桜と母上part?
「桜さんが言っている意味での精霊では無いわね。……自然界を司る精霊ではないの。……詳しくは今は説明を省かせて頂くわね」
ふふふと言いながら答えてくれるリュートのお母さんは、リュートにそっくりな笑顔だった。
いや、違うか。リュートがお母さんにそっくりなんだ。
確かに今言われても頭で理解するには知識が無さすぎる為、桜はその点ついては大人しく頷いた。
それ以上に心を閉めたのは……、
「……私の名前…」
それにしても、好きな人のお母さんが私の名前を知っていてくれているとか、嬉しい様な恥ずかしい様な。
「姿こそ見えないけれど、私はずっとリュートと共にいたもの。……それに息子のお嫁さんに来てくれる娘さんの名前くらい知っていたいじゃない」
美女がはにかむとかやめて欲しい。
同姓でも変な気分になってきてしまう。……私はこの顔に弱いんだろうか?…不安になってくる。
そんな事を考えているうちに、自分が自己紹介すらしていない事実に唖然としてしまった。
「!!!……えっと、初めまして?で正しいのかな。……桜と申します。宜しくお願い致します。」
まさか、今までのあれやこれやを全て見られていたのだろうか?
もうテンパり過ぎて何が何だか解らなくなっていた。
「……改めまして、リュートの母のナディアと申します。……息子を好きになってくれて有り難う。……あの子は父親に似てちょっと面倒くさいところが有るでしょう?…貴女のようなお嬢さんがお嫁さんに来てくれるなら、母としてとても安心だわ」
どう答えるのが正解か?
実の母に面倒くさい性格と言われるリュートと旦那さんって、ちょっと確かに面倒なところがあるからなあ。
まあ、リュートのお父さんは知らないけれど。
「でも、リュートは優しいです」
これが私の本心。……リュートは優しい。
だから彼は傷付く。
「有り難う」
1番嬉しそうな顔をしたナディアさん。お母さんの顔をしてる。
「ナディアさん、どうして私をここに連れてきたんですか?」
ナディアさんは笑顔のまま一瞬黙ると、
「お母さん、って呼んでほしいわ」
って言ってきた。
自分の顔の偏差値が高い事を知っていての仕草だろう。
彼女は可愛くおねだりするように私に言ってくる。
私には断る術はない。……それに、もう現実では言える人がいないから、正直嬉しかったと言うのもある。
「お母様…」
「はい、なあに桜ちゃん?」
うん、この人は確かにリュートのお母さんだ。
「お母様、どうして私をここに連れてきたんですか?」
「女神様の神殿でなければ流石にこの空間にも連れてくるのが難しかったから、でもあったし、1番はもう時間が無いから」
おかしな事を言う。だって……既に肉体が無いのだから時間など無限ではないのだろうか?
「時間が無いとは?…」
「……聖霊としても、もうリュートの側にはいられないの」
精霊とは、守護霊を言うのだろうかと、私は思った。
でも、それにしても何故に時間がないのか?
「無理を言って、リュートの側にいさせて貰っていたけれど、それは自然界の断りを逸脱する行為。……無理が生じ初めてしまったから。……だから、今回強行させてもらったわ。……輪廻の理を曲げてまで叶えたかったけれど、もう今までの様にはあの子の側にはいられないから」
「お母様……」
「あの子にどうか伝えて欲しいの………愛していると。……ずっと、ずっとどんな姿になろうとも………」
どう答えていいのか解らない。
どんな言葉をかけても、薄っぺらくなってしまいそうで。
「これから……どうなるのですか?」
やっとの事で絞り出した声。
死んでいるお母様……今度は魂が天に召されるのだろうか?
リュートはお母様が側にいたことを知らない。
お母様の言葉から、それが解ったけれど、責めて…リュートに会わせてあげたい。
家族を亡くした私だから、余計にそう思うのかも知れない。
「私は……あの子の力になるわ。……あの子の剣になる。だから、それをあの子に渡して欲しい」
「何を言っているんですか?」
「女神様にお願いしたの。……もう、生命有るものに生まれ変わらなくて良いから、あの子の助けになる、剣に生まれ変わらせて下さいって。……あの子を護る力に…」
「!?」
剣に生まれ変わるの?…お母様が?
リュートのために?
でも、そんな事を絶対にリュートはそんな事を望まないだろう。
「考え直して下さい!…リュートはそれを絶対に嫌がりますよ!?」
「そうかも知れないわね。……でも、これがあの子の為に出来る最後の事だから。……王家に生まれたのに魔力すら持たせてあげられなかった、ダメな母親の私に出来る最後の事……」
逆境だらけのリュートが今まで生きてこれたのはきっとお母様の護りの力があったから。
そんな気がした。
「あの子を身籠る前、と言うより王家に嫁ぐ前ね……女神様が私の前に現れて予言をされたの。……私には子供を生んで育てるだけの力が無いって……」
「え!?…それで…」
結論は既に目の前にあるが、どうしても聞きたかった。




