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第57話 夏休みの始まり

 ――翌日。

終業式は滞りなく終わった。


校長先生から夏季休暇の注意事項を告げられ、境界付近への立ち入りを禁じられる。

侵入事件直後のことだ。

それは当然のことだった。


号令と共に、式が終わる。

今から、夏休みが始まる。

あたりからは浮足立つ声が上がった。


「夏休み、夏休み!」


「遊ぶー。」


「お茶会しませんか?」


「いいんじゃね?」


「・・・。」


「僕たちは新しい研究の約束があるから遠慮するよ。」


「・・・してない。」


「みんな、宿題はしないとぉ。」


珍しく騒いでいる面子に、クロエがくぎを刺す。

全員が楽しそうに夏休みの予定を語りだした。


双子、キリアン、研究組は学校に残る。

マルグリット、クロエは前半は学校、後半は帰省する。

ミレルはずっと帰省しているらしい。


ぽんっと肩に手を置かれた。

振り返ると、いつもよりも口元が緩んだラヴィエンヌが立っている。


「許可、貰った?」


「うん。」


「じゃ、荷物とりにいこ。」


踵を返そうとするラヴィエンヌの背中に、黄色い塊が飛びつく。


「夏休み、楽しんできてね!」


「お土産よろしくー。」


双子が笑顔で口々にそう言った。


「期待しないで。」


ラヴィエンヌが呆れたように笑う。


「俺も行きたかったなぁ。」


「何言ってんの?」


キリアンにいつも通りつっこむラヴィエンヌ。


「そう言えば、共同研究がありましたね・・・。」


「マルゴ、忘れてたのぉ?」


ペアのクロエががっくりと肩を落とす。

マルグリットはわずかに頬を染めた。


「俺たちは・・・」


「資料は送るから、さっさと終わらせて。」


「はぁ?なんでそんなに偉そうなんだよぉ。」


「遅いのが悪いんでしょ。」


また始まった。

アルノーとノワールはいつの間にか姿が見えなくなっていた。


「それじゃ。」


ラヴィエンヌが手を振る。


「「いってらっしゃーい!」」


「ゆっくりしてきてくださいね。」


「ちゃんと帰って来いよぉ。」


「わかった、わかった。」


ラヴィエンヌが頷いた。


双子が元気に手を振る。

他の面々も手を振っていた。

私も彼女と並んで、軽く手を振った。


「ほら、リリス、早く行くよ。」


少し先には満面の笑みを浮かべたラヴィエンヌ。


「ええ。」


いつの間にか止まっていた足を動かす。


夏休み。

友達の家に遊びに行く。

普通の子供のような予定がある。

今まで想像もしなかったことだ。


そのことがゆっくりと実感を帯びてくる。

私はじんわりと胸の奥が温かくなるのを感じた。






 リリスたちが立ち去った講堂では――。


「帰っちゃったねぇ、キリアン?」


クロエのからかうような声。

キリアンは手をひらひらと揺らして苦笑する。


「うっさい。」


「えー?」


「ほら、クロエ。あんまりからかったらだめですよ。」


クロエはころころと笑いながらマルグリットたちの輪へと入っていく。

キリアンはちらりと講堂の出口を見る。

もう、2人の姿は見えなかった。

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