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極限報道#45 「永野は危険な女だ」 警部補は言った 取材班は解体なのか

舞台は近未来。世界で戦争、紛争が頻発し、東アジアも国家間の緊張が高まる中、日本国内では、著名人が相次いで殺されたり、不審な死を遂げたりしていた。社会部調査報道班のエース記者大神由希は、背後に政治的陰謀があり、謎の組織が暗躍しているとみて、真相究明に走り回る。

 「君は、永野洋子と情報交換しているね」。大神は鏑木警部補に警視庁の会議室に呼び出され、厳しい口調で質された。

 「情報交換というか、取材をさせてもらっています。永野さんは顔が広く、情報もお持ちなのでいろいろと教えてもらっています」

 「会っているときに、大神からも永野に情報が流れているはずだ」

 

 「会話をするということは、お互いに一定の情報を提供し合っているとは言えますが、鏑木さんが言っているのはそういう意味ではないですよね。捜査情報などいわゆる機密事項を教えていると言いたいのですか?」

 「そうだ」

 

 「捜査情報など話していません」

 「まあ、そう言うだろうな」。鏑木は、大神にとって重要な取材先だ。だが今、目の前にいる鏑木は鋭い目をした刑事そのものだった。大神は取り調べを受けている心境だった。

 

 「永野は暴力団から顧問料を受け取っているんだ」

 「羽谷組ですか」

 「そうだ」

 「信じられません。若頭の葉山さんとは、大学時代の知り合いだとは聞いています。個人的な関係だと思います」

 「俺が言っているんだから間違いはない。顧問料は確かに受け取っている。どういう意味かわかるな」

 

 「弁護士費用として受け取っているのではないでしょうか」

 「特定の事件の弁護を担当して報酬を受け取るのではなく、定期的に一定額が永野の口座に払い込まれている。反社会的勢力の一員であると言われても仕方がない」

 「何が言いたいのですか?」

 「永野と懇意だと、君も反社会的勢力と疑われるということだ。そうではないというのは私は理解しているが、世間では通用しない。永野とは今後一切、接触するな」

  

 「ご忠告ありがとうございます。でも私は永野さんに恩義があります。 『雲竜会』による拉致事件でも、永野さんがいたから助かったのです」

 「恩義があるとか、君は、ヤクザか。永野を助け出したというのも、羽谷組にとって欠かせない存在だということの証拠だ。とにかく気を付けた方がいい。君の知らない顔がある。ヤミ社会と通じているということがどういうことを意味しているのか。大新聞社に所属して取材している君にはその本当の姿がわからないのかもしれないがな」

 

 「永野さんは、反社会的勢力ではありません」

 「まだ、わからないのか。羽谷組は若頭が『雲竜会』の若造に撃たれて重体だ。羽谷組は本気になった。『雲竜会』を壊滅させるだろう。それだけではすまない。上部団体の山手組と共に、『防衛戦略研』が抱える利権にまで触手を伸ばそうとしているのだ」

 

 「利権まで?」。永野が「興味ある」と言ったことを思い出した。

 「そうだ。俺の感触では、その先頭にたつのが永野洋子だ。賢さと美貌で生き抜いてきた女が、いずれ暴力団組織を引き連れるようになる。今後は新たな資金源を求めて政治、経済にまで食い込んでいこうとするだろう」

 

 「信じられません。永野さんが若頭になるのですか」

 「とんちんかんなことを言うな。組長の信頼さえあれば、若頭にならなくても組織を動かすことはできる。永野が結婚していることは知っているな」

 「ええ」

 「夫の田島さんは有能な男でね。将来の財務事務次官候補とも言われていた。だが、今は『雲竜会』による事件でピンチだ」

 「なぜですか。事件に関して言えば、永野さんは被害者ですよ」

 「その捜査の中で、暴力団との関係が浮上したからだ。高級官僚にとってもっとも嫌われることだ。近く辞表を提出するはずだ。解雇されないだけでもありがたいと思わなければならない状況だ」

 

 「事件の発表では、永野さんは弁護士という肩書呼称で名前は公表されていませんでした。田島さんと結婚していることは、わからないはずでは?」

 「警察上層部からすぐに財務省に情報が伝わっている。それが決定打だ。田島は総理側だ。今は総理に対する批判がすさまじくピンチだ。だが政治の世界はなにがあるかわからん。盛り返すことがあれば、田島の復権もあり得る。ひょっとすると、政治的な野心をもっているのかもしれない。とにかく、永野とは関係を断て。忠告だ」。鏑木は厳しい表情で言った。


 「ところで君はあの事件で実名報道を希望したらしいな」  

 「事件報道では、被害者も実名が原則になっていました。これまで自分がさんざん実名報道をしてきて、被害者になったとたんに肩書呼称を希望するというのは許されないことだと思っています」

 「まあ、警察官や教師も、どんな軽微な事案でも実名が報じられるからな」

 

 「永野さんとの関係については、鏑木さんの指摘を踏まえて、私自身で確かめて判断します。ところで私が京都にいる時に遭遇した『雲竜会』の平総一郎の捜査はどうなりましたか?」

 「京都の地元警察が調べたが行方がつかめなかった。君以外の目撃者は出てこなかった。他人の空似ではないかとなっている」

 「そうですか」

 「ただし、俺はそうは思っていない。一度でも人を見たら忘れないという能力を君が持っているということを知っている。人に言っても信じないがな。ただ、平だとして、奴が一体なにをしていたのかがわからん。君を殺すというミッションならば容易いはずだ。射撃の名手だからな。その点、君はどう思う?」


 「皆目わかりません」

 「あくまで想像だが、君がどこかへ逃げると思ったのではないか。例えば関西空港から海外へとか。逃げるような素振りを見せたならば殺す。そういう使命があったのではないか。なんということはない、君はのんびりと京都旅行を楽しんでいただけで、東京に帰って来たから何もしなかった」

 

 「逃げようなんで気持ちは全くありませんでした」

 「組織は君を生かしておく理由が必ずあるはずだ。いずれ接触してくるのではないか」


 「ところで、その『防衛戦略研』ですが、捜査は、一体どうなっているんですか? 『孤高の会』との関係も具体的に明らかになりつつあります」


 「『防衛戦略研』については鋭意、捜査中だ」

 「あの拉致事件は明らかに『防衛戦略研』の仕業です。『雲竜会』は、『防衛戦略研』の別動隊の暴力組織で、非常に危険です。雲竜会のトップは誰なんですか」

 「加藤健という名前の人物だ。格闘技の団体の代表をしている」


 「『防衛戦略研』の『シャドウ・エグゼクティブ』と言われる最高幹部たちは『一人一殺』で殺人を実行している。その1人である大学教授の郡山寿史の役割ははっきりしたのですか?」

 「郡山教授はほとんど意識がない。最後に羽谷組が息の根を止めようとした。あれがなければ事情を聞けたのだが」

 「『防衛戦略研』の周辺で行方不明になっている人がいるんです。梅田彩香さんという人です」

  「君は、内情に詳しすぎる。ネタ元は誰なんだ。いつも捜査の先をいっているかのようだ。何度も言うが危険な世界に入り込みすぎている」


 「大丈夫です。もう少ししたら、別の取材チームに持ち場替えになりますから」

 「別の取材チーム?」

 「『防衛戦略研』の取材から外されることになると思います」。少し寂しげに声を落として言った。

  

 「中心でやってきた君が取材班から外されるのか。どういうことだ。取材班が解体されるのか?」

 「その可能性はあります」


 鏑木は意外そうな表情をした。そして言った。

 「新聞社にも圧力がかかっているということか」

 「『孤高の会』が敏感になっていて、マスコミを絞めつけているようです。今、『新聞社にも』といわれましたね。捜査にも圧力がかかっているのですか」

 「うーん、今何時だ」。午後6時を少し過ぎたところだった。

 「軽くメシでもどうだ」

 「もちろん喜んで」。鏑木が食事を誘うなんてめったにないことだ。

 

 2人は、飯田橋の鏑木の行きつけの居酒屋に場所を変えた。


 (次回は、■捜査にも圧力?)



お読みいただきありがとうございました。

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