↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界謎作劇場  作者: k-9b
#2 気が付けば、チャラいロミオとクールなジュリエットに挟まれていた
PR
47/47

嬉しくもあり、同時に悲しくもある。

第六章 僕が考えた最高のハッピーエンド

 外套姿でドローンの前に登場した僕は、台詞を吐きながら墓の中で横たわる二人の前へ歩み寄る。僕そしては、横たわる二人を抱き起し、無理やり口づけをさせた。


 仮死の薬の時間差で丁度、硬直の解けた二人は、目を大きく見開く。


 これで目覚めのシーンも完璧だ。



「終了」



 ドローンに向けて終了を宣言した僕。


 やり切った達成感。僕はその美酒に酔いしれる。


 導き出したのは。


 器用貧乏にそぐわない。


 僕らしくない答え。



「ネモ? お前っ! ふざけんなよっ!」



「流石の私でもこれは、怒るよ?」



 撮影終了後、恋司さんと若葉さんが僕に詰め寄って来た。


 僕は、珍しく動揺して頬を赤く染める二人を見て鼻で笑う。


 完璧なタイミングのアドリブで二人の鼻を明かしただけだ。


 何も悪い事はしていない。



「はははっ、子供の悪戯に大人二人が大人気ないですよ? 熱いキスで目覚める二人。浪漫のある希望に満ちた終わりって素晴らしいじゃないですか」



「ほう—— そんな戯言が言えるのか」



「ちょっとくらいお仕置きした方が良いね。心苦しいけど、これもネモ君の為だ」



 生意気を言った代償は、高かった。恋司さんから羽交い絞めにされ、若葉さんからは頬をこれでもかと抓られた。勿論、これくらいで済むならお安い御用だ。


 甘んじて受け入れられる。



「いたたっ——」



「ネモが悪い」



「ネモ君が悪い」



「はい……すみませんでした」



 正座する僕を腕を組み、じろりと睨み付ける恋司さんと若葉さん。



「つうか、妖精王オーベロンってなんだよ? この本に出て無かっただろ?」



「そうだよ。どっからそのヘンテコな王様出て来たの?」



「些か説明がし辛いのですが—— この本を書いた人間は、他にも沢山の本を書いておりまして。その中の一つから拝借しました」



「それで大丈夫なのかよ?」



「一個目と二個目のルールから外れてるよ?」



 当然、懸念はある。だが、それも織り込み済みだ。



「それに関しては、問題ないかと。ロミオとジュリエットは死を確実に迎えています。その先で生き返ったのは、恋司さんと若葉さんですから。破綻はしてません。違和感なく、完成させました。それに書いた本人も本の内容よりもどれだけ人を惹きつけるかを念頭に置いてました。だから趣向と趣旨も逸脱していませんよ」



 物語を台無しにしたのではなく、シェイクスピアが書いた筋書き通りには終わらせている。其処にその道のプロである気紛れな妖精王オーベロンをヘッドハントしただけの話。


 生き返らせたのもロミオとジュリエットではなく、恋司さんと若葉さんだ。


 余計な尾ひれが着いただけで物語は、破綻して居ない。


 一番の肝は、本当に関係の無い作品から都合の良い登場人物と設定を拝借したのではなく。シェイクスピア自身が書き上げた名作『夏の夜の夢』から最強の帳尻合わせ役を呼び寄せた事にある。悲劇と喜劇のハイブリッド。それが僕の出した答えの正体。


 また、シェイクスピア自体も売れ専の脚本家であり、客を呼び寄せられれば、何でもする様な商売人気質。しかも元にあった題材を改変しているので文句は言えない筈だ。


 第一と第二のルールを都合よく解釈した結果の産物と言われれば。其処までだけど。


 やるなとは言われていないので可能性に賭けた。



「何だか分からんが……上手く抜け穴を突いたって事だな? お前ってヤツは——」



「ほんとに悪い子だなあ……」



「強かと言って下さい」



 胸を張る僕に恋司さんと若葉さんは、呆れ果てる。


 二人を困らせない様に。


 振り回され続ける行儀の良い年下役に徹して来たから。


 本音は、年相応のクソガキとして二人を困らせたかったと言うのもある。



「……最初から考え付いていたのか?」



「ええ、ある程度は。でもこれは、僕が考えたものだったので」



「言い出せなかったって事ね」



「はい」



 そう。少しずつ。原案は、心の中で湧き上がっていた。


 言い出せなかったのは、凝り固まった先入観と覚悟の無さに起因する。


 その見えない硝子の天井を恋司さんと若葉さんが取り払ってくれたから。


 僕は、一歩前へ踏み出せたんだ。



「でもクリアの保証は、出来ません。此処から先は……未知の領域です」



「まあ、駄目だったら駄目でまたやり直せば良い。俺達が尻拭いしてやんよ」



「全くもって手の掛かる弟だよ」



「はははっ」



 失敗をしても。必ず二人が脇を固めてくれる。


 ならば、何度失敗しても挑み続けるだけ。


 思考が焼き切れるまで何度も策を巡らせ、足掻くんだ。



「合否結果が出るまで時間が掛かりそうだから外に出ようぜ」



「そうですね」



「確かに。何時までもこの辛気臭い場所に居る必要もない」



 ドローンからは何も音沙汰が無く。結果が出るまで時間が掛かりそうだったので僕達は、静けさに満ちた霊廟から出る事にした。


 しかしながら実は、違っていて。


 僕達の想定していた以上の変化が待って居たんだ。


 合否結果が遅れていたワケじゃなくて。


 相応しい場所が用意されていて。


 単に誘われていただけだったんだ。



「……可笑しいぞ?」



「えっ」



「っ!」



 霊廟を出た僕達の目の前に広がる景色は、様変わりしていた。


 東から差し込む陽の光がヴェローナの闇夜を少しずつ駆逐していたのだ。


 慣れない光に満ちた世界の前で僕達は開いた口が塞がらない。



「夜明けか——」



「もしかして? もしかすると?」



「そのもしやかもしれませんね」



 美しい朝焼けと共に。


 真の姿を現すヴェローナ。



『合否結果 合格』



 ヴェローナの街並みに見惚れていた僕達へ。


 ドローンから落ち着いた機械音声と簡素なファンファーレが届けられる。



「マジかよ……一発合格か」



「最後の最後で完璧な不意打ち食らったね」



「よしっ」



 張り詰めていた緊張が解けてどっと疲労が体に押し寄せて来た。


 同時に太陽の熱が体にじわじわと沁みる。


 嘗てこれ程までに太陽の有難みを感じた事があっただろうか。


 いや、無い。


 教科書に載るお手本の様な修辞疑問文の完成だ。



「昼夜逆転は良く無いね。体内時計が乱れる。やっぱり、日光を浴びないと」



「逆転する朝と昼が無いけどな。それにしても—— 朝日が目に染みるっ」



「この六日間、ずっと夜でしたからね。ホッとします」



 たった数日。言葉にすれば、短く聞こえるけど。


 当人の僕達からしてみれば、とても長く感じられた。


 北欧の冬に近いこの環境が一カ月も続いたら流石に堪えただろう。


 冬季うつが肌身に感じる状況に陥るなんて想像してもいなかった。



「酒が飲み放題だったから夜でも良いんだがな」



「逆に好き放題出来ちゃうと有難みが無くなるから程々で良い」



「確かに……どっちにせよだ」



「もう、こんな経験は懲り懲りだよ」



「ですね」



 特殊過ぎる環境に身を置いていたからこそ得られた貴重な教訓。


 有難みは、一切感じないのだけど。



「喜びを噛み締めようにも勝利の美酒が無い事にはなあ……」



「ワインなら持って来てる。失敗した時用のヤケ酒で。ネモ君にも葡萄ジュースあるよ」



「流石だなっ! 若葉」



「ありがとうございます」



 それもこれも状況や環境に飲まれず、我が道を行く陽気な恋司さんと若葉さんと一緒だから乗り越えられた。もしかすると、茉白と玄香だったら無理だったかもしれない。


 ワイングラス片手にはしゃぐ二人を見ると少し懐疑的になってしまうけど。



「朝日を拝みながら飲むワインは、最高だな。我儘を言えば、ビールの方が良かったが」



「スパークリングとかビールも考えたけど。冷やせないからね」



「まあ、逆に達成出来る確証が無かったから。これくらいが丁度良いな」



「それなりに良いのは引っ張って来た心算」



「フルボディの渋みと重さが刺さる。ナイスチョイスだ」



「そうじゃろう。そうじゃろう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。