プロローグ
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僕は、模範的な優等生では無かったけど、落第生でも無かった。と思う。人より抜きん出た特技は、特に無かったけど。文武両道の普通な生徒で。所謂、器用貧乏と言う奴だ。両親からもそれなりの将来を期待され、進学、就職、結婚。言ってしまえば、誰もが手に入れられる普通の幸せは送れたのだと思う。
そんな僕が何故、どうしてこうなってしまったのか。
全く分からない。
でも。気が付けば。
目の前の現実は、非現実の世界に置き換わっていて。
当たり前が当たり前では、無くなっていた。
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最後の記憶。と言うには、あまりにも朧で。気を抜けば、かき消されてしまいそうな弱弱しい名残。まるで古い映画のフィルムみたいに。途切れ途切れの色褪せた映像から分かるのは、今よりもずっと背の低い自分らしき存在が恐らく同年代の子二人から手を引かれ、道を歩いている場面。それが何を意味するのか。僕には、分からない。
どうにも僕は、失ったものが多過ぎる様だ。
辛うじてこの記憶が最後まで残ってくれていた理由は。きっと僕がその思い出を一番、大切にしていたからかもしれない。
今となっては。
季節も時間も場所さえも判別が不明。その時の匂いも音も握り合っていた手の感触も二人の顔すらも。全てが忘却の彼方へ去ってしまった。
最後の記憶が散り散りになった後。気が付けば、僕は暗闇の中で一人立っていた。
正直に言えば、自分がどんな姿勢を取っているかも分からない。
恐らく、体の感覚で頭が立っていると認識しているだけだ。
そんな全てが停止した暗闇の世界で。突然、小さな光が生まれる。
驚く僕の前で小さな光点は、確かめる様に少し左右に動いてから不規則な軌道を描き出す。その光点の動きに沿って何かの記号が浮かび上がる。
光点が最後の記号を書き終えるとその羅列が文字であると分かった。
それが文字であると何故、認識出来たのかも分からない。
でも書き出された内容は、理解が出来た。
目標
物語を完成させよ。
ルール
一、 指揮者は、物語を違和感なく、完結させる事。
二、 指揮者は、原作者の趣向、趣旨を生かす事。
三、 指揮者は、演者の思考、感情を尊重する事。
報酬
——の——。
罰則
一、 一度目の失敗は、演者の内、一人が消滅する。
二、 二度目の失敗は、演者全員が消滅する。
三、 三度目の失敗は、指揮者の消滅をもって完結とする。
全てを失った僕に与えられたのは、目標とルールと報酬。そして罰則。
暗闇の中で文字を僕は、何度も読み返す。
前振りも無く、突き付けられたそれらがどう作用するのか。
もっと言えば、意味を深く考える暇も理解する時間すら与えられなかった。
四つの仕組みを覚えさせられると直ぐに世界が光で溢れてしまったからだ。
目を覆いたくなる程の鮮烈な白い光で意識が少しずつ削られてしまう。
結局、何も分からないまま。また、僕は新たな世界に放り出される。
訳の分からない確信だけが、僕の背中を押す。
絶望も展望も与えられず。身勝手な意思を押し付けられただけ。
その先に何があるのか。進んだところで意味があるのか。
問うたところで答えが出る筈も無く。
そもそも帰る場所が無い以上、前へ進むしかないのだ。
下を向いて止まるのは、僕の性に合わない。
自分が何者なのかも分からないけど。
それだけは、はっきり分かる。
きっと何か、自分にしか出来ない事があって。
言わば、宿命に近い何かを僕は、託されたのだ。
今は、そう自分に言い聞かせるしかない。
そう。
これは、一度全てを失って白紙の本だけを手渡された僕達の奇妙奇天烈な物語。
その始まりなんだ。




