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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第2章 果汁100%! パン屋と四天王とワイバーン~至高の一品を求めて~編
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8-B パン屋ちゃんの願い

「そうここから始まるのは、私、ベルーニャ=ウッドバーグの物語。苦難という嵐に飲み込まれながらも、仲間と支え合い、パン屋として、そして魔王として成長していく物語……」

「うん、それで、なんやかんやあってのハッピーエンドね。いやぁ、よかったよかった……じゃあ私、これから昼寝するから」


 羊のような角をクルクルと頭に生やした魔王少女ベルーニャは赤と白を独占したと言っても過言じゃない慈悲の女神、クラリムこと私に長い回想を話していた。


「クラリム様! 帰ろうとしないでください! ここからなんです! というか、ここからなのに、ここで止まっちゃったんですぅぅ!!」


 長い。

 これから、『パン屋を目指した魔族少女、魔王になる』とかのタイトルが始まりそうなくらい長い。


 ずっと聞く程の話じゃないかなと思ったのだが、ベルーニャ(パン屋ちゃん)に服を引っ張られ、無理矢理元座っていた椅子に戻される。


 弱いとか言ってたけど、さすが魔族の街娘。

 基礎スペックが高い。戦士になってちょっと鍛錬したはずの()が力負けするなんて。


「私……関係ないよね? パン屋ちゃんがパン屋を頑張るって話に、神かつ近くに住んでもない私、関係ないよね?」

「でも困ったら神頼みするのって普通、ですよね?」


 パン屋ちゃんの常識を問くように純粋で円らな瞳が私を捉えた。 


 ここは、最近過ごしている街ウルメラではない。

 ウルメラで約七日程の距離にある、魔王城、その一室である。


 そう、魔王城。

 私とリンドーが成り行きで魔王面接官になり、その後のゴタゴタに巻き込まれないように逃走しておいた魔王城。

 一応、この部屋はパン屋ちゃんが魔王になってからオープンした『ベルーニャのパン屋魔王城店』(店頭販売無し)だが、魔王城であることは変わりない。


 つまり、見習い戦士()が魔王城にいるのはおかしいということだ。


「……どうしてこうなった」


 二度と関わらないと想っていた場所に関わる理由。

 こうなった経緯はもちろんある。



 長閑な気候。ストーナが働きに出て、リンドーは読書をし、ミークが挨拶の練習をしているそんな平日の一日。家で私は平穏を謳歌していた。


 ガコン。

 郵便受けに手紙が入った音が微かに聞こえたと思うと、ミークが駆け足で家を出て、その手紙を片手に私の前に立った。


「はい、手紙」

「私に?」

「うん」

「ありがとう」

「うん」


「はい、リンドーも」

「あぁ」


 手紙は二通あり、私とリンドーにそれぞれ手渡された。

 私もリンドーも、この世界に手紙を送ってくるような知り合いがいる訳ではないので、珍しいなと思いつつ差出人に目を落とす。


「……誰からかしら? ……げッ」


 裏面に書かれていたのは、私がもう二度と関わることはないだろうと思っていた『魔王』という役職を持っていた人物だった。


 内容は至ってシンプル。

 要約するとこうだ。

『困っているので助けて欲しい、神使であるリンドーも一緒に来てくれ』


 私は、その内容を読み、微塵も行く気は無かったので破り捨てた。


 確かに私は慈悲の女神だ。求められた助けに慈悲を与えるのを主とする神だ。

 だが、私は神である前にクラリムという一柱の個体。

 そしてクラリムはこう言っているのだ。 


 手紙一通で動くほど、私の慈悲は安くはない。

 魔王城に行きたくない。

 あと、面倒臭い。

 以上だ。


 ソファーに寝転がり、惰眠を再開するはずだったのだが、


「クラリム、手紙」


 我が家の郵便配達人は、私の前に再度姿を現した。


「また? 誰かしら……」


 裏面には、魔王ベルーニャ=ウッドバーグの文字が。


「クラリム、手紙」

「……」

「クラリム、てがみ」

「…………………………………………」

「クラリム、てが——」


 ミークの腕には大量の白い封筒が。

 ミークの跡をつけると、郵便受けには同じ内容の手紙が頭がおかしくなるくらい入っていた。

 そして、郵便配達人の兄ちゃんは困った顔で、手紙が入っているだろう箱を家目掛け投げ込んでいた。


「……面倒から逃げた、報いなのね」


 窓が割れる音と共に出た呟き。

 私はリンドーの首根っ子を引き渋々、魔王城へ再訪したのだった。



「最初はこの部屋でクラリム様にお祈りしてたんですけど、聞こえてなかったみたいだったので、手紙にしたんです!」


 普通に祈って願いが届かないと、『雪だるま式スパムお祈り(手紙版)』を実行する。

 神をなんだと思っているのだろうか。


 よくよく話を聞くと、この凶行の原因はパン屋ちゃんの相談を受けた筋肉魔王野郎(オルドバラン)のせいらしいので、後で見かけたら、睨むつもりだ。


「なんで私達の住所がバレてんのよ」

「魔王の情報網舐めないでください! 全国に魔王軍の諜報員が配備されてるんです。クラリム様と神使様がどこに行ったかなんて、すぐ調べられるんです!」


 両手を腰に当て、威張るパン屋ちゃん。

 恐るべし、国家権力。

 一般市民程度の神のプライバシーなんて、無いも同然なのだろう。


「経緯はいい。神に何を願った」


 横で読書に勤しんでいた男、リンドーは我関せずと固く閉じていた口を開いた。


 あんなに手紙送ってきた癖に、困っているの、困っている内容が一つも書いていなかったのだ。


「そうでした、そうでした。すみません神使様! 神様! 私を、いえ私のパン屋を、全国展開するのを手伝ってください!」

「……よぉし、経緯を聞こっか」


 私は本を閉じそそくさと帰ろうとしたリンドーの体に飛びつき、パン屋ちゃんに話を促した。


「魔王になったのお姉さんの為に軍の配給を美味しくしたいとかじゃなかったっけ?」

「それが、実は、叶っちゃったんです。それもパン屋を始めて割とすぐに……」


 ほう。ほう?

 早くない?


「以前までの軍での食事が美味しく無かったのは、前の魔王様が人件費と食糧費を削って武器や防具をたくさん買ってただけだったんで、そこを改善したらすぐに解決しました!」

「簡単に言うけど、それをどうにかするって言うのが大変じゃないの?」

「オルドさんが『武器や防具が無いなら、その分鍛えて防具を身につけたような筋肉の防御力と剣のように鋭い筋肉の拳を作れば良い!』って言って、軍事費の一部を食糧費に回してくれたんです」


 ちょっと脳筋染みてるけど、上手く行ったんなら、まぁ、良い。


「一旦置いといておくとして、それでなんで全国展開の話に?」

「面接の時、言ったじゃ無いですか。全世界のヒトが喜んでくれるパン屋さんを作りたいって」


 言ってた、気もする。

 ハッキリとは覚えていない。


「それで全国展開……全国ってことは、人族魔族の垣根を超えた壮大な夢ね。凄いじゃん」


 この子、魔王になりたいとか、自分の店を全国に建てたいとか、行動の指針が大きすぎやしないか。

 いいんだけど、こうもっと最初の一歩をもう少し小さくしてもいいと思う。


「どうすれば出来ますか!」


「知らないわよ!」


 とんでもない人任せに思わずツッコンでしまう。

 壮大な夢を神頼み、すな。


 パン屋ちゃんの夢は応援してもいいけど、私もリンドーも、経営戦略のプロフェッショナルじゃないんだ。


「パン屋ちゃん。申し訳ないけ……」


 出来ないことは出来ない。そのことを理解してもらおうと、断りを入れようとしたのだが、


「簡単だ」

「はい?」

「ベルーニャのパン屋を事業拡大させるのは簡単だと言った」

「神使様? それはいったい?」


 私をなんとか引き剥がそうとして、すぐに諦め、倒れながら本を読んでいたリンドーが何か言い始めた。


 それに興味津々とばかりに顔を近づけるパン屋ちゃん。


 あー、始まる。何かが始まる。


 私は知っている。この男が首を突っ込むと碌でも無いことになると。

 今の所、天界への帰還を失ったり、戦士をやらされたり、借金を背負わされたりと、碌でも無い目に遭っている。


 帰りたい。凄く帰りたい。私が無理矢理連れてきたけど、ほっぽって帰りたい。


 なんでこの男はなんで変な魔法しか使えないのに、こう万能感を醸し出すのだろうか。


 私が思うに言うとしたら、こう。

 全国にお店を出したいのなら、魔王なのだから、その軍をもって他国に侵略し奪った土地に店を立てれば良い、とかなんとか。


「良いパンを作る。それを広める。この二点を極めれば、自ずと全国への道が開く」

「おぉ〜、なるほどです!」


 熱心にメモを取るパン屋ちゃん。

 うん、少し思っていたのと違った。


「美味しいパンって……何よ」

「美味しいとは言っていない。良いパンだ。評判が良い、買いやすい、健康に良い、等々美味しさ意外にもパンが売れる要因を作れば良い」


 どうしよう。なんか普通っぽいことを言っている。


「次に広めるということについては、本店の場所が重要となる。当たり前だが、魔王城でパンを買えるのは魔王城に入ることが出来る者だけ。内々のコミュニティでどんなに人気が出ようと、それでは全国展開など出来るはずもない。つまり、魔王城では全国規模のパン屋の本店には成り得ない」

「なるほどです! 全国展開をする為の拠点が必要ということですね!」

「本店の場所の件は俺が話を付けよう。一つ当てがある」


 よくは分からないが敏腕マネージャーばりに話を進めるリンドー。

 余りにもテキパキとしているので、パン屋ちゃんは、私じゃなくてリンドーに手を合わしている始末だ。

 何故、この男は慈悲の女神より面倒見が良い感じに振る舞うのだろうか。

 私より慈悲を与えてる感を出されたら、慈悲の女神(私)、困るんだけど。


「もう一つの課題、良いパンはベルーニャとクラリム、二人で考えろ」

「えっ、私?!」

「わかりました! よろしくお願いします! 神使様! クラリム様も一緒に頑張りましょうね!」


「いや、私、やるって言ってない——」

「えっ……」


 私を見つめて涙目になるベルーニャと、ジト目のリンドー。

 視線で訴えかけられた私は、


「……はいはい、分かりましたよー。月一回が最低ノルマの慈悲活動だと思って手伝いますよー」


 簡単に折れた。


 私よりも強い魔王の願いに背けるほど、私の気は強く無かった。


 そうして、魔王ベルーニャの全国チェーンパン屋計画が始動し始めたのだった。


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