リュートと戦場へ
「桜?…本当に桜?」
リュートは、桜を抱き締めていた手を緩めて顔を確認してくる。
「リュートは私だと思わないでキスしたの?」
「違う!!…違うけど、逢いたい気持ちが生み出した幻かもしれないと思って……」
慌てたところが可愛いけれど今はそんな事を言っている場合じゃない。
「本物です」
「今まで何処にいたの!?……心配したんだ……」
食い入る様に聞いてくるリュートに、ああそれだけ心配を掛けてしまったのかと思うと、胸の奥がギュッとなるのを感じた。
「ごめんね、今まで……あれ?あの場所って何て言えば良いんだろ?…場所………についてはちょっと良く解らないけど、会っていたのはリュートのお母様だよ」
「!?」
リュートは驚いた顔をした。無理もないだろう、母親は随分昔に亡くなっているのだから。
普通だったら、『何言ってんだ、こいつ……』くらいに思われても仕方がない内容だ。
「女神様の力を御借りして、どうしても私に伝えたい言葉が有ったんだって……それでリュートに預かりものがって、あれ!?剣は!?」
桜は先程迄大事に手に持っていた剣が無いことに気付いて慌てふためいた。
「剣ってあれの事かな?」
リュートが指を指した方向を見ると剣は直ぐ近くで浮かんで要るではないか。
いつの間に離してしまったのだろう!?リュートに逢えたことが嬉しくて、つい抱きついちゃったから、その時手離したに違いない。
すみません、お母様。
桜は慌てて剣を手に取るとリュートに手渡しいた。
「そう……リュートのお母様がリュートの為にと私に手渡した剣なの。だからこれはリュートが持っていてね」
桜か手渡された剣を大事そうに受け取るとリュートは無言のまま見詰めていた。
「…………これを、母上が?…」
「この剣はリュートを必ず護ってくれるから、肌見放さず持っていて………お母様の愛が込められているから」
「!!!」
まるで小さな子供宝物を手にした見たいに大事そうに手にしているリュートを見ると、剣がリュートの手に渡るまでの経緯を知っている桜は、どうしても切なくなった。
「それと、お母様からの伝言………どんなに遠くに離れていても愛してる。……私の子供に産まれてくれて有り難うって………」
「!!……母上……」
リュートは下を向いて俯いていた。
心なしか肩が震えている様に見えたから、私は腕の中に彼を抱き締めた。涙を他人に見せられる立場の人ではないから。
リュートは私にだけ聞こえる声で『………有り難う……』と言った。
その言葉だけで、リュートがお母様を何れだけ思っていたのかが解ってしまう。
「お取り込み中申し訳御座いませんが……………」
声をかけてきたのは、桜の知らない男の人だった。
「……お前………察しろよ。やっと桜と再開出来たんだ、ちょっとくらい想いに浸ってもバチは当たらないだろう?」
答えたのはリュート。
桜の胸に顔を埋めながら喋るものだから、擽ったくて仕方がない。
「察したいのは山々ですが…………まだ戦は終わって降りません故……」
「!!…リュート、ほら!!…ちゃんとして?」
「……………やだ」
「やだって!!…もう!!」
それを聞いた桜が慌ててリュートを引き離そうとするが、当のリュートは抱き付いている腕の力を強めて離れない。
目の前の見知らぬ男が無言で桜を見詰めてくる。
その目が、そして口の動きが何とかしてください、と言っている。
私にどうしろと言うのか!!
「…………はあ………リュート?」
「……何?…」
桜の声にだけ反応するリュートが、ちょっとだけ可愛いと思ってしまうのだから重症だ。
だが回りを見ると、信じられない者を見ていると言った表情の兵士達に桜は心を鬼にする。
実際、共に戦場を駆け抜けてきた者達にとってリュートは、憧れと崇拝の象徴だ。
そのリュートが、死の縁から生還しただけではなく恋人に甘えると言う人間らしいところを見ると、より身近に感じられて、一層好感度が上がっている事なんて桜には解らない。
それも日頃のリュートが頑張ってきた結果なのだから、本来なら心行くまで堪能して欲しいところだが、そうも言っていられないので、影が代表して諌めた次第だった。
「リュートの格好いいところを私にも見せて欲しいな?……全部が終わったら、後で一杯時間が有るから、今は頑張ろう?」
その言葉が、自分の首を絞めることになるなんて、この時の桜には知る由もなかった。
「!!……約束だからね?」
言質を取ったリュートは、その言葉の勢いのまま桜に口付けた。
子供の姿になったリュートに皆驚くが、何故か寸なり受け入れてしまうのは、今まさに自分達の傷まで治してしまうと言う奇跡を目の辺りにしたから。
「何で!?」
驚いた桜の抗議も虚しく、気力を取り戻したリュートは『体力温存しないとね?』と素敵な笑顔を見せるから、もう何も言えなくなってしまった。
「その笑顔………狡い」




