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宮殿での生活part3

 この日は周りがとても慌ただしかった。

 されど、本来ならリュートの次に情報が入ってくる立場の桜には何も知らされてはいなかったのだ。

 元より恋愛感情以外鈍い方ではない桜だ。周りが騒がしくただ事出はないとは思っていたが、それを問いただすことはしなかった。

 リュートが語らないなら、私はまだ知る立場にいないということ、そう考えていたから。

 桜に"不必要な憂いは与えない"それがこの王太子宮での暗黙の了解だった。

 何よりもリュートが過保護すぎるきらいが有るのも一つの要因だ。

 王太子妃といえど新米で、かつ運命の乙女という立場から桜はいるだけで象徴とされている。

 その為か実際なら担わなければならない責務が軽減されているのだ。

 ある意味王よりも重要な存在とされ、この国が崇拝する女神の代理者と呼ばれる運命の乙女はあくまでも象徴でなければならない。

 人間が利用しようとすれば女神の逆鱗に触れるとされていた。

 それを知らない国民は、この国には子供といえど一人もいなかった。現に桜が正式にリュートの正妃となってからの国は、綻んでいた結界も修復され、災害も無くなり自然の恵みも向上し人々が感じていた憂いも全て無くなっていた。

 国力自体が大幅に向上し、皆桜がこの国に来てくれたこと、王太子の妃となってくれた事に感謝していた。

 リュートには魔力こそ無いがそれ以外は天才の名を欲しいままにするくらい優秀な事は皆が知っていた。

 されどこの国では魔力が無いものは王位を継げない。どんなにアホでも魔力さえ人並み外れて高ければ王位につくことが出来るという矛盾にすら黙って従うしか無いのだ。

 それ故に尚の事国民や、忠のある重臣は安堵した。


 だが、当の桜はリュートの役にたちたかったのだ。

 お飾りではいたくない。

 よって毎日それこそ大学入試の時よりも勉強に励んでいた。

 勤勉な桜は、天才でこそ無いが秀才として高校ではそれなりの順位をキープしていた。

 特待生になればお金を免除してもらえる。そうすれば両親を助ける事にも繋がるし、弟達にも負担を掛けずにすむから、大家族の長女としての考えだった。


「桜様……少しお休みになられては?…」


 根を詰めすぎだとマリアは桜を半場無理矢理休ませた。本来なら侍女が口を出して良いことではないのだろうが、咎を受けようとも臣を通す姿は、桜が其ほど大切だと言うに他ならなかった。


「有り難うマリア。……この紅茶はもしかしてハーブティかな?……カモミール?…この国に同じハーブが有ればだけれど」


 心を落ち着かせる効果のあるカモミール。

 それは桜がいた世界での話で、こちらの世界ではどうなんだろうか?


「……こちらは、ガザルという花から作られているお茶でございます。……疲労回復の効果が有るとされております」


「カザル?……成る程、カモミールとは違うのね。……でも興味深いね。……効能がある薬草やお茶を総称しての呼び名何て有るの?…私が住んでいた場所ではハーブと呼んでいたのだけれど」


「特に総称しての呼び名は無いですね。……お茶はお茶ですし、薬は薬です」


 こちらに来て、同様の物の呼び名が同じなのは、学ぶ事なく理解が出来ていた。それは自動翻訳機能に近いとリュートから教えて貰った。

 だから、こちらにあってあちらに無いものは解らないし、呼び名もない、逆もしかりなのだという。

 特に魔法に関してはあちらの世界には無かったし、元々自分が知らないものはこちらの世界でも解らない。あくまで自身の持っている知識に照らし合わせての物なのだ。

 学ぶことはまだまだ多そうだ。

 心を入れ直し再度自主学習を開始する。何故自主学習なのかというと、それは桜の先生が全員違う仕事で忙しいからに他ならない。

 よってそれぞれに大量の宿題を出されていたのだが、桜はほぼ全て終わらせていた。

 リュートが忙しい為、夜の時間が自分で全て使えるのも理由のひとつだ。

 一人眠が寂しくて、眠れなくなった桜はその時間を勉強に費やしたのだ。そんな邪な理由からだったから、努力している、と言われるととても申し訳なくなってしまう。

 まあ、夫であるリュートも仮眠しか取らずに頑張っているのだから一緒に頑張りたいという思いと、色々な感情はあるのだけれど。



 それでも、やり過ぎだと自主学習をマリアに止められた桜は、しょうがなく王太子宮の庭園を散策する事にした。

 王太子宮庭園(ここ)からは出てはいけないとリュートからキツく言われているし、本来なら王太子妃宮が桜の住居だけれど、リュートが離れて暮らすことを良しとしないのだからしょうがない。

 まあ、かなり広いから飽きたりはしないのだけれど。


「とても綺麗ですね…」


 庭師のおじいさんとはよく話をする茶飲み友達だ。


「桜様がお好きだと聞いたんで取り寄せたんです。お気に召しましたかな?」


「はい、とっても!!」


 まるで実の孫の様に接してくれるこの老人と時間が桜は大好きだった。

 老人ということで辛うじて、心の狭いリュートの許容範囲として交流を許されている。

 桜が本気で願えば反対はしないが、桜とてリュートの嫌がる事はしたくない。

 逆の立場なら、やっぱり嫉妬してしまうだろうから。

 庭師のおじいさんとの会話を楽しんだあと、進められた木々の場所まで歩いて行くことにした。

 そこは緑色の木々のトンネルになっておりとても幻想的な雰囲気を醸し出している素敵な場所だった。

 その先まで行けば違う世界にでも行けそうな、そんな感じさえする。


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