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50話 お勉強

 「えーっと何々?」


 “牛は飼育する目的により乳用牛と肉用牛があり、代表的な種類で乳用牛のホルスタインと肉用牛の黒毛和種がある。”

 

 「あの牧場の牛は黒毛っていうか、茶色だったが肉用牛かな?」

 

 “肉用牛を取り扱う農家には繁殖農家と肥育農家とあり、2つを同じ農家が行っている一貫経営の農家もある。

 繁殖農家では子牛を産ませ、9~12ヶ月位まで育てセリにかけ肥育農家に売る。

 肥育農家は繁殖農家が育てた子牛を購入し約20ヶ月程度育て出荷される。”

 

 「概要は分かったが具体的な育て方が分からんな。これはダメ。」

 

 社長は本をポイっと投げる。

 今日は休養日に指定している日、日曜だ。

 図書館から借りてきた本を片っ端から社長は読み漁っていた。

 

 「おっ、これ良さそうだな。」

 

 手にした本は『誰でもデキる肉用牛の飼い方』だった。

 “初めて牛を飼育する方は繁殖牛の飼育から始めるのが良いでしょう。

 繁殖農家ではお母さん牛を飼って子牛を産ませます。この子牛を育てセリにかけます。子牛をちゃんと育てるには牛舎(牛のおうち)をいつも綺麗にしたり、暑さや寒さに気を使います”

 

 「なんだか子供に言い聞かせる様な文章だな。」

 

 社長はパラパラとページをめくり毎日の管理という所でめくる手を止めた。

 “牛の様子を観察して、病気にかかっていないか、他の牛とけんかをしていないか、ちゃんとエサを食べているかどうかなどを確認します。様子がおかしい場合には、獣医さんに来てもらって、診療をうけることもあります。

 牛の生活の場である牛床ぎゅうしょうを清潔に保つために、掃除もかかせません。

 牛は寒さに対しては、比較的強いのですが、それでもすきま風などは嫌います。反対に夏の暑さには弱いので、牛舎の周辺に木を植えて木陰を作ったり、扇風機で風を送ったりして、住みよい環境を作っています。”

 

 「そう言えば獣医がいないなぁ。寿命までに7~10頭子牛を産むみたいだから、病気になったら諦めよう。しかしもっと簡単な放牧のススメ的な本は無いのか?」

 

 ブツブツ言いながら別の本のページをめくる。

 “いつでも、どこでも、誰でも簡単にできる山口型放牧”という見出しで社長の手が止まりそのページ何度も何度も繰り返し読みこむのだった。

 “山口型放牧とは、耕作放棄地や遊休農林地に牛を放牧する事で耕作放棄地が蘇り、使われていない草資源を利用し粗飼料自給率の向上、糞尿を肥料とし土地に還元、農地の保全が図れる。”

 

 「おぉ、これだ!俺が求めていた物は!農地の雑草を牛に食わせ、糞尿の肥料を撒いてもらい、そこに作物を育てる。機械を使わず楽が出来る。機械は壊れればお終いだが、牛は育てれば良い!病気になれば早くに隔離しておけば他の牛に伝染らないだろう。」

 

 “牛が食べ残す植物。

 オナモミ・・・有毒成分を含んでおり牛は食べません。

 ヤマゴボウ・・・根と実に毒を含んでおり、牛は葉も食べません。”

 

 「おぉ、偉いな牛さんは。ヤマゴボウはヤマイモと間違えて食べる人間がいるのにな。」

 

 “シキミ・・・花から葉、根、茎に至るまで毒があり、牛は食べないがたまに誤食する個体がいるため放牧する際は囲いを設置するか撤去する事が望ましい。

 シキミの実は植物で唯一劇毒物に指定されている。シキミの実はスパイスの八角に似ており誤って料理に使い中毒を起こす事故が多い。中毒症状は嘔吐、腹痛、下痢、意識障害、最悪は死亡する。”

 

 「植物は恐ろしいな、牛が食べ残した植物の見本を残しておこう。」

 

 日当たりが良い城内のベンチに寝転び、ブツブツ独り言を言いながら本を読み進める社長だった。

 

 翌日からの作業は城内のアキコをリーダーとする農作業チームと、社長をリーダーとする酪農チームに別れた。

 

 「まずは牛舎の掃除だ。糞はあのビニールハウスに保管して水分を少し飛ばせば堆肥化する。

 次に万能板で囲われてない部分を全て囲うぞ。それが終われば牛舎のゲートは開け放して問題ない。牛が自由に出入りするから世話がぐっと楽になる。では、かかるぞ!」

 

 皆は顔をしかめながら牛の糞をスコップで一輪車に乗せる作業する。数名はスコップで掬う度に手が止まる。

 

 「人糞に比べれば線香見たいなもんだぞ!いちいち、うぇーとか言わずにテキパキやれぃ!」

 

 社長のゲキが飛ぶ。

 糞をビニールハウスに重ならないよう薄く伸ばすよう保管する。糞に含まれる微生物が呼吸出来る様にだ。こうすると堆肥化が早く進む。糞に含まれる微生物は好気性で呼吸出来ないと糞は腐り悪臭を放つ様になる。通常はおが屑等を糞に混ぜ微生物が呼吸出来る隙間を作ってやるのだが、この牧場はビニールハウスでの堆肥化を採用していた様だ。

 前日に仕入れた知識が早速役に立っていた。

 午前中で牛舎の掃除が終わり午後からは万能板の設置を始めた。

 

 「社長!ゾンビの大群がこっちに来ます!」

 

 イチローが叫ぶ。

 慌てて社長が双眼鏡を覗くと山向こうの県庁所在地方面からぞろぞろ歩いて来るのが見えた。

 

 「不味いな城まではほぼ一本道だ。俺が別の道に誘導する。皆は分かれ道でこちら側を塞ぐ形で道路に万能板を設置してくれ。3日経っても戻らん時は死んだと思ってもらって構わん。俺を探すと要らん二次災害が出るかもしれん。イチロー、あとは頼んだぞ。トンファーだけじゃなく、ユンボも練習しとけよ。」

 

 社長はそう言うとエコカーに乗り込み走り去った。

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