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48話 社長とドライブ

 社長と山形は駅よりも西側の山間部の農村地帯に回送車で向かった。道案内は相変わらず山形だ。

 

 「山形は進学か?就職か?」

 「えっ?」

 「こうなる前の世界での話だ。」

 「進学です。地元の国立大学に進学する予定でした。」

 「そうか思い出すなぁ。俺も山形と同い年の時に両親を事故で失ってなぁ。」

 「あぁ・・・・それでこの間の涙は・・・。」

 「あぁ、オッさんになってくると相手の境遇を自分に重ねてしまってな。特に同じ様な体験があると感じる物がさらに大きい。」

 「社長はそれからどうしたんですか?」

 「大学進学をあきらめてな。土木会社に就職したんだ。日払いがあって手っ取り早く金になるからな。

 就職した当初は、生まれてこんなに怒られた事はないって思えるくらい怒られてたな、当時の社長に。まぁ、今思えば有難く思うが、当時は相当憎んでたな。」

 「それで、その会社で社長までなったんですか?」

 「いや、結局独立してな。事務所開きのパーティーをした次の日から世界がおかしくなった。最初の日はここまで世界が壊れてるって思わなくてな、普通に暴徒対策として、重機で敷地の扉を押さえてたりしてた。山形は?」

 「学校から帰ると親父と母親が妹を喰ってました。学校で暴徒がこの街にも出たって放送があって、すぐに帰る様に言われて、でも仲間と商店街にあるカラオケで遊んで帰ったら、そんな事になってました。」

 「それは大変だったな。両親はその後眠らせてあげたか?」

 「はい、二人とも顔が半分喰われてたからそこまで抵抗なく出刃包丁を頭に振り降ろせました。あれが綺麗な状態だったら、ためらっちゃって、今頃僕は親父と母親の胃袋の中です。」

 「妹さんも眠らせてあげたのか?」

 「妹は損傷が激しく、あまり動かなかったので楽でした。」

 「そうか、思い出させて申し訳ない。」

 「よく1人で生き残れたな。しかしパチンコはいいアイデアだな。」

 「僕は映画の好みがゾンビ物で、入り口はゲームから映画化された作品です。それからロメロ作品とかみる様になって、映画の知識とかなかったら今頃僕は呻き声をあげながら彷徨い歩いてたでしょうね。

 パチンコは何とか安全な方法で攻撃出来ないものかと知恵を絞りました。」

 「おぉ、やっぱりそうか。俺もその手の映画が昔から好きでな。でも映画の世界に自分が入るとは思わなかったけどな。」

 「事実は小説より奇なり、って言いますが映画より奇なり、ですね。」

 「全くだ。そろそろか?」

 「はい、この辺りに友人宅があるはずですが、行った事がないので詳しくは分かりません。農家に何か用があるんですか?」

 「すまん、言ってなかったな。トラクターを回収しようとしててな。畑耕すのに便利だろ?」

 「鍬とかで耕すのは?」

 「小学校の頃だったかなぁ。道徳の授業である武士が農家に一泊泊めてもらった恩返しに農作業を手伝う逸話があってな。農家の親父は重労働だからって断るんだ。プライド高い武士は、自分は毎日刀を素振りしてるから、それに比べればって、言って手伝うんだ。でも思いの外重労働で午前中でへばってしまって、悔しいから翌日も手伝い、その翌日も手伝い、終いには自分も農家になるって話なんだが、農作業は重労働だと思うんだ。

 それ以外にも身を守る為にも、生活を良くするためにもする事は沢山あるから、その時間を作るためにも眠ってるリソースは使わないとな。もちろん機械が壊れたりした時は鍬で耕すんだけどな。」

 「いろいろ考えてるんですね。」

 「未来を考える事を止めたら、この世界では生きて行けなくなる。山形も何か案はあるか?」

 「はい、本屋から本を回収するのはどうですか?」

 「おぉ!いいな、それ!知識は持ってる奴を仲間にすればいいと考えてたが、今の仲間に知識をつけていく方が早いな。都合良く専門知識を持ってる人間に出会わないしな。

 おっ!あの農家納屋があるぞ。トラクターあるんじゃないか?行ってみるか。」

 

 大きな庭のある農家の前に回送車を止め二人は降りる。

 

 「山形は近づくゾンビを遠距離から攻撃してくれ、撃ち漏れた奴は俺が仕留める。」

 「はい、そこっ!」

 

 早くも家の陰からエンジン音を聞きつけたゾンビが姿を現わす。すぐに山形が反応しパチンコで仕留める。

 

 「そこっ!そこっ!」

 

 山形は次々にパチンコ玉を発射する。

 

 「凄いな、連射が出来るんだな。音もないのは銃よりも上だな。」

 「でもある程度離れるとめっきり当たらなくなりますし、威力も落ちます。だいたい20m位までが狙ったところに飛んで、倒せる距離ですね。さらに短い矢なら発射できます。あまり飛ばないけど・・・。」

 

 社長が活躍する事なく納屋に到着。納屋の扉をギギギと開け、念のためいつもの挨拶。

 

 「あった!一発目で見つけるとは。前回は結構探し回ったからな。」

 

 社長が喜んでいると、コココと規則的な動物の声が聞こえてきた。

 

 「ん?ニワトリか?」

 「そうみたいですね。あそこの破れた所から出入りしてるみたいですね。」

 「捕まえろ!逮捕だ逮捕ぉ!」

 

 納屋を二人ドタドタ走り周り5羽のニワトリを捕まえた。

 

 「良く生き残ってたな。」

 「ゾンビは鈍いから逃げ延びれたんじゃないですか?」

 「ひょっとすると他の家畜も生き残ってる可能性が高いな。」

 「牧場なら、さらに山を登った所に確かあったと思いますよ。」

 「おっ、いいねぇ。今日は下見に行くか?」

 「ニワトリどうします?」

 「足をロープで括って段ボールにでも入れて持って行こう。」

 

 県庁所在地方面へ県道を登って行く。この辺りはゾンビの気配は全くない。もともと人が住んでないからだ。

 

 「牧場の看板が出てるな。うぉ!牛!放牧ってか逃げ出してるな。生きてる生きてる!」

 

 急に道路に現れた牛を急ハンドルで躱す。

 

 「所で社長、牛捌けるんですか?」

 「それは出来ん事ないだろうが、やってりゃ慣れるだろ。明日はカウボーイ大作戦だな。」

 

 山形と社長は二人視線を合わせ、ニッと笑い合う。

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