32 緊急家族会議3
「オットー。ギルドは魔物の動きをどれくらい掴んでいたの?」
「はい、坊ちゃん。まず、ガイエス領内にAランクの魔物はブラッディーグリズリー一頭、ブラックウルフ5頭以上の群れが三つ、ヘルタイガー一頭が確認されています。Bランク以下に関しては多すぎて報告できないようです。キュプナー子爵領で確認されているのがブラッディーグリズリー三頭、ブラックウルフ5頭以上の群れが五つ、ヘルタイガー二頭、フォレストバイパー一匹が確認されています。こちらもBランク以下に関しては多すぎて報告できないようです。Aランク魔物は進行方向が重ならない様にゆっくりと他の魔物を捕食しながら進んでいるようです。防衛力のない村は、キュプフェルトに避難しています。ただ、低ランクの魔物の進行速度は速くキュプフェルトも魔物に囲まれるのは時間の問題かと思われます。」
「魔物の分布を書いた地図貰ってきた?」
「何とか書き写させてもらいました。大分ごねられまして金貨三枚取られました。」
「さすがギルドだねぇ。こんな時まで情報量を取るとは…金貨三枚分は後で取り戻すとして…キュプナー辺境伯からの救援要請のルートは分る?」
「はい、王都への最短ルートのこのルートですね。」
「Aランク魔物はいないし、かなり安全そうなルートだね。」
大人たちも地図を覗き込み、首を傾げていた。
「ちょうどいいからこの地図に軍の状況と進行具合を書き込んでくれる?」
大人たちが地図に書き込んでいる間に別の地図にAランク魔物の進行位置を写してキュプフェルトに丸を付けできるだけAランク魔物に当たる様にキュプフェルトまでのルートを記入していく。
ブラディーグリズリー二頭、ヘルタイガー一頭、フォレストバイパーと接敵できそうだ。
大人たちは訝しそうにこちらを見ている。
ママンの顔が引き攣っているから、ママンは俺の考えを分ってるのだろうね。
さて今いる大人で戦力になるのが祖父ちゃんLV57
「祖父ちゃん強いねぇ。」思わず声が漏れる。
祖父ちゃん自慢げに胸を張って聞いてきた。
「分るのか?」
「LV57で魔力量もママンに次いで大きいよ。スキルは分らないけど身のこなしから見ると父さんは子供扱いされているね。」
「そうでもないぞ。カールも強くなっておるし儂も年には勝てんわい。わっはっはっはっ」
フランツ伯父さんはL38でノーラおば…姉さんがLV44
さてみんな地図に書き込んでくれたし…
「祖父ちゃん今やらなきゃならないことはなに?」
「キュプナー子爵からの救援依頼を女王陛下に届けることじゃ」
「だね!あと魔物の進行速度を遅らすことかな?」
「うむ」
「女王陛下に内々に上進出来る?ママンどの途知り合いでしょう?」
ハッとした顔でこちらを見つめ、あきらめた様子で答えるママン。
「学園でヒルデ先輩と一緒にお世話になったわ。ノーラが手伝ってくれたら手紙を送れる仲よ。」
「それじゃー方針を決めようか?一つは死ぬのを覚悟で王国の危機を救うか?この場合は南派閥と敵対関係になるよ!もう一つはこのまま静観を決め込んで安全策を取るか?この場合十中八九帝国と戦になるね!さあどっちを選ぶ?」
「「「「「「もちろん王国の危機を救うだろ!」」」でしょ!」」」
「うんわかった。祖父ちゃん、ノーラ姉さん至急魔物退治の準備をして。できれば明日出発したい。この地図の進路でAランクの首を刈りながらキュプフェストを目指すよ。帰りは最短距離で暗殺者を刈ってきれいにするつもりだからね。相手の数は暗殺スキル持ちのB、Cランク百人位ってところかな?父さんとオットーなら倒せるよね?」
大人たちの顔が引き攣っている。
「ママンは女王陛下とケルナー辺境伯にお手紙書いて。今話した事とこの地図を送ってくれる?祖父ちゃんは軍務卿に説明してね。ノーラ姉さんは女王陛下にお手紙届けるのと近衛をしばらくお休みする手続きね。」
ママン、祖父ちゃん、ノーラ姉さんの顔がさらに強張る。
「オットー宿にいるモース達にキュプフェルトまでの同行依頼出してきて。ルートを聞かれたら正直に答えてね。魔物の分布とかの余分な情報は与えなくていいから…」
「メンバーは祖父ちゃん、父さん、ノーラ姉さん、オットー、ママンに俺。モース達がOKなら十一人になるね。馬九頭に糧食と予備の武器用の四頭立ての幌馬車一台で準備お願いね。魔力回復薬とかあると助かる。作戦終わったら俺死ぬかもしれないけど許してね。みんなは生き残ってもらうつもりだけど…」
続けて話をする。
「どうなるか分らないから一応言っとくけど、ガイエス辺境伯との落としどころは、長男の命と魔獣の森周辺領地の交換。貿易で儲けている分に課税して南派閥の弱体化と金権政治に歯止めをかけることかな。ただ、南辺境が経済的にワーズ共和国の支配下になる恐れがあるから慎重にしないとね。腕のいい外交官がいるといいんだけど…」
「出発は明日の昼過ぎね。一日五十㎞進むペースで五日ってとこかな?」
「祖母ちゃんと、メリザ達は姉さんや兄さんの護衛ね。下手するとこの家襲われるから祖父ちゃん家に移った方がいいよ。ユリウス兄さんの準備しっかりお願いね。ルーデ祖母ちゃんに帰るのが遅くなるって連絡もしといてよ。」
真顔で祖父ちゃんが俺に聞いてきた。
「ジークお前は神の御使いか?悪魔の化身か?どちらにしても化け物には変わりないが…人の味方なんじゃろうな?」
「じいちゃん失礼なこと言うね。称号は分らないから何とも言えないけどカール父さんとマリー母さんから生まれた赤ん坊だよ!大分変っているけどね。鑑定のLVが上がったらわかると思うからそれまで待ってよ。人の味方かと言われてもねぇ~一番理不尽なのが人だからね。ただ俺は人族で家族も人族。大切な領民も人族、祖父ちゃんは王国民が大事そうだしそれを守るためにお手伝いもする。祖父ちゃんも大事だからね。ガイエス辺境伯は敵認定だから人族でも敵対するよ。帝国人やエルフ、ドワーフ、獣人でも大切に思える人がいれば味方になる。自分の価値観に正直にいくよ。」
「あいわかった。何も分らないということがな。でもそうじゃろうて…やっぱり生まれたばかりの価値観が定まっておらぬ赤子なのじゃな。これからの大人の影響でどうにでも染まってしまうということじゃ。我々大人がしっかりせねばならんのじゃな。この度はいい加減な対応を取ってすまんかった。ジークに胸を張れる大人として行動していくわい!わっはっはっは」
愉快愉快と呵々大笑する祖父ちゃんにつられみんな笑い始めたが引き攣った顔の人も数名いる。
「話も纏まったことだし夜も遅いけど至急根回ししなきゃいけない人が一杯いるからこれで解散ね。ママンに、祖父ちゃん、ノーラ姉さんにオットー一仕事してね。」
俺は椅子からヨイショヨイショと降りてトテトテと自分の籠ベッドに移動して毛布に包まり寝ようと思ったが思い直した。
「セバス書庫ある?中級魔法以上の魔術書とかあれば持ってきて…念入りに準備はしておきたいから。あと僕用のナイフもね。」
「畏まりました」と言って直ぐに三冊の本を持ってきてくれた。ソファーの上で読みながら寝るとしよう。
忙しそうな大人たちに『人生はままならないんだよ!』と云おうとして結局自分にブーメランだった。
読んでくださってありがとうございます。




