拗れた感情の行先は?part3
リュートは、灯を抑え静まり返った王太子の執務室で自身の剣に呼びかけた。
カムイもサーキュスも一言も発しない。
ただ黙ってことの成り行きを見守っていた。
「母上……」
マルタが嘘をついているとは欠片も考えていないが、それでも剣に母親が宿っていると言われて、母親に逢えた喜びが一番だが、戸惑いも大きかった。
『リュート、また貴方と出逢えた奇跡に感謝します。私の坊やは大きくなりましたね』
剣から聞こえる声はとても優しく、とても嬉しそうだった。それもその筈、、二度と叶わないと思っていた息子ともう一度形は違えど親子として逢えたのだから。
通常ならカムイやリュートには聞こえないのだが、マルタの力と母自身が聞こえても良いと考えている為、二人にも会話が分かった。
何も知らないものが一見すると剣が話すという図柄はとてもシュールだが、親子の感動の再会に水を差す馬鹿はこの場にいなかった。
「母上様、私も嬉しいです。 でももう坊やという歳では有りませんよ。私には桜という妻もいるのですから」
『結婚していようが、大きくなろうが母親にとって子どもは子どもです』
「母上様には叶いませんね」
最初は照れから少しぶっきらぼうだった態度が穏やかなものになっていく。
それとは裏腹に母声はトーンが落ちていく。
『それはそうと、私の息子なのに随分と下手を打ちましたね。惚れた女に逃げられただけでなく、違う男と逃避行とは、それを指を咥えてみていた何て情けない』
「グッ………」
図星をつかれ言葉を失うリュートは珍しい。
カムイも珍しい者を見るように目を大きく見開いていた。リュートはその生い立ちと持ち前の頭の良さから他人に答弁で追い込まれるという事はない。
難しい相手でも必ず論破していく。
成る程、流石の頭脳も母親の前では形無しだった。
『いくら愛息子といえど、私の可愛い義理娘を傷つけたのです。これくらいは当然でしょう』
見た目は力強くも美しい一振りの剣だが、そこから聞こえる声は女性の物で、綺麗で優しいが言っている内容は容赦ない。
でも、何より母親に自分の愛した女を、桜を娘と認めてくれた事がリュートには嬉しかった。
痛い言葉だがそれすらの甘んじて受け入れようと思っていると、剣の母はまたもや確信をついてくる。
『私に聞きたいことがあるのでしょう?』
見た目と反しキッパリとしている母親の性格らしい。
父王が愛した性格そのままに、あの日から変わる事無くそこに居る。
「ではお聞きします、女神とは何なのでしょうか?桜とはどんな関係があるのでしょうか?」
カムイは息を呑み、サーキュスは存在を消すように気配を殺している。
宰相の息子であるカムイはこの国の歴史に精通しているのもあるが、妻の実家に神殿があり女神信仰を良く理解していた。元平民のサーキュスは信仰心が希薄だが、筆頭貴族たるカムイは知りうる事実に重みがある。
『………女神は神です。この世界を創造した存在。この世界の創造主にして天界を追放された堕天の神』
「堕天の神?それなら女神以外にも神がいるというのですか?」
『ええ。あくまで創造した神を神と崇めるなら、それは女神のみ。されど神々が鎮座する場所に他の神々はいらっしゃいます』
そのやり取りに絶句したのは、ことの成り行きを見守っていたカムイとサーキュスだ。
そんなことは教会でも教えて貰えないし、何より女神こそ唯一無二の絶対なる存在と教えられている。
それを根本から覆す内容だった。それが事実なら大問題だ。
「では魔女と女神との関係は?」
桜のことを第一に聴きたいが、この国の王太子として確認しなければならない事がある。
『魔女とは女神を慕う眷属の堕天使』
「天界から追放された、ということは何か悪いことをしたということですか?」
『誰かを愛する事が悪いことだというのなら、悪い事なのでしょうね』
「母上様、それはどういう意味です?」
『女神は双神でした。その妹神が人間を愛して天界を追放された。姉神はそれを嘆き、妹を一人には出来ないと後を追ったのです。神は平等で無ければならない。天界の神々は妹神を許さなかった』
「では、女神と桜の関係は?」
『妹神の生まれ変わりが運命の番です。人として生まれ変わった妹神、それが運命の番なのです。そして、妹神が愛した人間の男の血族が、この国の王族』
「‼………」
絶句せざるおえなかった。
それこそがこの王国の秘密であり、桜の秘密はリュートが考えているよりも重かった。
だからこそ女神に試される。守られているのは妹神のためなだけで、それを蔑ろにするようならきっと姉神は許さない。
形だけとは言え、桜以外の妃を迎え入れようとしたこの国を女神は許さなかった。
だから隠した。
真実を知れば、成る程シンプルで、だからこそ余計に為出かしたことの重みに潰されそうになる。
明けましておめでとうございます。
いつも有難うございます。あなたにとって良い年でありますように




