宮殿での生活part4
緑のトンネルを進んでいくとその先には何が有るのだろう?もしかしたら妖精の国に行けたりして。
魔法や異世界が有るのなら、妖精界だってあっても良い筈だ。そんな感情すら沸き上がってくる程幻想的な光景に嬉しくなりながら桜はトンネルを歩いた。
あと一歩、違う世界に飛び出す様に力一杯に飛び跳ねながらトンネルを抜け出すと、そこには美しい銀の髪をした女性が立っていた。
驚いた事にその目には涙を浮かべながら。
その女性の姿は白と薄い黄緑を基調としてドレス……といって良いのか、下にはスパッツの様にピッタリとしたボトムにひらひらと羽根の様なトップスを併せており、その装いは絵本で出てくる様な妖精その物だった。全体が軽そうだから、案外機能的な服装なのかもしれない。
うっかりと背中に羽を探してしまいそうになる。
「どうしました?…」
思わず声を掛けてしまったが、掛けた後で少しだけ後悔した。もしかしたら、一人になりたかったのかもしれない。でなければこんなところにはいない筈だ。
それにしてもここは王太子宮殿にある庭園なのだろうか?……本当に妖精の国に入ってしまった?
それくらい、目の前の美女は儚げで美しかった。
リュートが天使なら彼女は妖精だろうか?
「……申し訳ございません。……歩いていたら迷い混んだ様で……ここは王宮のどの辺なのでしょうか?」
目の前の妖精はどうやら道に迷って迷い混んでしまった様だ。そうえいば、ここは王太子宮の庭園。
本来なら立ち入る事を禁止されたエリアなのだ。
彼女があまりにも非現実的すぎて頭からその事がすっぽりと抜けてしまっていた。
だとしたら早いところもとの場所に返してあげないと罰せてれてしまうのでは!?
桜はそう思い直し、道案内を勝って出る事にした。
「ここは王太子宮の庭園です。本来許可された者しか立ち入る事が出来ません。……失礼ですが許可証はありますか?」
みるみる内に顔色が悪くなってくる妖精。
「まあ!…大変。……王太子宮とは知らず………どうしましょう!?…早く立ち去らねば」
やはり解らずに迷い混んでしまったらしい。
だが、どうやって入ってこれたんだろうか?ここは警備が万全で、迷い込める場所ではない筈なのだが?
この場所に唯一繋がっている場所が有るとすればそれは王太子妃宮のみの筈だ。
でも桜の知識なんて付け焼き刃で、知らない通路もきっと有るのだろう。そうでなければ彼女がここに入って来れる筈がないではないか。
桜はそう思い直した。まさか今後彼女が原因でリュートと大喧嘩に発展するとは思っても見なかったのだ。
桜は本来なら自身の住まいになる筈だった王太子妃宮殿から抜けて彼女を元の場所に帰そうとした。
主が不在の宮の方が人目につかずに帰してあげられると考えたからだ。
慣れた道を彼女を連れて歩く。
今日の桜の格好は何時もよりカジュアルで動き易さ重視。これでは王太子妃には見えないだろうが、リュートは王太子宮にいるときは桜が暮らしていた国の服装に近い服でいて良いと言ってくれたのだ。
王太子妃宮にたどり着き、宮殿の裏を横切ろうとしたときに、彼女はあろうことか前を歩く桜を呼び止めたのだ。
「あの………私はこちらの宮殿に部屋を頂いております。……ですから、案内はここまでで大丈夫です。本当に有り難う御座いました」
丁寧に頭を下げられたが、桜には何を言われているのか解らなかった。
ここは今住んでこそいないが自分が住む筈だった宮殿だ。
仮にリュートに側妃か愛妾がいたとしても住まいはこちらにはならない。
気付いた恐怖に躊躇いながらも桜は目の前の彼女に問いかけた。
「失礼ですが………こちらは王太子妃宮殿です。……貴女は何故こちらに滞在されているのですか?」
敢えて"住んでいる"という言葉を使わなかった。
使いたくなかった。
「……助けて頂きながら、名乗りもせずに失礼致しました。私は、王太子様の妃候補として隣国である双樹国より参りました、第一王女、ジュリと申します」
彼女は何を言っているのだろうか?
確かに皆何故かとても忙しそうにしていた。
でも、リュートが私に何も言わないということは私が知る必要がないと言うことだと、聞きたいのをずっと我慢していたのだ。
それが、この事だった?
頭の中がぐちゃぐちゃになり桜は何とか今まで教わってきた挨拶をすると、堂々としていて良いはずなのに………逃げるようにその場を立ち去るしか出来なかった。
桜は初めて自分からリュートに時間を作って欲しいと手紙を書いた。……少しの時間でも良いからと……。
でも、一晩中寝ずに待ち続けていても、その夜彼は初めて桜の元には戻っては来なかった。
全てを捨てて、この国に来た。
最初こそそこまでの決意も無かったが、それでも彼と共にこの世界で暮らすことを選んだのに。
せめて一言言ってくれてたら、………少しは違ったのだろうか。




