表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/103

真実とこれからとpart4

 ドアの向こう側、廊下の気配を探ると複数ではなく、一人であることがわかる。

 言いようも無い気持ち悪さを隠しつつ廊下の様子を伺うと、再度ノックと共に声を掛けられた。

 ドアには鍵が掛かっているから侵入される事は無いだろう。 リュートはそのまま返事をせずにやり過ごす事にした。正直関わりたくない。


 返事をしないままでいると、『寝ているのかしら?』と言う声が聞こえた後、遠ざかる足音が聞こえてきた。

 素人の年若い女性だ、注意深く伺っても玄人ではないのが判る。歩き方や手等から隠していても分かってしまう、剣を持つ手は靭やかなままではいないし、鍛え上げられていれば全身の筋肉は服の中では隠せても全てを隠す事が出来ないのだ。


 今夜はもう来る事は無いか…。

 桜以外の女とは正直関わりたくない、煩わしいだけだった。そんな安堵感からリュートは質素なベットの上で、いつの間にか仮眠をとっていたが、近付く2つの気配で、元々浅かった眠りから目覚めた。


 ノックと共に年若い船員の声がする。


「夕食をお持ちしました」


 リュートは食堂で食べる事はせず、客室に運んでくれる様手配していたのだ。

 毒を警戒しなかればならず、仕方がない判断ではあったのだが……。


「ああ、今開ける」


 リュートがドアの鍵を開けるとそこにはあろう事かあの女もいるではないか。

 こちらの様子を伺いながらチラチラ盗み見る様子は不快でしか無い。リュートは敢えて知らないフリをして船員に声をかけた。


「2人で運んで来たのか?」

「いえ、この女性は……」


 船員が答えようとすると被せるようにその女が口を開いた。


「あの、私は先程助けていただいた」


 今度はリュートが女性の話を切るように船員に伝えた。


「客室を、客の許可も無く第三者に伝える事は契約違反だが、この事を船長は知っているのか?」


 その言葉で慌てたのは若い船員だ。


「いえ!!知り合いだとこの女性が言ったものですから!」

「それを俺に確認したか?悪いが俺はこの女と面識はない赤の他人だ。契約違反は厳重に抗議させて貰う」

「申し訳御座いません!!てっきり知り合いだとばかり⁉」


 リュートの気迫で顔が真っ青になり全身が震えている船員は、本当に深く考えてはいなかったのだろうがそれでも許されることでは無い。

 その空気をぶった切ったのは他でもない、この空気感の原因となった女性だった。


「あの!私先程助けて頂いた者です!お礼を言いたくて、此方に案内して貰ったんです!」


 自分は何も悪くないと云わんばかりのその女の言い分に腹が立つ。


「だから?…」

「え?…」


 リュートは入口の壁に背を預け手を組み心底どうでも良いと云う態度で、その女性を見下ろした。流石に歓迎されていないのが判ったのかたじろぎ始めた。


「いえ、だからお礼を…」

「お礼?…その為に船員を誘惑して俺の居場所を聞き出したのか?…俺の許可もなしに?」

「誘惑しただなんて酷い!」


 女は目を潤ませた。

 都合が悪くなれば女に弱さを武器にする、それが常套手段なのだろうがリュートには通じない。


「ではどんな経緯でここを教えたんだ?」


 リュートは話にならない女との会話を早々に打ち切ると、未だ青くなっている船員に問い掛けた。


「その女性が、貴方様に助けて頂いてどうしてもお礼を言いたいと言ったので、それで」

「今正直に答えれば君の責任は問わないが、どうする?」


 リュートが問題とすれば、この年若い船員は首になり路頭に迷うのは明白だった。

 この船の船員は全て元孤児だ。盗みを続け生計を立てるしか無かった者を、この船の船長は居場所を与え仕事を与えたのだ。

 勿論、その動きにあった対価を払い普通の暮らしが出来るように采配している。

 リュートはこの船の船長と昔知り合い、船長の人柄を知り何かと便宜を図ると共に、今回の様な時に協力して貰っていた。

 だから元々この船員を追い詰める事はしないつもりではあったが、それでも今後の為に教育は必要だ。

 今回の事が良い経験になれば良いとリュートは考えていた。


「おっしゃる通りです。船の長旅では女性の存在は必至だと言われ、喜ばれるならと……」


 確かに、長旅に玄人女性を同伴させる者は多い。仕事に誇りを持った女性を避難するつもりもない。リュート自身、使ったことは無いが知り合いはいる。尊敬できる女性だった。


「先ず、女性に対してそんな扱いをするつもりな無い。仕事として依頼したのなら別だが、今後は止めるんだ。わかったな?」


 リュートは心から反省している船員にそう告げると仕事に戻る様に促した。


「それで?お前はいつまでここにいるんだ?」

「え?今のお話を聞いて、私を必要としているのでは?」


 話が通じない。

 馬鹿なのか?今迄出会った男にそんな扱いだけをされてきたのか?はたまた両方か。

 それでもリュートはこの女にこれ以上関わるつもりは無かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ