ある姉弟
黄昏。木の下。草の上。心地いい風に吹かれながら、黒い髪の青年が古ぼけた日記帳にペンを走らせる。
風でページがめくれないように親指で押さえながら、時々眉間を押さえたり、首を傾げている。目元もまた、光の灯る濃紺の瞳が大きく丸くなったり、小さく細くなったり忙しそうだ。
「うーん……ここは……って暗くなってきたな……」
青年が空を見て低く喉を鳴らした。気づけば日が沈みかけて、空が橙色に焼け付いている。
青年は栞を挟み込むと、立ち上がり服をパンパンと手で払った。
青年が背中を伸ばしていると、背後からカサカサと草を踏む音が聞こえた。
振り返るまでもない。青年は安心しきったように優しくその名を呼んだ。
「メルト。ちょうど良かった。宿に戻ろうと思ってたんだ」
「ふふん、うちもそうだろうと思ってたよ」
足音はやがて青年の横に並ぶ。そして白い頭が青年の視界に現れ、真紅の瞳が目を合わせて微笑んだ。
白髪の少女・メルトはすっと手を差し出し、察しろと言わんばかりにひらひらと揺らした。
「ルノ、ほらほら」
「もう繋がないよ。子供じゃないんだから」
「えー! いいじゃーん! つーなーいーでーよー!!!」
メルトが飛び跳ねながらみっともなく騒ぐと、黒髪の青年・ルノはため息をついた。
「はぁ……もう、町の外までね」
「ありがと!」
メルトはさっとルノの手を掴むと、そのまま手を引いて歩き出す。
ルノもまた、まんざらでも無い様子で笑うと、横を歩いた。
「ねぇメルト」
「ん?」
「次の町も楽しみだね」
「……そうだね!」
メルトはルノの言葉に静かに頷くと、いっそう笑顔になるのだった。
――これは未来の話。一人の少年と吸血鬼が辿る出会いと成長の旅路の、ほんの少し先の話だ。




