桜捜索:リュート編part5
カムイが、城下町の食堂に入って消息不明になってから2時間後、カムイの指示で消息不明案件がリュートのところ迄報告が上がっていた。
あいつが目星をつけていた場所で、今度はカムイが消息を断った。それは偶然では無いとリュートの本能が告げている。
「私も捜索に当たる。準備を!」
リュートはカムイの代わりに自身の側に付いていたサーキュスに指示を出すと返事を待つ事なく、廊下へと続くドアへと歩き出した。
指示されたサーキュスも既にいつ何を言われても良いように準備は整えている。
「リュート様、私もお供しましす」
「いや、サーキュス、お前は城に残り不測の事態に備えてくれ。俺の許可が必要な物も、お前の判断で動いて構わない。責任は俺が取る!」
これは消して桜様がいないがための焦りからでた指示ではない。
それは側付きになり日の浅いサーキュスにも解っている。この王太子は妃に対して激愛傾向にこそあるが、愚か者ではない。
信頼し支持できる上司であり主だった。
「‼………承知しました」
リュートは敵側の貴族だったサーキュスを自身の代理として権限を与えると言う。
それは何時もカムイが就いていた立場だった事はサーキュスとて理解していた。
だからこそ驚いた。
そして、初めて胸が高鳴った。サーキュスの出自が低い事は調べ上げているはずだ。カムイが調べ上げていない筈はない。
何時も他の貴族からは下賤と蔑すまれていた、そしてそれが当然と受け入れてさえいたのだ。
彼の王太子は完全能力主義と言うのは本当だった。
それは、サーキュス自身を認められたという事だ。生まれて初めて自分自身を認めて貰えたのだ。認められたのはただの相手じゃない、この国の未来の王だ!
「頼んだぞ!」
不敵に笑ったリュートは、男のサーキュスから見てもとても魅力的で強く惹かれる何かがある。
やってやろうではないか。
この男に認められたのだ。出来ないとは言いたくない。
リュートはサーキュスを自身の執務室に残し全力で走りたいのを押さえ込んで長く続く廊下を歩いた。
早く迎えに行きたい。焦る気持ちが抑えられない。
あのカムイのことだ、消息不明といえどそれは狙ってやったに違いなかった。自分の背中を預けられる男が早々簡単に連れ去られるはずがない。なら、カムイを心配するのは、あの誇り高い男に失礼だ。
流行る気持ちを抑えてやっと掴んだ捜索の糸口を握りしめて歩くリュートを引き止める声がする。
正直無視したい。
だが、立場がそれの邪魔をする。
「何用です?」
何時にもまして低く鋭くなる声は仕方が無いと容赦して頂きたい。
「王太子妃様の捜索に私もお連れ下さい‼」
要望者はあの王女だ。
正直舌打ちしたい気持ちを抑えて対応する。
会話の為じゃない、止めている足がもどかしい。
「貴女は誰の許可を取ってここに?」
睨みつけるリュートの目を王女は負けじと見つめ返す。こんな事でも無ければ、端から見たら美男美女が見つめ合っている様にも見れるかも知れないが……。
緊迫した空気がそれを許さない。
この女が原因で桜は城を出ていったとは考えるべきじゃない。自分が桜を不安にしたから桜は出ていったのだ。王家に相応しい調度品が飾られている綺麗な廊下をめちゃくちゃにしたくなる。
目の前の女を怒鳴りつけないだけ褒めて欲しいくらいだ。
リュートの放った声は単に事実だけしか伝えていない事を、他の誰より王女も解っているのだ。
他国の王女だからこそ、国の中枢である王太子の執務室付近にその場の主か、それこそ国王の許可がなく近寄れば不敬罪だ。それが他国の姫なら尚の事策謀を疑われてもおかしくない状態だった。
勿論リュートは許可していない。
彼女をここに招き入れる手筈を調えたのは恐らくは廃太子派の面々。リュートもそれを理解しているからこそ警戒を怠らないし、出来れば今回の件の本当の黒幕を吐かせたいのだ。今後こんな事で桜の心を煩わせる事が無いように。
だとしても、桜捜索の前では大事の前の小事だった。
それとは別に、リュートには懸念事項があった。
リュートの愛剣であり魔剣が数日前から、正確には桜がいなくなった時から煩く鳴り響いている。と言ってもその音は周りには聞こえず、リュートの生活に支障があるくらいだが……。
何か意図があるのかも知れないが、それでも今は桜を探す方が先決と心に鳴り響く音を鉄の意志で抑え込んでいた。
だが、この剣の声に従った方が今回の件のも早く解決していたとは誰が考えたろうか?
リュートとて、桜が絡んでいなければ思考が柔軟に働いただろうが、時期が悪い。
何よりリュートは魔力に対して端正が少ないのも災いした。
本来なら魔剣とその主は意思の疎通ができる。
だが、今は音としてしか聴こえないのだ、それをおかしいとは思えなかった。
誰かが妨害している等と考える余地もなかった。




