真実とこれからとpart2
ユリアの言ってきなさい!の言葉とカムイとサーキュスの存在に後押しされてリュートは桜を迎えに旅立った。
王宮を離れるにあたっての準備などは全てカムイとサーキュスが受け持ってくれただけでなく、実務を支えてくれている各部署も、任せても良いだろうか?と聞くと『お任せください!』と頼もしい言葉で送り出してくれた。
どうやら自分は周りが見えていなかったらしい。
騎士団等軍事関連はユリアと将軍が抑えてくれる。
今も尚蔓延る反乱分子は無視できない。
味方の結束力が鍵となるのだが、今迄自身で全て行ってきたリュートが頼ってくれた事が信頼に繋がり団結力へと変わるとは、全てが敵で何時寝首を掻かれるか解らなかった頃の自分が聞いたらきっと驚いた事だろう。
それも全て今迄の努力で尊敬を勝ち取り、桜と出会ったことで和らいだ雰囲気が親しみやすさを生んだ結果なのだとしたら、周りの気持ちに気付けなかった自分は浅はかだった。
今回ユリアに怒鳴られて初めて気付くことができたのだから、人生とは解らないものだと思う。
リュートは少し前の出来事を思い出しながら、船に乗り海を渡り、桜が渡った外国に向かっていた。
桜は魔法で移動したから一瞬だったが、通常なら恐ろしく長い旅路となるのだ。
既に2日以上も船に乗っている。それも動力を使い風の力を倍増させ船のスピードを上げているのにかかわらずだ。
これが桜と一緒の新婚旅行なら心から嬉しいのに。
リュート達のいる国から一番近い国なら良かったのだが、桜が渡ったのはもっと遠い、国交があまり行われていない国なのだから余計に心配になる。
船の甲板で遠くの海を眺めながらそんな事を考えていたリュートは、自身の客室に戻るために船の中に入った。
すぐに出る船を優先した為、大きさや豪華さ等とは無縁の船だが、進むスピードは速く明日の朝にもで桜が渡った国の港に着く。
あと少しで会えると思うと気持ちを抑えるのに苦労した。スピード重視の為にかなり揺れるのだがそれすらも気にはならなかった。リュートはフードを深く被り王子である身分を隠して乗船した。
元々訳アリや荷物等を乗せるための船だ。フードを被っていても金さえ払えば何も言われない。
胡散臭いのはお互い様だ。
リュートは身体を鍛え上げていた為勿論体幹もしっかりしている。揺れる船内の階段を物ともせず降りて行くと1人の女性とすれ違った。
服装からしてリュート達の国の衣装ではないが、服の質からして平民だろうと思う。まだ若く推定18から20代前半。
リュート以外の男ならこれ幸いと弱った女性につけ込んで関係を深めていただろう。
その女性は青白いが整った顔をしているが、顔だけならユリアの方が断然美人だ。
それ以前に桜以外は男も女も関係ないリュートには、その女性の容姿など、どうでも良かった。
その女性は揺れる船内の階段を蹌踉めきながら何とかリュートとは逆に上がってくる。
見るからに具合が悪そうなその女性は、この船の揺れで船酔いをしているのだろう。
2人がすれ違う際、大きく船が揺れ、女性はその揺れに耐えきれずにリュートの方に倒れ込んできた。
咄嗟にその女性を支えるとその拍子に被っていたフードが取れて顔が出てしまった。
支えてくれたお礼と謝罪の為に捕まりながらも顔を上げた女性は、リュートの顔を見た途端自分が具合が悪かった事ことなど忘れて時が止まったかのように息をのんだ。
そう、顔だけならリュートは群を抜いて整っている。
リュートは取り敢えずその女性に声をかけた。
正直、育った環境の為桜以外の女が苦手だ。(ユリアのことは女という括りに入れてないから除外されている)
出来れば直ぐにでも離れていただきたいところだが、突き飛ばす事は人道的に許されないだろう。
「大丈夫ですか?」
無言で自身を見つめていた女性はリュートの声に我に返ると、
「はっはい!」
と答えた。
どう見てもリュートに見惚れていた。
またかと思ったリュートは早々に切り上げるべく、女性を正させると『では』とその場を離れようとしたが、女性に呼び止められ、尚且つ福を掴まれた。
その事に嫌悪感が強く起り咄嗟に振りほどきそうになったのを何とか抑えた。
「何か?」
その声は氷点下迄下がっており、通常ならそれだけでも、その先に言葉を続ける事など出来ないところだが、その女性はめげなかった。
「あの、私今船酔いを起こしていて、薬を頂くため出来れば医療室迄連れて行って頂きたいのですが……」
「は?……何で俺が?」
リュートはそう言うと、運良く近くを通った船の従業員らしき男性に女性を預けるとさっさと自分の客室に戻った。
その部屋は客室とは名ばかりの、狭く質素なベットに括りつけられたサイドテーブルしかない。
揺れが激しい為全て固定されている。
それでも戦場を知っているュートにはどうでも良かった。スプリングは固く布団は薄いが寝る場所があるだけマシというやつだ。
王子らしい待遇をされていなかった事がこんな時に役立つとは何とも皮肉だが、元々リュートは物事に執着していない。
桜がいれば何としてでも待遇の改善を要求していたが、愛する彼女もここにはいないのだから、食べ物だってどうでも良かった。
固いベットで横たわったまま時間が過ぎていく。
明日になれば桜がいる土地に降り立つ事ができる、それだけが唯一の希望だった。
何で直ぐに桜を追いかける事ができなかったのか?
出来ていれば今頃は彼女がこの腕の中にいたのに、そう思うとやるせなくて自分を殴ってやりたかった。
横になっても眠る事なんてできなかった。




