸血鬼を狩るために他ならねぇだろうゥ」

「だが、俺の勘じゃあなァ、ボスの関心はそこにゃねェ」


 アーヴァンスは一人で二人分の座席を占領しながら思い出すように宙を見た。


「もっと違う……個人的な何かに関心してると思うぜェ。それがどんなもんかは知らねぇけどなァ」

「あの人の目は、もっと違う何かを見ていた……俺ァそう思うゥ」


 アーヴァンスは確かな確信の籠った瞳でそう語る。

 そこには悲哀と子供が遠い夢を語るような非現実感が宿っていた。


「……よーするにあれってのはあんたの勘しか根拠がないワケ?」

「おおう、今でも刹那的にビンビン確信してるゥ」

「だから刹那的の意味が絶対違う!」

「ハッ! うるせぇなァ! 俺が何言おうと勝手だろうがよォ!」


 二人が言い争っていると、他の座席からの視線を感じた。

 まずい、迷惑かもしれない。いや、迷惑だ。


「あ……二人ともやめて……」


 ルノが二人をなだめようとすると、乗客が立ち上がり、ルノたちの席へと近づいてくる気配がした。


「……えっと、す、すいません。ほ、ほら二人とも——」


 ルノが首を上げ、乗客に少しでも顔を向けようとした時だった。


 銃声。金属が弾かれる音。それらが同時に耳をつんざく。


「……!」


 メルトとアーヴァンスは既に血の鎌とリボルバーを取り出していた。

 ルノを庇うようにメルトが覆いかぶさり、アーヴァンスは席に乗り出し銃で銀色の得物を受け止めている。


「あ、あの人……」


 ルノは遅れてその状況を理解した。

 銀色の得物。それを持つ手元。胸元にかかる十字のネックレス。


 最後に目を向けた時に映ったのは……


「目が……赤い!」


 明らかに正気ではない吸血鬼狩りの姿だった。

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