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極限報道#43 「おれはシャドウ・リーダー」 カルト宗教で洗脳される 消えた恋人

舞台は近未来。世界で戦争、紛争が頻発し、東アジアも国家間の緊張が高まる中、日本国内では、著名人が相次いで殺されたり、不審な死を遂げたりしていた。社会部調査報道班のエース記者大神由希は、背後に政治的陰謀があり、謎の組織が暗躍しているとみて、真相究明に走り回る。

 「ネタ元は、俺そのものなんだ」。田森が言った。


 横浜のホテルのラウンジで、大神は田森と密談を続けていた。

 「実は、俺は『防衛戦略研』の『リーダー』の1人なんだ」

 「えっ」。田森の情報源を聞いて返って来た答えに、大神は心底驚いた。

 「田森さんは『防衛戦略研』のリーダーなんですか」。つい声が大きくなっていることに自分で気づきあわてた。

 全く想定していなかった。

 「リーダーだった、かな。過去形だ。正確には『リーダー』の前にも『シャドウ』がついた。今は追われる身だ」


 「その『シャドウ・リーダー』になったきっかけはなんだったんですか?」

 「三友不動産で都市計画部に異動する前は財務を担当していたんだ。『タワー・トウキョウ』に入居する企業の募集で、『防衛戦略研』にも出かけた。その時の交渉相手が常務の権藤だった。そんなある日、赤坂の料亭に呼ばれた。権藤と2人だけ。そこで、『防衛戦略研』の『シャドウ・リーダー』にならないかと突然言われたんだ」


 「了解したのですね? 目指すところに共感したのですか」

 「いや、恥ずかしい話だが金に目がくらんだんだ。会費はいくら払えばいいのかなと思っていたら、逆に報酬が出るというんだ。月20万円」

 「毎月20万円ですか。報酬に見合った仕事が課せられたのですか?」


 「それが、特別なことは何もないんだ。普段通りに自分の仕事をしていればよかった。ただ、情報は提供した。社内の機密情報も含めて聞かれることには何でも答えた。それほどの機密事項はなかったけどな。俺は公認会計士の資格を持っているんだが、通常グループ内だけでなく別の企業にも出向することになる。出向先の企業の内部情報についても提供を続けるよう念を押された。月20万円はそうした先行投資の意味合いだったらしい」


 「なぜ、脱退しようとしているのですか」。田森は黙り込んだ。話すかどうか悩んでいる様子だったがぽつぽつと語り始めた。


 「実は、権藤に紹介した女性がいたんだ。梅田彩香といってね。IT企業で重要なポジションについていた。『防衛戦略研』の報酬がいいのと、権藤から『仲間になってくれそうな人がいたら気軽に紹介してくれ』と言われていたので、声をかけてしまった。結局、『防衛戦略研』の隊員として参加するようになった。けれど、IT企業の機密情報の提供を次々に求められて、『できない』と断ったことでトラブルになった。その直後、行方不明になったんだ」


 「行方不明ですか。突然いなくなってしまったのですか?」

 「そうだ。姿を消してしまった」

 『防衛戦略研』の仕業だと考えているんですね。大事な人だったんですか?」

 「付き合っていたんだ。結婚を考えていた。俺になんの連絡もなくいなくなるなんてありえない」

 

 田森は梅田彩香のことを思い出しているようでしばらく押し黙り、天井を見つめていた。

 「許せない。いとも簡単に人を抹殺するなんて」

 「まだ、殺されたと決まったわけではない。権藤を追及したのですか?」

 「もちろんだ。でも『知らない』の一点張りだった」

 「警察には届けたのですか?」

 「届けた時に事情を聞かれたがそれっきりだ。事件にならないと、成人の失踪に真剣に取り組んではくれない」。田森は両手で顔を覆った。しばらく沈黙が続いた。


 「京都にいた時の電話の内容に戻りますが、田森さんはどうして『防衛戦略研』による殺人リストに載っているのですか?」。大神が話題を変えた。

 「リストに載っているかどうかの証拠はない。俺が思っているだけだ。梅田彩香の行方を懸命に捜し始めたころから尾行がついたりした。体調不良を理由に三友不動産には長く出勤していないが、組織が懸命に俺を捜し回っていることは耳に入ってくる。殺すつもりなんだ」


 「私は別の知人女性と共に拉致された。若頭を撃ったのも『雲竜会』のメンバーだった。そんな騒ぎがあって警察も組織をマークしているはずです。そんな中で、さらに殺人を犯すなど考えられないのですが」

 「君はわかってない。あの組織は、悪のスケールが違うんだ。『シャドウ・エグゼクティブ』は『一人一殺』をうたい文句にして、1年間の殺害人数を決めている。『血の結束』と言っている。ほかの殺人は『雲竜会』が請け負っている。やると決めたらやるんだ。敵と判断すれば何があっても殺すんだ」


 「組織の統制はどうやってとっているのですか?」

 「『シャドウ・エグゼクティブ』がトップに君臨して、それぞれ数人のリーダーが下につく。リーダーの下にはさらに数十人の隊員がつくんだ。上から指令がおりてくれば、内容を問わずに絶対服従で成し遂げるんだ。文句を言ったりすると反逆者とみなされ、抹殺される」


 「どんな指令がおりてくるんですか?」

 「リーダーでも役割は違う。犯罪に手を染めるもの、金集めに奔走するものがいる。情報収集に徹っしたり、『シャドウ・エグゼクティブ』の身辺警備とかもある。明らかに違法な行為も含まれるが、メンバーはそんなことは気にしてはいられない」

 「田森さんがついた『シャドウ・エグゼクティブ』は誰だったんですか」

 「俺の場合は例外的で、『エグゼクティブ』につかなかった。当面は自分の業務に励み、知り得た情報を権藤常務に報告すればいいと言われたんだ」


 「主義主張に共感している人が多いのですか?」

 「そういう人もいる。定期的に振り込まれる金に目がくらむものもいる。それから、いずれ、『孤高の会』が政治の実権を握った時には、皆が政治の世界での幹部になるということも言われている。そういった面もやりがいにつながっている」

 「宗教的な側面は?」

 「『シャドウ・エグゼクティブ』の中に宗教家がいて、常に講義をしている。そこで洗脳されていくんだ。敵対する者や裏切り者に対して相手を滅ぼすまで徹底的に闘うという思想は、独特の宗教観から来ているといってもいい」


 「田森さんは宗教家の講義に出たのですか?」

 「出た。最初は『ベンハー』とか『十戒』とか『天地創造』とかの映画を何本が見せられるんだ。それなりに楽しんでいると次にセミナーを受講させられる。そこでは悩みを親身になって聞いてくれるんだ。心が弱っている時などは、やさしく接してもらえると心が安らぐよね。だんだん気持ちを開いていってしまう。印鑑とか壺も買ったな。世界中が混乱している今、キリストが日本に復活したと言っていた。偉大なる人物が日本と世界を救ってくれるらしい。その人を守るためには、なにをしても許される。日本の法律を破っても構わない。気にする必要はない。逆らったら地獄に堕ちていく。そんな教えだった」


 「洗脳ですね。田森さんはよく戻って来れましたね」

 「彩香の失踪で目が覚めたんだ」

 田森は淡々と話しているが、大神は、「防衛戦略研」が改めて恐ろしい組織であることを痛感し、震えた。


 「三友不動産はその『防衛戦略研』にかかわっているのですか」

 「『防衛戦略研』の大スポンサーであることは間違いない。さらに、港区赤坂周辺再開発地に建設中の『タワー・トウキョウ』が、『孤高の会』の本拠地になることが決まっている。企業誘致の責任社は三友不動産だから、関係が深いのは間違いない」


 「『タワー・トウキョウ』が『孤高の党』の本拠地になるんですか。あの反射バリアに包まれるビルが」

 「2階と3階のフロアが準備されている。防衛省も一部が入ってくる。『防衛戦略研』も入るのではないか」


 「そういえば金子代議士があのビルから転落死した時、丹澤副総理は見学会に参加していましたか?」

 「参加していた。それは間違いない。ハイヤーに乗ってきたのを実際にこの目で見たから。三友不動産の後藤田社長と一緒だった」


 そう言った後、田森は突然、机から乗り出すような格好になって、大神に顔を近づけた。

 「頼む、大神さん、すべての真相を公にしてくれ。そうすれば捜査機関も動き出すに違いない。最後の最後、君にすがりたい。頼りたい。ペンの力でなんとかしてくれ。実態をすべて公けにしてくれ。君だったら起死回生のホームランを放ってくれるんじゃないかと期待しているんだ」

 泣きそうな声でそう言うと、今度は頼み込むように、頭を机につけた。


 「落ち着いてください。そんなに期待されても、応えられるかどうか」。大神は戸惑うばかりだった。

 

 別れ際、田森はネット系のニュース社を知らないかと聞いてきたので、大神は、「スピード・アップ社」を紹介した。


(次回は、■シャドウの名前が判明)



お読みいただきありがとうございました。

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