第十八話 これが私のepilogueであるようです。
まじで消えやがった。
言っても、私の挙げた功が無かったものとして消失するなんて事、そんなピンポイントで最悪な状況が訪れるわけないだろうと、タカをくくっていたところがあったのに――まじで訪れやがった、私にとって最悪な現実が。
『極東の極地に巣食う魔王を討伐した』ということで、功は見る影もなく萎んでしまった……。幾人もの犠牲を出した、まさしく大討伐であるから、盛大な労いはあったとはいえ、「お疲れ様」、「頑張ったね」、「君のことは覚えておくよ」――と、功の成果はその程度だった。嘘……。
あのとき邪念を込めなかったことを後悔したりもしたが、もう遅い。
呻き声を殺しながら口漏した様をあのクソ聖女に笑われたときは、人生で初めて、おそらく本気の殺意が湧いたりもした。クソが。――ただ、こいつらの功まで奪ってしまったことに一抹の負い目を感じていた中、まったくそのことを気にしないふうの連中には、正直、救われたところはあったが……。
人間、らしくないことをした結果とは、おそらく、こういうところに落ち着くものなのだろう……。
とはいえ。
この旅路で私が得たいくつかのものは、実は、私を再び表舞台へと引き戻すに足る価値を有した宝玉であった。
アマリリス。
【狂気と博愛の聖女】なぞというあざ名で呼ばれていた、あいつの地位は、王族に準ずる身分を頂く特別なものであった。まあ、悉くを癒すことの叶う人間だ、考えてみれば当然ではあるだろう。
「ふぅん、本当に、救済を願ったわけですか。ふふふ、人間、分からないものですねぇ。――私? 最近は、極東の地に関わることで奔走しておりますわぁ」
社交界へ頻繁に顔を出す立場ではなく、むしろ本人が嫌煙しているおもむきもあったが、彼女と親しい(×親しい。〇親しく見える)という事情は話のタネになり、またあいつも私のことを、なんだかんだ気にかけているのか、社交界に良い風向きを与える存在になってくれた。
「あのとき【魔王の魔法】を使い、結果的に極東の民を【掌握】からも解放する結末を齎してみせた、その手腕と意思は覚えておきましょう。あなたがもし傷つき病んだときは、ふふ、私が癒して差し上げますわぁ……」
なんででしょうね、できればその方面では、厄介になりたくないわ……。
セレネ。
彼女の身内は、さすが魔術師の系譜、どういった方法でか『現実改変』の掌握から逃れ、そして、使命を果たした彼女を盛大に出迎えたということだ。正直、その話を聞いたときは、少しだけほっとしていた。
「フッ……ボクの次なる旅は、どこに赴くことになるのか……風のまま行くのだろう……」
社交界にいれば、ただの「なんだかヤバい奴」だが、このチビ魔術師もアマリリスと同じく、居ることで地位を確立している人種だ。時たまセレネの一族に近しい場所にある方たちから話しかけてもらえるようになり、それが様々なキッカケに繋がったりもした。
あいつはまた、世界が最終的な危機に陥ったそのとき、『最終手段たる切札』として戦陣を渡るのだろう。まあそれまでは、ただのチビ魔術師である。
「次の冒険も共に行くなら、その時はまた、私が守ってあげる」
もう冒険はごめんよ。『収納』の亜空間は元の大きさに戻ってしまったし、魔王の結晶魔法も使い切ってしまったもの。まあでも、そのときは守ってちょうだい。
そして、アダムス。
彼は、この大陸で第一位の影響力を持つ、かの国の王の、近衛騎士だった。
彼との繋がりで、その大陸第一位の影響力を持つ王様とお近づきになれた。一足飛びどころではない、一歩で。
――――なんじゃい、その、どんでん返し。
そういう意味じゃ、この旅で得た宝玉云々の話で言えば、もうアダムスだけでよかった。
あの筋肉騎士こそ宝だったなんて、想像つくか。
王からは大層な信頼を寄せられているらしく、そんな彼の紹介から現れた天上人は、こちらが面食らうほど柔和で友好的な破顔の笑顔をもって私と接してくれた。社交界での友好の幅が、百段くらい上がった瞬間だった。
そういうわけで。
私が表舞台へ返り咲けた理由の、九割九分九厘の訳合いは、あの筋肉騎士との繋がりであったということだった。
なんじゃそりゃ。
「ヴィオラ嬢、筋肉は今日も精進しているか?」
まあ、これも考えてみれば、あんな無敵筋肉が騎士だというのなら、王の中の王たる御方に仕える近衛騎士であるに決まっているか。
あとから考えても、あいつだけ、飛びぬけておかしかったからな。
【魔王】の攻勢を全て受け切っていたからこその、あの余裕のある展開であったわけで。なんで最大戦力が、運命の輪の外から来た筋肉なんだよ。
「筋肉。ヴィオラ嬢、これからも共に――いや、貴殿にも負けぬよう、己に恥じぬ筋肉を心がけて邁進してゆこう!」
はいはい、筋肉筋肉。
こんなところが、私のエピローグである。
世界滅亡に瀕しての魔王討伐ほどの、分かりやすい功は消えてしまったが、まあ、悪くない結末は迎えられたわ。――私の野心は止まらない、まだまだ、ここから昇っていって見せるけれどね。
「――しかし、それにしても、どうして私たちを側近なぞに据えたのですか?」
「――――同じく、疑問に思います」
元組織課の探索士、サハルとガイルの疑問の声に、私はフンと鼻息鳴らして答えた。返り咲いたら、絶対こうしてやると決めてたからよ。
「それにしても、とてつもない大枚を叩いてまで、私たちを引き抜くとは……」
呆れを浮かべた二人に向いて、なんでもない話を向ける。
ちょうどいい時間だし、食事でも取りに行きましょうか?
「はあ。――私たちとですか?」
そうよ。
理由? ――もう少し人間らしくを目指して、余裕を持てるように頑張ってみることを決めたから。それだけよ。
いいから行くわよ、何が食べたい?
◇
小さなことから始めた変化、今更につけた胸元のペンダントに意味があるのかは分からない。
ただ私は、あのとき頂の席に背を向けたその心境を、生涯忘れることはないだろう。
どんなに性格が悪かろうと。
どのようにか、誰かと接する方法を見失ってしまっても。
どうしたって、隣人の熱にふと触れてしまうから。
悪役だろうと、悪女だろうと。人と関わらずにいられない。
高らかに笑ったそのとき。
私の歩んだ道こそが、世のあるべき形と胸を張って言えるように、今日も、この足が選んだ道へと歩み出す。
指先で開ける私の空間に、旅荷を詰め込んで。
悪役令嬢は、魔王討伐パーティーの荷物持ちです。~没落なんて認めません、魔王を倒して返り咲きます~ ――了。
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