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修復の戦い、光の回路

 火の力の結界に守られ、キラは回路のある場所へ再び辿り着いた。目の前には、岩と岩の間に隠れるように、光る鉱物のような結晶体がある。その表面には、複雑な回路が刻まれ、赤く光る力が、回路の中を力が巡っているようだった。その流れの中に、不自然に強い光を放ち、力が滞っているように見える箇所がある。先ほどローに突き飛ばされたことで、力の流れが断ち切られてしまったのだ。


「大丈夫だ、できる…。」

 キラは震える手を回路へと近づけた。

「あっつッ!!」


 巡ることができなくなった力が結晶体に留まり、結晶体を高温にしている。

 キラは反射的に手を引いた。結晶体からは、焦げ付くような匂いが立ち込める。

 このままでは結晶体が爆発し、空間全体が爆発してしまう。

 キラは、ティアの力を安定させた時と同じように、自分の力と遺跡の力を同調させ、回路の切断された部分を繋ぎ直さなければならない。しかし、今回はティアの力と違い、遺跡の力は制御不能なほど荒れ狂っている。


「大丈夫か!?」

 隊員の一人がキラに声をかけた。

「大丈夫です。」


 キラは唾を飲み込んで、恐る恐る高温に発熱する結晶体へ手を伸ばす。

(直接触れるんじゃなく、火傷しないギリギリのところで調整するんだ。)

 回路にキラの力を流した瞬間、キラの全身を激しい熱と痛みが襲った。まるで、燃え盛る炎を直接掴んだようだ。キラは歯を食いしばり、痛みに耐えながら、意識を回路へと集中させる。

 回路は、ただの線ではない。それは、火の精霊の感情と、この空間のエネルギーを繋ぐ、繊細な神経のようなものだった。この神経を無理やり曲げられ、挙句に切断してしまったため、空間が不安定になっているようだった。


 キラは、乱れに乱れた力の流れを読み取る。それは、激しい怒り、悲しみ、そして何かに縋るような、叫び声にも似た感情の奔流だった。キラは、その感情の奔流に押し潰されそうになりながらも、集中力を研ぎ澄ませていく。


「大丈夫だ、集中しろ!溢れる力を元の流れに戻すんだ。」


 キラは、回路から溢れてしまった力を一旦自身に巡らせ、自分を回路の一部にする。キラの体から赤い火の力が湯気のように溢れ出る。体が燃えるように熱く、内臓が炎そのものになったようだ。激しい苦痛に目がかすみ、手が震える。

 その間にも、彼の周囲の結界の外側では、火柱が上がり、岩柱が崩落する轟音が響き続けている。いつ結界が破られるか分からない、ギリギリの状況だ。


 キラが迷宮をコントロールする結晶の修復作業を行う一方、ティアはカイルと隊員数名と地盤の安定したところからキラを見守っていた。

 キラの体から立ち上る、燃えるような赤い光。それは、彼自身の命を燃やしているかのようだった。ティアは、その光が彼の体を蝕んでいることを、肌で感じ取った。


「キラ…」

 ティアの心に、恐怖が蘇る。自分の力が暴走した時の、あのどうしようもない感覚。

 キラがあの感覚に苦しめられているとしたら、火の力を鎮められるのは自分だけだ。そう直感する。


(どうすればいいの…?)


 ティアは震える手で、アルクスコアを握りしめた。その時、彼女の脳裏に、キラが自分の力を整えてくれた時の感覚が蘇る。無理やり押さえつけるのではなく、優しく、正しい方向へと導くように。

 ティアは目を閉じ、自分の内側にある「虹の力」に意識を集中させる。溢れ出す火の力に呼応するように、彼女の力も共鳴し始める。恐怖に震えながらも、ティアはゆっくりと、自分の力をコントロールする感覚を探った。まるで、キラがしてくれたように。すると、パニックに陥っていた力が、少しずつ、穏やかになっていくのを感じた。


(できる…私にも、できる!)


 彼女は確信に満ちた表情で、カイルに声をかけた。


「カイルさん、私をキラの元へ連れて行ってください!」

 ティアの強い口調に、カイルは驚きを隠せなかった。

「何を言っているんだ!危険すぎる!」

「キラが火の力に苦しめられているんです!私じゃなきゃ鎮められない。」

「しかし、君はさっき暴走して、キラに助けてもらってただろう。」

 しかし、ティアの表情に迷いはなかった。

「キラが、私の力をコントロールしてくれた。あの感覚を覚えてる!キラの体から溢れる火の力を、私が鎮めてみせるわ!」

「だが!」

「お願い!このままじゃキラは死んでしまうわ。」


 カイルは、ティアの言葉に息をのんだ。目の前の現実が、彼に選択肢を与えない。修復作業が成功しなければ、部隊全員がこの遺跡で命を落とす。そして、今キラを救えるのは、ティアの力しかない。

 ――この期に及んで、彼女の力を信じるしかないのか?

 カイルは、ティアが先ほど力を暴走させていたことを考え、頭をかかえる。しかし、自分たちを助けたいと必死に訴えかけるティアの瞳は、先ほどの彼女とは違っていた。自分の力に怯えていた時とは違って、その瞳には確信と強い意志が宿っている。


「くそっ…!」

 カイルは、誰にも聞こえないように、悔しさと焦燥が混じった声を絞り出した。他に選択肢がない。ティアの力を信じるしかないのだ。


 彼は、一瞬の葛藤の後、即座に隊員へ指示を出した。

「ティアを護衛している隊員に告ぐ!ティアをキラのサポートに回す!火の結界を一時的に解除後、キラの元へ向かう。崩落する岩から、身をもって彼女を守れ!いいか、ティアにかすり傷ひとつ負わせるな!」

 カイルが火の力で身体を強化し、ティアを抱えて飛んだ。他の隊員もカイルに続きキラの元へ飛んだ。


「キラ君!修復はまだなのか!!」

 キラのそばで結界を張っている隊員が顔を歪めて問いかける。彼も限界に近い。

「あと…。すこ、し。」

 その時だった。

「キラーーーー!」

 ティアがカイルに運ばれて、結界のそばに来た。

 カイルが即座に隊員に指示する。

「ティアにキラのサポートをさせる。タイミングを合わせ、結界を切ると同時に新たな結界を発動し彼女を結界の中へ!3・2・1今だ!!」

 結界が消えた一瞬、崩落してきた岩をカイルが叩き切る。

 カイルが連れてきた別の隊員が新たな結界を張り、あたりの安全を再度確保した。

 キラはそんな中でも作業に集中していた。

 意識は今にも途切れそうだった。


「キラ!!」

 ティアがキラに駆け寄る。

 キラに触れる前に静かに深呼吸をする。アルクスコアを握りしめ、キラの肩に手を置いた。

 ティアの手から放たれた優しい青い光がキラを包んでく。

 キラの体から立ち昇っていた赤い光が徐々に消えていく。

 キラは急に体の熱が下がっていくのを感じた。

「キラ、そのまま続けて。大丈夫だから。」

 ティアはキラの背中に声をかける。

 キラは乱れ狂い、溢れ出る火の力を、光石を美しく生成するように整え、元に戻していく、そして回路が完全に繋がったのを感じ、自信を力の流れから切り離した。

 結晶体が強い光を放ったのち、徐々に元の正常な状態に戻っていくとともに、空間全体の揺れや激しく燃え上がる火柱が収まっていった。


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