第50話 胸の奥
キーンコーンカーンコーン・・・
授業終了の鐘が鳴り響く。
ベルナデット先生は教科書を閉じてゆっくりと教室を見回した。
「最後に、1つだけ。」
先ほどと同様に号令を掛けようとしていたマルグリットの動きがぴたりと止まる。
「歴史は、ただ暗記するためのものではありません。なぜ、そうなったのかを考え続けるように。」
そう言い残すと、彼女は足早に教室を出ていった。
扉が閉まると同時に、リュシエンヌが椅子からぴょんっと立ち上がる。
「終わった、終わったー!」
ぐっと伸びをしながら声を上げる。
「歴史、眠い!」
「始まって5分であくびしてたねー。」
エリーヌが同様に眠そうな目でほわほわと口にする。
「でもでも!人間のお話、面白かった!」
「えー?」
「だってだって、会ったことないもん!」
リュシエンヌが机から身を乗り出す。
「どんな姿なのかな!?」
「見た目はほとんど同じらしいですよー。」
マルグリットが苦笑しながら返事を返す。
「じゃあじゃあ、角は?角生えてる?」
「私たちにも生えてないよねぇ?」
クロエがマルグリットと並んで言葉をこぼす。
「羽、羽は!?」
「ない。」
ラヴィエンヌがバッサリと切り捨てる。
「えー、つまんない。」
リュシエンヌが頬を膨らませる。
そんな彼女の様子に、教室全体が笑い声に包まれた。
アルノーは苦笑しながら。
ミレルはふんっとそっぽを向いて。
ノワールはいつも通りの無表情で。
キリアンは扉の前で、面白そうに眺める。
「ほんとに、何も知らないのか。」
ラヴィエンヌの呟きを、マルグリットがすくいあげる。
「仕方ないですよ。人間は、おとぎ話の登場人物のようなものなのですから。」
「そういえば、リリスはどう思ってるのぉ?人間のこと。」
クロエの問いに、私は少し考え込む。
人間。
魔女と関わることがほとんどない。
大陸の西側に住む種族。
「わからないわ。」
それが今の感想だった。
怖いとも、会いたいとも思わない。
知らないから。
「知らないものは、判断できないもの。」
クロエは一瞬驚いたように目を瞬かせた。
「そっかぁ。」
ニコニコと笑い、それだけ言う。
ラヴィエンヌもリリスに同意するようにうなずいた。
「私も賛成。わからないものは、どうしようもない。」
うんうん、とマルグリットが頷き、切り替えるように手をたたく。
「次の授業が始まりますよ。早く座りましょう!」
どこか楽しげにそう言い、全員が緩慢な動作で席に戻っていく。
会話を終えることを惜しむように。
私の胸の奥に風が吹き込む。
「・・・?」
感じたことのない感覚。
お腹がいっぱいにならなかった時のような、何かが足りない感じだ。
私は少し首を傾げ、教室に入ってきた教師に注目した。
50話到達です!
いつもありがとうございます。
次話は登場人物のまとめにします。
そろそろ頭がこんがらがってきたので・・・。




