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炎の精霊、怒りの淵へ

 遺跡の内部は、固まった溶岩と岩肌の間から黒曜石のような岩が飛び出し、その隙間からは赤い光が漏れ出している。空気は熱気を帯び、遠くからマグマがうごめく低い音が聞こえてくる。まるで、巨大な生き物の血管を歩いているかのようだった。

 しばらく遺跡内部を進んでいると、キラは何かを発見し、駆け寄る。

「キラ隊列を乱すな。」

 ゼノンが厳しく叱責するが、古代文字が刻まれた石板を見つけ、夢中になっているキラの耳には届いていなかった。


 突然ティアとティアの横にいたローの周りに炎が立上がった!円を描いて二人を閉じ込める。

「えっ!?何これ!?」

 炎の熱があまりにも強く、足元や周りの壁が溶けかけ、崩落が起きた。

「きゃー!」

 岩が崩れ落ちてきて、ローがティアを庇う。

 その間にも炎は荒れ狂い、勢いを増す。

「ティア!!!」

 キラは炎の壁に閉ざされた向こう側から響くティアの悲鳴を聞き、どうにかして二人の元へ行く方法を考えるがその間にも炎は勢いを増していく。

「炎の力が何か変だわ。無理矢理に力を曲げられたような。それに…。うぅっ。誰か悲鳴を上げてる気がする。」

 ティアは炎の違和感を感じとっていた。そして同時に激しく自分の感情が何かに反応しているような、揺さぶられるような、感覚に陥っていり、共鳴するように、力が溢れ出してくる。

「ローさん、離れてください。誰かが、私を!!!」

 ティアは力の暴走する気配を感じる。このままではそばにいるローを傷つけてしまう。そう考えたティアは一瞬の炎の切れ間を見て、ローを勢いよく突き飛ばした。突き飛ばされた勢いでローは炎の中から脱出することができた。

「あああああー!」

 ティアから放たれた虹色の光は、周囲の炎を巻き込み、巨大な竜巻となって天井へと向かっていく。

「やめて…!私、やりたくないのに…!」

 その異様な光景に誰もが身動きできずにいた。

「ティア!!!」

 キラが青色の光玉を取り出し、水の力を全身に纏わせて炎へ飛び込んだ。

「よせ!キラ!無茶だ!!」

 カイルが止めようと手を伸ばしたが、キラは炎の中へ姿を消した。

「ティア!大丈夫か?」

「キ、ら…誰かが泣いているの。こんなことしたくないって。私もこんなことしたくない。

 力が溢れ出して止まらないの。」

 ティアは身を抱えてうずくまって耐えていた。アルクスコアが強い光を放ち、ティアの力の流れをティアの周りにとどまらせている。

 キラは慎重にアルクスコアに触れる。虹から光石を生成する時のように、丁寧に力の流れを変え、整えていく。

 激しい力の流れに押されて、息が止まりそうになる。

 それを耐えて力の流れを読み取ると、ティアの力とは別の強い赤色(火)の力を感じる。その流れはとても激しく、行き場のない感情を、ティアを通じて放出しようとしているように見えた。

「この力はなんだ?とにかくティアと離さないと。」

 丁寧に二つの力引き裂いていくと突然、赤色の力が乱れながら、宙を舞い消え去った。

 ティアは無理に引き出された自分の力を抑えていく。

 額に汗をかき、息を切らしながら、なんとかコントロールを取り戻し、顔をあげた。

「ティア、もう大丈夫だ。」

 キラが確かめるようにティアの肩を抱いた。二人がほっと息をつくのも束の間、背後から怒声が響く。

「これはどういうことだ!!」

 ヴェスタがローに肩を貸しながら、叫んでいた。

「わかりません。ただ私には彼女が炎を暴走させていたように見えましたが…。」

 キラには、ローが確証のないことをヴェスタに吹き込んでいるように思えた。

「違います!炎がいきなり襲ってきたから、ティアは混乱したんだ!それにあれはティアの力じゃなかった!遺跡の力が、無理矢理彼女に縋っているように見えた!」

「だとしてもだ!彼女は遺跡の外へ出てもらうべきだ!この先はもっと火の力が強く、危険も増していくんだぞ!さっきのようなことが起きないと言い切れるのか!?」

 周りの者を守ろうとするヴェスタの主張は正しい。今のようなことがないとはキラには言い切れず、何も言い返せなかった。その場は険悪な雰囲気に包まれた。

 ティアが震えながら口を開く。

「だけど、私が遺跡の力に影響を及ぼせることは、わかったでしょう?もっと気をつけるから、一緒に行かせて!」

「だめだ!!!」

 ヴェスタは憤りを隠せないようだったが、ゼノンが遮るように静かに口を開いた。

「二人とも落ち着け。今は協力し、最深部を目指すのが先決だ。ヴェスタ・ヴァルカン、貴様の判断は尊重する。しかし、現状我々にはティアの力の他に遺跡を安定化させる方法がない。先へ進むぞ、周囲の警戒を怠るな。」


 ゼノンの言葉に、ヴェスタは不満げな表情を浮かべたが、それ以上は何も言わなかった。キラはティアの無事を確認し、緊張を解くが、ティアは自分の力がコントロールできなかったことと、仲間を危険な目に合わせてしまったという考えから、自分を責めずにはいられなかった。


 重い空気が部隊にのしかかる。


 そんな中、カイルがキラを心配して話しかけた。

「キラ、あまり無茶をするな。お前が炎の中に飛び込んだ時、心臓が止まるかと思った。」

「僕が行く以外どうしようもなかっただろ。」

 キラはローのティアに対する不用意な発言や、ヴェスタとのやりとりから、ティア以外の人への信頼感が揺らいでいた。そしてカイルの心配を、素直に受け取ることができなかった。

 カイルはキラの様子にため息をつくしかなかった。


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