49話 牛追い
「リンダ、そっちいったぞー」
社長の大声が聞こえる。
「オッケー!・・・・・い、い、いやぁぁぁあ。こないでぇぇ!」
リンダは手を広げて待ち構えていたが牛が近づくとリンダは怖がり尻もちをついた。
「意外と大きくて怖い。」
「ははは、ゾンビは怖くないのにな。」
「サイズがぜんぜん違う。」
「つぶらな瞳が可愛くないか?」
「可愛くない。臭いしヨダレ垂れてるし。」
「まぁ、そう言うな。ほら、行くぞ。」
そう言いながら社長は尻餅をついたリンダを助け起こす。
朝から総出で柵から逃げ出した牛を追い、一先ず牛舎へと追い込む。
混乱の中、ゲートが開いていたのか?20頭ほどの牛達は辺りを自由に行き来していた。
最後の1頭が元気が良く、追い込まれると、高さ1mはある柵をやすやすと飛び越え逃げる。
「あいつ元気だなぁ。もうあいつは無視して柵の補強に取り掛かるぞ。」
牛が逃げ出さない様に、ゾンビが進入しない様に柵の補強作業始めた。
材料は前の拠点でも大いに活躍した万能板だ。柵を何で作るか皆で話し合ったところ、慣れた作業と信頼性から万能板で周りを囲う事になった。もちろん万能板はリース会社から大量に運び出している。
カズミがミニユンボで等間隔に杭を打ち込みリンダの指揮で枠を組んで行く。残ったメンバーはトラックから万能板を運び出し設置していくチームと牛舎に入れた牛達に餌を与えるチームに分かれ作業をしていた。
牛舎横の飼料を保管していた小屋からトウモロコシを主とした配合飼料を牛達に与えていたら匂いに誘われたのか最後まで逃げていた暴れ牛も帰ってきて自ら牛舎に入り餌を食べ始める。
「コイツ遊んでたんだろうな。」
岡が暴れ牛の頭をペシペシ叩きながら言う。
「多分そうだろうな。身体が一回り小さいからちょっと若い個体なんだろうな。」
社長は餌を撒きながら言う。
「餌はコレでいいのか?」
「さぁな。取り敢えずもしゃもしゃ美味そうに食べてるから良いんじゃないか?」
「酪農経験者がいたらなあ。」
「岡、帰りに本屋か図書館で本借りて帰ろうぜ。」
「あぁ、皆で勉強だな。」
「このやり取りだけ切り取ったら高校生みたいだな。」
社長が遠い目で言う。
「図書館に通う様な学生じゃなかったろ?」
「お前と一緒にするなよ。俺は真面目な学生だったんだぜ。」
「今は微塵にも欠片も無いな。」
「岡と違って俺は教養がな。っておい聞いてるのか?」
岡は社長の言葉を最後まで聞かずにスタスタ歩いていく。最近、社長の扱いに慣れてきた様だ。
広い緑の牧場を万能板が囲い外の世界と隔絶されていく。この中だけはゾンビは居らず平和な空気が流れていた。
「平和だな。」
社長が思わず漏らす。
「あぁ、こういうのもたまには良いな。」
岡も同調する。
「ゾンビが居ることが当たり前になってるからなぁ。皆も笑顔で作業してて見てるこっちまで幸せな気分だ。」
社長は表情を緩ませ眺めている。
「ゾンビはいつまで腐らずウロウロしてるんだろうな。」
一緒に眺めていた岡がポツリと漏らす。
「さぁな。そろそろ1ヶ月になるが、依然元気だよなぁ。」
「ある日一斉に腐りだすとか?」
「そうなるとガスマスク無しじゃ出歩けそうに無いな。」
「自衛隊の基地からかっぱらうか?」
なぜか岡が嬉しそうに自衛隊の基地から持ってくることを提案しだす。
「普通に作業着屋にありそうだけどな。何かの本で読んだんだが、腐るとメタンガスが発生するだろ?メタンガスってのは温室効果の高いガスで、二酸化炭素の25倍の効果があるらしい。世界の人口の何パーセントがゾンビになったのか分からないが、それが一斉に腐りだすとか途方も無い量のメタンガスが発生して温暖化になりそうだな。」
「世界中のゾンビを焼くにも燃料が無さそうだな。」
「あぁ、早くゾンビが居なくなって欲しいがメタンガスの大量発生を考えるとそのままが良いのか、ジレンマに陥る。」
社長は取り留めもなく落ちていた牧草を千切りながらそう言う。
「今更地球温暖化を憂いても仕方が無いと思うがな。二酸化炭素の排出量は確実に少ないと思うからプラマイゼロなんじゃないか?」
「そう言えば、聞くの忘れてが、日本の原子力発電所はどうなってるんだ?」
「俺たちは原子力発電所の安全な停止のために防衛してたんだ。最後はゾンビの波に飲み込まれたが、作業は終了したから爆発はしてい無いと思うぜ。
日本の原発は全部同じ措置を取られたはずだ。外国は分からんが。」
「K国とC国辺りはそのまま爆発してそうだな。自分の利益しか追求しない連中だから。」
「ゾンビと放射能のダブルパンチか。生き残ってたとしても放射能に殺られるか。地獄だな。」
「それを聞くとつくづく日本に生まれて良かったと思うぜ。あーヤダヤダ。」
社長と岡はヤレヤレポーズを同時にするのだった。
昼は牧草地に敷物を敷いて皆で弁当を食べた。まさにピクニック。万能板の作業は道路側はほぼ終了。皆のんびり過ごしている。風景を遮断する万能板が無ければ緑の牧草に青空はまさに牧歌的な風景だ。
「このあと道路側を万能板で取り囲んだら作業は終了して今日はこの後図書館に行くぞ!各自役に立ちそうな本を持って帰ろう。興味がある分野なら何でも良いぞ。もちろん暇つぶしの本でも構わんが1冊は役に立ちそうな本を持って帰ってくれ。」
社長の号令で皆が動き出す。
テキパキと作業を終えて図書館へ。
「社長は何の本を探してるんだ?」
岡が小声で聞いてきた。
「何で小声なんだよ。酪農の本を探してるんだ。」
「なんだか、図書館って小声で話さないといけない雰囲気だよな。」
「注意する司書が居るわけでもないだろ?って、居たよ。」
棚の陰から司書ゾンビが現れた。社長はすかさず司書ゾンビの首を千切り飛ばさんばかりに捻り倒した。
「ホラ見ろ。」
「ホラじゃないぞ!ホラじゃ。安全確認はしっかりしようぜ。久しぶりに素手で倒したぞ。」
社長は肩で息をしながら岡に文句を言う。
「すまんすまん。」
「すまんじゃないぜ、ったく。
皆んな!ゾンビがまだ居るかもしれんから警戒を解かず気を引き締める様に!」
図書館中に社長の声が響く。
「ところで岡は何の本だ?」
「これだ、『日本酒が出来るまで』」
「かぁー!米はどうするんだよ?」
「そう言われると思ってな、稲作の入門書を今探してる。」
「おっ、良いな。日本酒かぁ、楽しみだな。」
それぞれが楽しめる、役立つ本を探して時間はあっという間に過ぎるのだった。




