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ルノと旅する吸血鬼  作者: 立木ヌエ
出会い〜アーカス編
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生きるために生きる日々

「ルノ……おい、ルノ!」

「…………はいっ」

「あんまし無茶すんなよ、そこはもう掘らんでいい。あっちの表面が出てきてる方に行け」


 ルノは、長く黒い前髪を掻き分け、言われた通りに移動する。指示をだしていたリーダーはため息をついた。


  代わり映えのない日々、今日はある洞窟の内部で鉱石を掘り続けている。子供には荷が重く、道具を持つだけで息が上がるほどである。


 しかし、生きなくてはと、意味の無い本能が語りかける。

 それに動かされ、彼は今日も働く。


「……うちのと同じくらいだってのに、あんな死に体で働いてるなんて、世も末だな」

「リーダー! あっちの方になんだか赤い宝石みたいなんがあるぜ……ってどうしたんです? あぁルノか、娘さんと同い年くらいなんでしたっけ?」

「多分、な。あいつ、歳を聞いても分からないの一点張りでな。幼い頃に親を亡くしてからその日暮らしだってんだから、可哀想なやつだよ」


 また、ため息が出るが、リーダーはヘルメットを被り直すとその場を後にした。


 ルノはと言えば、言われた通りの持ち場へと移動し、無心で岩を掘っている。


 岩を掘っていると、ルノはふと異変を感じとる。普段は周りを強く意識することも無い。それでも気づく異変。


「あつい……?」


 この洞窟は深層まで辿り着いたものこそいないが、ルノたちのいる鉱石場付近は、目立った魔法生物もおらず、安全に作業できる地帯だ。そのため意識することなく無心で働いていた。


 この時までは。


「みんな逃げろ! 爆発だ!」

「……え」

  

 先程リーダーに報告に来た男だ。

 彼の走ってきた方角を見ると、洞窟の奥が真っ赤に明るい。


「くそ、リーダー……! おい! ルノ、何してる! 逃げんだよ!」

「あ……」


 男がルノを抱え、走り出す。他の鉱山夫も道具を投げ棄てて走り出している。しかし、火の勢いは強く、遅れたものは黒い灰色のモノへと変わり果てていく。


 だらんと脱力し、開いたままの口を閉じることもなく、ルノはその光景に目を奪われていた。


「くそ、くそ!」


 熱い、少し息苦しい……ルノが感じたのはそれだけだった。死への恐怖はない。むしろ、ここで終わりが見えたことが希望のようにも思えている。


「ぼくのことはおいていって、テンタさん」

「はぁ!? 何言ってんだ……っておい!」


 ルノは全力で身を捻り、無理やり腕から落ちた。

 テンタが慌てて戻ろうとするも、その瞬間に天井が崩れ、退路は断たれてしまう。


「おい! ルノ! くそ……! すまねぇ、助けてやりたかった……!」


 男は唇を噛み走り出す。ルノはそれを見て、これでいいと思った。これで終わることが出来る。炎が着々と近づいている。


 そして——


「………………え」


 突如ルノの足元に大きな穴が空く、崩れる岩と共に、意識を失ったルノは落ちていった。



◆



「…………おい、起きろー、起きろってー、あーどうしよ」


 声が聞こえる。ルノは耳に届いた透き通る様な声に覚えがない。ゆっくりと目を開き、辺りを見回した。


「だれ……?」


 女は疲れているのか、息を整えつつ膝に手を置いていたが、ルノの声に顔を上げる。


「あ、起きた」


 色白な指が顔にかかった純白の髪をはらった。少しの汚れもない綺麗な白だ。


 スカートが地面につかないように手で抑えながらしゃがみこむと目線がルノと合う。

 その瞳は、ルノのひび割れて淀んだガラス玉のような記憶を呼び起こす。


 母親のつけていた真紅のピアスのような鮮烈な紅い瞳だった。


「キミ、どうしてこんな洞窟の奥深くにいるの?」

「お姉さんこそ……」

「あ、確かに!」


 手をポンと叩く女、こんな場所に女一人と子供一人でいると言うのに、まるで緊張感がない。ルノは目を細め、疑うように女を見つめた。


「まぁ、うちのことはいいよ。それよりキミ、上から落ちてきたよね? もしかしてここら辺の鉱山を掘ってる人間?」

「……うん」

「あー、じゃあ魔石掘り当てちゃって爆発したとかかな……? 可哀想に」

「でも、キミ働くにしても幼くない? たまに見るけど、まさか戦争孤児とか?」


 女の質問にルノは首を横に振る。ルノの両親が死んだのは魔法生物に襲われたためだ。人同士の戦争とはまるで関係ない。

 ルノのその動作を見ると、女はまぁいいかと立ち上がり、服のホコリを払う。


「じゃあ、今特に行くあてもなしってことでいい? 家とかは?」

「宿に泊まってる」

「おー、ちょうどいい。じゃあさ、お願いあるんだけど」


 女の雰囲気がガラリと変わる。捕食者のようにギラギラとして冷たいオーラだ。そして、口を開く。何やら人間にしては尖った歯が見えた。


「血、吸わせてくれない?」

「血って……あなたは吸血鬼……?」

「お、知ってるの?」


 ルノの数少ない幸せな記憶、母親の語るおとぎ話。


 この世界にいるという吸血鬼。人と同じ姿ながらも、血を吸うという性質をもつ彼らはひっそり暮らしていたが、次第にそれを恐れた人間に狩られて数を減らした。

 高等な魔法も扱うため、一般人では歯が立たないのだが、そんな存在が今、ルノの目の前にいる。


 人の命など、簡単に奪えてしまう存在だ。


「……じゃあぼくの血を吸ってもいいよ」

「ほんと! 助かるー!」

「それで、そのまま殺して」


 女の口が開いたまま固まる。

 次第に口を閉じ、真剣な目でルノを見つめた。


「なんで?」


 指で転がして遊んでいた小石にヒビを入れると、女が低く声を出した。


「……いきている意味が分からない」

「死にたくないとは思わないの?」

「もう、同じことばかり続けたくない」


 ポツリポツリと呟く言葉。女は真剣にその様子を観察しながら話を聞いている。

 ルノが何も言わずに砕けた小石を眺めていると、女はルノの頬をムニムニとつまみ始めた。


「……なにするの」

「あのねぇ、きみは人間でしょ? やれることだらけじゃん?」

「目的は今なくてもいい、それを探すことをしたの?」

「してない」

「じゃあ、うちみたいに討伐される危険もないのに、ただ何も考えずに生きてきたんだ」

「……」


 言葉の弾丸は徐々に速度を増していき、突き刺すように女の指先がルノの額を指した。


「じゃあ、人(・)間(・)と(・)し(・)て(・)生(・)ま(・)れ(・)た(・)意(・)味(・)が(・)な(・)い(・)ね(・)」


 ルノは言葉をひねりだすことが出来ず、黙りこくってしまう。


「はぁ……じゃあさ、うちと一緒に旅しない?」

「旅?」

「そ、うちってば吸血鬼じゃん? 血を飲むのが栄養とるのに最適だし、きみはそのための血液袋ってわけ」

「目的とかないんでしょ? じゃあついてきてよ。旅してたらなんかやりたい事見つかるかもよ?」


 旅……ルノは考える。

 ここで終わってもいいと考えていたが、彼にとって、人——吸血鬼にルノ個人を求められた事は初めてだった。


 ちょうどいい所にルノがいただけなのかもしれない。それでも、今必要とされたのは、目的がなく、身よりもないルノだった。

 

 それに、旅をして生きる目的を見つける……それには少し興味が湧いた。


「……わかった。ついてく」

「お! じゃあ決まり!」


 ルノの返事を聞くと、女はルノの手を引き立ち上げる。

 そして、まっすぐとルノの目を見て言った。


「うちは、メルト。吸血鬼。きみは?」

「ぼくは、ルノ……人間」


 こうして、少年ルノと吸血鬼メルトの旅の幕は上がった。

少年と吸血鬼が旅をするお話です。長くなる予定ではないですが、話数などは未定です。

追記 長くなるかもしれません。

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