極限報道#44 シャドウの名前が判明 疑惑だらけの公益法人
舞台は近未来。世界で戦争、紛争が頻発し、東アジアも国家間の緊張が高まる中、日本国内では、著名人が相次いで殺されたり、不審な死を遂げたりしていた。社会部調査報道班のエース記者大神由希は、背後に政治的陰謀があり、謎の組織が暗躍しているとみて、真相究明に走り回る。
大神は田森と別れた後、会社に戻り、橋詰と共に田森から受け取った資料の束をチェックした。会った時に話をした内容が詳しく書かれていた。
「シャドウ・エグゼクティブ」として、4人の名前が書かれていた。1人は入院中の大学教授の郡山寿史。後の3人は水泳でオリンピック候補選手の遠藤駿と、宗教家の藤原顕孝、ファッションデザイナーの池内麻美だった。
今後、「防衛戦略研」のことを記事にするにあたって、「シャドウ・エグゼクティブ」の証言は欠かせない。
遠藤は「仮面舞踏会」でも素顔をさらして挨拶をしていた。
藤原はすでに独自の理論で新しい宗教団体を組織し信者を増やしている。人々の悩みを瞬時に解決するという触れ込みで全国20か所で「学びの館」を開校。無料のために訪れる人が増え、「本当に悩みが解消された」と語る受講生が、そのまま「信者」になっていった。
池内は売れっ子のデザイナーで、毎年フランスでファッションショーを開催し、話題になっている。
「池内麻美……この名前、取材中にどこかで見たな」と橋詰がつぶやいた。しばらく考え込んでいたが、「そうだ!」と大声をあげた。
資料棚から「防衛戦略研」関係の資料や取材メモがぎっしり詰まったファイルを取り出すと、乱暴にめくっていった。
「あった。これだ」。一冊の資料を抜き出した。「公益財団法人・城香寺博物館」の理事、評議員の名簿だった。
池内麻美は理事の一人として名前があった。ほかの理事には、丹澤副総理の妻、「防衛戦略研」の権藤の名前もあった。
橋詰のメモには、「城香寺博物館は防衛産業の株を大量に保有しており、その配当金は膨大な額にのぼる」とあった。
大神は資料を見ながら大きなショックを受けていた。仮面舞踏会に河野と共に出席したが、その時は舞踏会の出席者をチェックすることだけを考えていて、城香寺邸はたまたま会場として利用しただけだと思い込んでいた。だが実は、この財団こそが、「孤高の会」と「防衛戦略研」を結び付ける重要な役割を果たしていたのだった。
ほかの理事、評議員の中にも「シャドウ・エグゼクティブ」や「リーダー」本人や関係者がいるのかもしれない。
「橋詰君は『防衛戦略研』のグループ企業も調べていたよね。ほかに新たにわかった注目すべきことはあったの?」
「そうですね、グループ企業『防衛商会』はケイマン諸島に関連会社を持っていました。『タックスヘイブン』です。利用していた大富豪の名前が次々に明るみにだされ問題になっていますね。『防衛戦略研』の関係者の名前はまだ表面化していませんが、資金の蓄財、資金洗浄に使われていた可能性がありますね」。橋詰はタックスヘイブンについて解説を交えて説明した。
「重要な情報ばかりじゃない。なんでもっと早く言ってくれなかったのよ」
「えっ」。叱責に近い口調に橋詰はすぐに反応した。
「だって、大神先輩は忙しすぎてすべてを報告するなんて無理ですよ。それと最近は休みまくっていたじゃないですか。京都に遊びに行ったりして……」
「それは確かに休んだけど……でも、メールぐらいはいつでも送れたでしょ」
「『大神は完全休養だから、仕事関係のメールは送るな』って、社会部長から通達がでていたんですー」
「でも、これだけ重要な情報を入手したならば一報があってもよかったと思うけど。局面を変えるネタなんだから。取材陣だけのウェブサイト『秘密ボックス』にも『城香寺』関連は載っていなかった。取材相手への当て方では違った展開になったかもしれないのに」
「えー、なんていうことを言うんですか。俺の責任ですか? 隠していたわけではない。ちゃんとファイルに挟んでおきました。『秘密ボックス』に入れるほどのことではないと思っていました。私の感性が鈍かったんですかね。それは、それは、すみませんでした。でも先輩は記者として超一流かもしれないけど、リーダーとしてはどうなんですかね。うまくいかないことを部下のせいにするんだから。それと、褒めることをしない」
橋詰はつむじを曲げていた。冷静に考えれば、橋詰の言う通りだった。自分が2週間休んでいる間にも、チームの記者はみな地道な取材を続けていたのだ。そもそも、「城香寺博物館」については、伊藤亜紀夫人に仮面舞踏会の案内状を見せられた時にピンときて調べるべきだったのだ。ここは謝るしかない。
「わかった。ごめん、ごめん。言い過ぎた。でも本当にすごい情報だよ。これまで霧に包まれていたのが、突然、パッと晴れた感じね。『孤高の会』と『防衛戦略研』が関係あるのは間違いないと思っていたけど、『城香寺』でようやく具体的に結びついた。結節点の役割を果たしていたんだ。大手柄だね」
「そうでしょ。一連の取材について消極的な社会部長の目を盗んで、隠密に行動するのは大変だったんですよ」
むくれていた橋詰は今度は褒められてうれしそうな顔になっていた。「城香寺」関係については引き続き橋詰が取材を続けることになった。
大神と橋詰は、「シャドウ・エグゼクティブ」の遠藤と藤原、池内に取材を申し込んだが、遠藤は合宿中でハードな練習に集中したい、と断られた。藤原は布教活動のためにアフリカに行っておりしばらく会えそうもなかった。池内もフランスに出張中だった。
大神は三友不動産の関与についての取材で後藤田社長に再び会う必要があると思い、何度も広報室長の桜木に連絡をとった。だが「都合がつかない」の一言で断られた。
そのため、後藤田社長への「親展」として質問状の入った封筒を三友不動産本社の受付まで行って手渡した。
(次回は、■永野は危険な女だ)
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