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公の場で公開していない過去作を出してみようということで出してみます!
十日弱毎日投稿して完結させますのでお付き合いいただけると嬉しいです
昔からゲームは好きだ。
友人からは脳筋と揶揄われるけれど、レベルを上げて殴れば勝てるのだからパワーを鍛えて何が悪い。
バランスを考えろよ、と友人には言われるけれど。攻撃力の高い武器や、攻撃力が出せるジョブに惹かれるのだから仕方ない。
そんなこんなでいま……俺達は……魔王城に来ている。
魔王城、と言ってもデロデロの何かが生息していたり、マグマが湧く洞窟のような場所だったりはしない。
とてもセンスの良い、ただ、魔王城らしく黒と赤が基調となっているしゃれた城の中だ。
このゲームは新技術を導入したVRゲームであるため、映像はもちろん滑らかで触覚も若干ある。
痛みはないが何かに触れる感覚はあるので。このゲームを始めたばかりの二ヶ月前は仲間内でぺたぺた触りあったりしたものだ。
「お前、ほんとにステが物理全振りだな」
声を掛けてきたのは女魔法使いの格好をした『佐野』だ。
「適性があったし、物理を伸ばした方が強くなるだろう!」
「いや、魔法防御とか……ていうか魔法も使えるだろ、タンクとはいえ」
「強化魔法は完璧だぞ! めっちゃ速く走れるし壁ブチ破れて楽しい」
「壁壊せるのは便利そうだけどさ……一貫してんなぁ」
「それにしてもタンク適正100%とか動画とかでも見たことねぇー」
佐野と話していると笑ってくるのは佐野と同じくゲーム仲間の『林』だ。
そう言う林は竜騎士という謎の職業で。槍を担いでいる。
このゲーム……『ホムンクルス』は特殊なゲームだ。
ストーリーらしいものはなく、人間と魔族が共存、若しくは戦争を繰り広げる仕組みになるように作られている。
プレイヤーは最初に人間か魔族を選択し、適性検査の結果から推奨されるジョブを選んでこの世界で行動する。
このゲームの最も大きな特徴はNPCが最小限でプレイヤーが思い思いに様々な『キャラクター』になれる仕様にある。
いま訪れている魔王城もこのエリアに元々君臨していた、NPCの初代魔王を討伐し、スキルの条件を満たしたプレイヤーが魔王として君臨している城のひとつだ。
『人間側』のプレイヤーとして三人で魔王城を訪れたのは。ダンジョンとしての経験値稼ぎとアイテム回収……そして魔王を調べるためだ。
「にしてもここの魔王を誰も調べてないのは、調べる必要ないからだろ」
林の言葉に俺は確かに、と頷いた。
この魔王城を調べようと言い出したのは佐野だ。
俺は行ったことのない魔王城だからついてきただけで、強い武器が拾えたりドロップしたら嬉しいなという程度の目的しかない。
「ここ、人気の魔王城だもんな」
そう。
この魔王城のダンジョンは攻略サイトでお勧めされるほどに人気なのだ。
魔王になったプレイヤーはいわばゲーム内に領地を与えられたようなもので。ダンジョンを作ったり街を作ったり、フレンドを幹部にしたりできるようになるのだ。
ダンジョンが広大で、休憩ポイントが充実しているのは古参の証。
魔王の名前は忘れたが、なんか格好いい名前だった気がする。
「魔族が『人間』を食べて、それがバレたら手配されて他のプレイヤーがこぞって討伐しにくるんだぞ。ただの魔族ならまだしも、魔王にまでなった奴がそんなことしないだろ」
「絶対課金してるもんな!」
「それもそうだけど、なんかお前と同じ意見なのやだな」
そんなやりとりをしながら広い玄関ホールを抜ける。
おおよそのプレイヤーは街かダンジョンに用があるので城に足を踏み入れるものは少ない。
作り込まれた城は綺麗で。いたるところに飾られた甲冑の像なんか、いまにも動き出しそうだ。
もしかすると狼藉を働いたプレイヤーは甲冑に襲われるのかもしれない。
「そういえば魔族側のプレイヤーに食べられた人間側のプレイヤーってどうなるんだ? プレイヤーを倒すだけなら別に食べたことにはならないし、そもそも魔族ってなんで人間を食べるんだ?」
「なんでゲームしてて知らないんだよ」
ふと疑問に思ったことを問いかけると佐野が呆れたように肩を竦める。
「食べられたら、ロストになって最初からやり直しになる。慈悲なのか一部アイテムは持ち越せるけどキャラメイクからだな」
「人間を食べた魔族は魔力の上限が倍になるんだよ。あと食った相手によってはスキルをそのまま使えるようになる」
佐野と林が口々に教えてくれる。
聞いたような話だったがあまり関係がないと思って忘れていた。
「力が倍になるんだったら血迷うところだった」
思わずそう零すと二人が笑う。
正直、調べようと言った佐野も。この城の魔王が本当に人間を食べているとは思っていないだろう。
魔王のいる場所はダンジョンとは別の、迷宮になっている城の最上階だ。
キリのいいところでセーブポイントにたどり着けると良いのだが、と思っていると赤い絨毯の上にきらりと光るものがあった。
「あっあれはパワーアップ……あそこにも……」
思わず拾うと。林に頭を小突かれる。
「お前……米拾って罠にかかるスズメじゃねぇんだぞ」
「あぁ、でも三つも手に入った! なんでだろうな」
さっそく強化素材を使う。
流石は有名な魔王城、と思いながらさぁ色々集めよう、と思って目を上げると……佐野と林が居なかった。
いや、違う。
先ほどまで玄関ホールを抜けた先の階段の前に佇んでいたのに。いま居る場所は重厚な扉の前だ。
どうやら林が心配してくれた矢先、俺は罠にはまったようだ。
絶対に何かある、という感じの扉なのだから近くにセーブポイントがあるはずだと思って探したけれどない。
戻って二人と合流することも考えたけれどマッピングも何もやっていないのだから積むのが見えている。
迂闊に歩き回ってモンスターに遭遇するのもまずい。
推測するしかないが、扉の前に掛かっているシャンデリアやただの廊下に点々と置いてある豪華な燭台を見るに、いまいる場所は多分、魔王城の最深部だ。
ひとりきりで魔王城のモンスターと戦うほど無謀ではない。
だがどのみち、この扉の先で何かがあったら積みではないか。
ここまでくるとこれ以上考えても仕方ないと思った。
思えば俺のいる場所は魔王城の最深部だがセーブしたのは魔王城に入る前だ。時間にして十数分。ならばゲームオーバーになってもそこからやり直せるし逆に二人にも追いつける。
むしろこの扉の向こうに何があるのか知っていた方が後々役に立つのではないか。
そう判断した俺はバーンと大きな扉を力任せに開いた。
てっきりドラゴンでも居るのかと思っていたので、広くて薄暗い、静かな部屋で拍子抜けした。
廊下からの光を背に受けるような状態だったので室内の薄暗さに目が慣れていない俺は、目を凝らして室内を見……大きな窓から入ってくる蒼白い月明かりに照らされた豪華な椅子を見て息を飲んだ。
そこに座っていたのは黒い髪に紅い眼をした綺麗な……男だ。
思わず見惚れてしまったけれど、男だ。
玉座っぽい豪華な椅子に座っているし、十中八九、この人が魔王だろう。
「初めまして! お邪魔してます!」
うっかり罠にはまって玉座の前まで来てしまったけれど。自分には討伐の意志もなければ魔王を調べるスキルもアイテムも持ち合わせていない。
食べられたとしても自分はパワーに全振りのタンクだ。
指名手配をされてまで取り入れたい能力があるとは思えない。
「初めまして、元気が良いね」
玉座のお兄さんはにっこりと微笑む。
確か……名前は……
そう思いながら相手の頭上に書いてある名前を読もうとするけれど。英語表記なので音が正しいかわからない。
「ぼ……ヴァ……」
「ツカサでいいよ」
「えへへ、ありがとうございます! 俺はポチですが、本体は直哉っていいます!」
プレイヤーネームを読めないことを察してくれた魔王様はかなりいい人のようだ。
ますますこんな人が人間を食べるとは思えない。
ちなみにポチというのは俺のプレイヤーネームだがバイト先の居酒屋の店長につけられたあだ名でもある。
わかりやすくていいと思ったけれど屈強なタンク職の男につけるにはちょっと可愛すぎる名前のような気がしている。
改名できるアイテムが手に入ったら、ザンギエフ的な名前にしたい。
「そう……直哉君。ここには迷いこんじゃったの?」
「はい、パワーアップ拾った時になんでかここに飛ばされちゃったみたいで。このお城、本当に広くて楽しいです!」
「それはよかった」
そう言うと魔王様……じゃない、ツカサさんが笑う。
キャラメイク頑張ったんだろうな。
滅茶苦茶綺麗系のお兄さんだ。
ちなみに俺はグラディエーターっぽい筋骨隆々の男キャラだ……世界観を壊してないかな、俺。
「うっかり入っちゃってごめんなさい、友達も下の階に居るんで帰りますね!」
なんだかこの幻想的な部屋に自分が居るのがおかしい気がしてきたし。ツカサさんはこんなきれいなところで誰かと待ち合わせとかしていそうな雰囲気だったので早々にこの部屋から出ることにした。
とはいえ出たところで迷ってモンスターと遭遇して救援を待つしかなくなる未来が見えるので。厚かましいと思いつつ俺はツカサさんをちらりと見た。
「申し訳ないんですが、帰り道、教えてもらえませんか」
教えてもらえなかったら致し方ない。
強化魔法をかけて窓から飛んでみよう。
ちょっとダメージが入るかもしれないけれど気絶するほどではないだろう。
というかどのみち、死んだところでセーブポイントからやり直しになるのだ。手を借りる必要もなかったかもしれない。
そんなことを考えているとツカサさんが笑った。
「悪いけど……僕、君の事気に入っちゃった。しばらく飼ってもいい?」
ふふ、と吐息を漏らすような控えめな笑い方に少しどきりとする。
女性だったらなぁなんて思っていると玉座に座っていたツカサさんがふっと霧のように姿を消して……反応する間もなく背後から腕を回されていた。
後ろから抱きしめられる感触はゲームの中の感覚の為、不完全だが確かなもので。
頬に髪が当たる感覚や上質なローブが肌に触れる感覚も伝わってきて……何故かどきりとした。
「ひぃっ⁉」
「ごめん、びっくりさせちゃったね……直哉君」
そうなって初めて。本名を不用心に名乗ったのはまずかったかもしれないと思い始める。
しかし、魔王様は男性で中の人のツカサさんも多分男性だ。
じゃあやっぱり、いまのはアレかな。
ゴールデンレトリバーとかシベリアンハスキーの背中にモフっとやる感覚だったのかもしれない。
なんでか知らないけれど昔から俺はデカい犬っぽいと言われる。
居酒屋の店長さんにポチって名付けられたのもそのせいだ。
ならば毛皮装備とか付けてくるべきだっただろうか。
「俺の手持ち『雪の狼』しかないんですけど……」
「……ごめんね、何の話かな」
「抱っこしたいんだったらモフモフ装備が良いのかと思って」
振り向いて笑ってみるとなんでかツカサさんが少しぽかんとした顔をした後、笑った。
さっきの、綺麗な微笑みとは違う、しょうがないなぁみたいな顔。
それはまさに飼い犬がやらかした時の飼い主みたいな顔だったので。俺は自分の憶測が正しいことを確信した。
「飼うっていうのはよくわからないんですけど何かの契約ですかね?」
ゲーム内の設定に魔王に使われる人間というものがあるのだろうか。
きっと自分が読み飛ばしたチュートリアルの中にそういうものがあったのだろう。
「うん、おいおい『契約』はしたいかな。しばらく一緒に居てくれる?」
ツカサさんは楽しそうににこにこしている。
こんなに静かな部屋で過ごしているのに寂しん坊さんなのだろうか。
いや、ツカサさんはヴァ……ヴォ……みたいな格好いい名前の有名な魔王様だ。
人と交流したいなら少し外に出れば交流したいプレイヤーが詰めかけるに違いないほどの有名人なのだから、寂しん坊なわけがない。
「友達と一緒に魔王城を攻略できないのはちょっと惜しいですが、自力ではここから出ていけませんからねー。この辺りを探索させてもらっていいなら!」
「勿論それは自由にしたらいいよ。でも危ないから僕も一緒に行くね」
「えっそれは嬉しいです!じゃあここにいる間だけでいいんでフレンド申請してもいいですか? 直接チャットとかできると思うんで入れる日にご一緒していただけると」
そう提案するとツカサさんは笑顔のまま頷いてくれて手早くフレンド申請を済ませたところで。今日、これからちょっと近くを散歩してみる?と聞かれて。俺は『散歩行きたいです!』と諸手を上げて喜んだ。




