王と王妃
「……私とあの方は、幼い時から婚約者同士だったから、勿論直ぐにお伝えしたわ。……婚約を解消して違う方を王妃にして下さいと……」
それから、お母様は遠い昔を思い出すように教えてくださった。
辛い出来事だとは理解していても、想い人に繋がる過去だと思うとどうしても、先を急いてしまう。
「……それで………」
「絶対に婚約は解消しないと言われたわ。……世継ぎが産まれなければ、王位を違う者に譲れば良いと迄言ってくれた……申し訳無いと思うと同時にとても……嬉しかったわ」
それはそうだろう。
お母様の様子からは夫を愛する妻の気持ちが溢れてる。
でも……では何故、リュートは孤独を感じて育ったの?
そんなに愛し合った女性が産んだ息子が可愛くないのだろうか?
「……結婚してからはより、子供を欲する気持ちが強くなったけれど……流産を繰り返してた……悲しくて、我が子を守れない自分が不甲斐なくて………でもどうしても欲しくて、欲しくて…だから女神様に願ったわ。……私の命を捧げますから、どうかお腹の子供を助けてくださいと」
「!!!」
「……女神様は答えて下さった……その行為があの子を傷つける何て考えもしなかったわ」
笑った王妃様。
王様との馴れ初めを教えて下さったけれど、私には理解できない事もあった。
そこまで愛した人なら何故、自分が死んだら誰か他の人を王妃にと仰ったのか?
私なら、言えそうもない。
それを言われた王様はどう思ったのだろうか。
今解るのは、王様の王妃様はお母様ただお一人だと言うことだ。
御側室様はいらっしゃっても、王妃にはしていない。
きっとそれが答えなのだろう。
お母様はいつか、リュートに伝えて欲しいと私に頼んだ。
自分が何れだけリュートを愛していたのかを…………。
彼女の身体が光輝き始めると人形から一降りの剣の姿に変わっていった。
その光景は神々しく一種の儀式のようで、いや実際儀式だから神殿でなければいけなかったのかも知れないが、私は目を離してはいけない使命感にかられて……最後まで見届けるしかなかった。
その間流れ込んでくるお母様の記憶がより一層胸を熱くした。
もう、こんな思いは終わりにしたい。
これが、この国を根本から作り直す事は出来ないだろうかと桜が考える様になった初めの出来事だった。
桜は自分の手の中にある剣を握りしめながら、初めは純粋にリュート君を助けたいと言う想いだけでここまで来たけれど、リュートに出逢い彼とこの国が幸せになって欲しいと考えが変わった。
桜は剣にリュートの元に帰して下さいと強く念じた。
◇◇◇
次第に身体が言う事をきかなくなっていったリュート。
ここまでかと最後を覚悟した時だった。
『……桜は無事だろうか?………逢いたい…』
声にならない声が届く事は無い事くらいリュートにも解っていたがそれでも願わずにはいられなかった。
もしかして、女神様が桜を元の世界に戻してしまったかもしれない、そんな考えも頭を過っていた。
可能性が無い訳ではない。……彼女に出逢えた事事態自分にとっては奇跡だと理解もしている。
この国の人間ではないからなのも有るだろうが、彼女はリュート自身を案じて思ってくれた。
それがどれ程嬉しい事だったか、きっと桜は知らないし伝えるつもりもないけれど、騙すように連れてきてしまった桜。
許されるならもう一度逢いたい。
そう願った時、空が黄金に輝き始めた。
負傷した兵士達がその光景にざわめき始める。
もう一つ太陽が現れたのかと思うほどの眩い光はリュートを包み込んでいく。
誰も動く事は出来なかった。
暖かい光に包まれたリュートは光の中に桜を見つけ、彼女は嬉しそうに自分に近付くとその勢いのまま抱きつきキスを口づけた。勿論ありのまま受け入れる。
潔癖なのはリュートも自覚していた。
他の人間が自分に口づけ様としたら力の限り拒絶するところだが、愛しい彼女なら別だ。
きっとこれは女神様が最後にくれたご褒美だろうと想い、桜の柔らかい唇を堪能した。
むしろ自分の方から貪る様に口づける。
幻でもやっと逢えた愛しい人。
リュートは自分の身体が癒されていくのを感じていた。
すると、バンバンと幻の桜はリュートの胸を叩いた。
「恥ずかしいからもうおしまい!!」
彼女の言うままに唇を名残惜しそうに離す。
彼女が放ったその言葉と共に光は消えていった。
ああ、夢が終わるのかと焦燥感に教われたリュートだが、光が消えても消えない彼女に次第に夢では無かったと理解し始めた。
回りの兵士達のざわめきも正気に戻された要因だ。
「見ろ、運命の乙女がリュート様だけじゃなく、俺達の傷迄癒してくれたぞ!」
「本当だ!!痛くない!?治っているぞ!!」
「女神様だ!!運命の女神様は俺達に味方してくれている!!」
「何故?…」
リュートは無意識に桜を抱き締めまま、目の前の奇跡に思わず呟いた。
「う~ん、もしかしてお母様と女神様が助けて下さったのかな?」
桜自身、目の前の戦場後の様な光景に驚きながらも、傷が治ったと喜んでいる兵士達を見つめて首を捻った。
何故なら、桜自身には見に覚えが無いからだ。




