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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第1章 街での『平穏で優雅な』生活編
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7-F 神様の天使候補

 まぁ、そんなこんなでモンスターを生み出した魔王『怪血王』の復活は阻止された。


 今回のMVPは間違いなく、ミーク。


 カボチャ頭に大ダメージを与え、逆転の手を打とうとしたそれも封じた。

 よくよく思い返せばミークしか戦ってないし。


 チョビ髭頭も胴体と仲直り出来たみたいで、当分の間、あの幽霊屋敷モンスターハウスに住むことにしたらしい。

 ゴーストにカーバンクル、水馬と、街に出ると駆除されてしまう同胞が悪さをしないように見張り、また守るのだと言う。


 それはそれとして、また平穏な一日が始まるのだが、昨日のようにミークは私の前に座っていた。


 両者の間を無言が包み込む。

 昨日頑張ったねとか、丸薬は不味くなかった? など、疑問と返答の応酬は既に終えている。


 つまり、特に何も無いのだ。


 それでも私は、壁にボールを投げて一人ボール遊びをするように、思い浮いた話題をミークへと語りかけ続ける。

 なんでこんなことをしているのか、自分でも分からない。

 暇だから無口気味でも話相手が欲しいのか、昨日は色々助けてもらったから構ってあげようという上から目線が発動しているのか、はたまた何か感じ取ったのか。


 飲み物を入れたコップが汗を掻き始めた頃。


「しゃべるの楽しい」


 とミークは言葉を漏らした。

 それは初めて、ミークから投げた会話のボールだった。


「でも、しゃべりたいけど、何を喋ったらいいか分からない、話し方も分からない」


 確変。立て続けにもう一球。

 私はこの二球に対して、思考を巡らせる。これはミークをお喋りさんに変えるチャンスなのでは? 豊かに話せるようになれば、私の負担ツッコミが減るかもしれない。


 そうか、会話の経験値が足りないんだ。


 今まで言葉を持っていない生き物が急に喋れって言われても、話す言葉が見つからないのと全く同じ。

 幼児は親が喋っているのを真似する。テレビを見たり本を読んで知識を付ける。でもミークにはその過程がない。

 ミミックが今までに、もし知っている言葉があるとすれば、それは、食べてきたヒトの今際の言葉ぐらいだろう。


 じっくりと考え、私はボールを投げ返した。


「んー、そうねー……例えば、何か目標作るとかどう? こうなりたい、って目標を決めるの。それで、そのヒトみたいに喋るとか、どう?」

「リンドー?」

「それは辞めておいた方がいいんじゃ……アイツも大概無口だし」


 どっちかと言うと無駄なことは話さないタイプかな。


「ストーナ」

「あの子は……ミークには、ちょっと難易度高い……かな?」


 あの乱暴口調で話しているミークの想像が付かない。


「じゃあ、クラリム」

「じゃあってなんでよ……私こそ、普通でしょ。でも、慈悲の神様だからね。ミークにはちょーっと神々しいかもしれないけど」


「でも……クラリム、はちゃはちゃしてるから大変そう」


 おい、はちゃはちゃってなんだ。


「ミークは喋るの、怖い?」


 喋ることが出来ないヒトの気持ちは私には分からない。

 でも、もし、自分が喋るのが嫌になるとすれば、それはきっと、喋った言葉が誰にも拾われなくなった時だろう。


「別に何言っても良いと思うけどなぁ。私なんて、よく心の中の声出ちゃってるし。思ったことをそのまま話してるみたいな?」


 思いの丈をそのまま口にだす。そう今しているように。


「そりゃあ、失言だってあるけど……それはまぁ言っちゃったーってなるけど、それはそれ、一回や十回くらいはどうも無いわよ。流石に百回もやったらアレだけど、百回も話せてる時点で勝ちだし、うん」


 勝ちってなんだ。


「よーしじゃあ私達で練習してみてよ? なんでもいいよ、思ったこと言ってみて」

「リンドーは、食べれない。ストーナは、硬そう。クラリムは、美味しそう」

「すごいね。もう三回ストック溜まったよ。ま、まぁ、それは失言かもって覚えときなさい」


「……難しい」


 ミークは頭を抱える。

 モンスターだけど、モンスターらしからぬ、可愛げのある仕草。

 仕方がない、慈悲の女神だからね。最強の言葉を慈悲ってやろう。


「そーねー、じゃ、とりあえずは、挨拶とお礼、この二つだけで生きてみなさい。喋るのが苦手でも、これさえ出来れば、案外周りの皆んなが助けてくれるわよ」

「あいさつ? おれい?」

「そう、ありがとうとおはよう、こんばんわとかね。どうこれなら簡単でしょ?」

「うん。やってみる」

「ほら、行った行った」


 ミークは庭で素振りをしていたストーナの元へと駆けて行った。

 そして一言。


「ストーナ、一緒に住んでくれてありがとう」

「お、おォ」


 ストーナの返事を聞く前に、今度はリンドーの元へ。


「リンドー、私を見つけてくれてありがとう」

「……あぁ」


 リンドーは長い沈黙の後、ミークの頭を撫でながらそう応えた。

 そして最後に。


「クラリム」


 私の前に座った。


「ありがとう。ぜんぶ、ぜんぶ、ありがとう」


 薄いながらも笑顔だと思える、優しい表情。

 ギュッと胸の奥を鷲掴みにされた感覚。


 あぁ、この子、私専属の天使としてスカウトしよ。

 世界が滅んでも持って帰ろう。


 と心に誓いを立てたのだった。

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