友達・・・・・・できた!?
転校してから一週間が経った。不良ばっかりのこの学校にも少しだけ慣れてきた気がする。慣れたって言っても、髪染めたりとかピアス付けたとか、そんなことはしてなくって、生徒達にも個性的な先生たちの授業に見慣れてきたって感じ。
ダズィー先生の国語の授業。
「ンノウ!!!! なんデスかこのキョウカショは!!! シット!! なんで初っ端にカワバタヤスナリの「トロッコ」が載ってやがるンデスか!!? ンノウ!!! こいつは絶対にアクマノキョウテンデース!!!!!!」
ダズィー先生は、基本的に授業の最初から教科書に向かって罵声を浴びせたり、ページを破いたり教科書を机に叩きつけたりして、ヘッドバンキングをしながら大騒ぎ。それを見た生徒たちも好き放題の大騒ぎ、ともはや授業の体裁を保っていない。
「シカタナイデース! 今日はワタシが持参した、この太宰治の「メリイクリスマス」をワタシが流暢なニホンゴで朗読シマース」
どうしても、この先生は太宰治を私たちに読み聞かせたいらしい。
若槻先生の数学の授業。
「で、ここの式が……」
ダズィー先生と違って、至って真面目に進む授業。もちろん、ほぼ全員の生徒がノートを取ったり先生の話に耳を傾けてる様子はないんだけど。
「あ、そうそう。三次関数と言えばですね、今日先生の旦那さんが久しぶりにいってきますのチューしてって言ってくれたんですよ!」
ただ、要所要所で先生が家庭自慢が無理やり入れるのが、たまにキズかな? でも、とても幸せそうに笑顔で語る先生を見てると私も顔がにやけちゃう。
「そしたらですね、家の息子が嫉妬しちゃって、僕にもチューしてって……」
先生がうきゃーと自慢していると、後ろの真ん中の席の下中君がぼそぼそと前の席の子に話し出した。
「んなもん聞きたかねーっつーの。年増の結婚自慢も、夜のお話を聞いてもこちとらちっとも……」
びゅん、と何かが先生の方から彼に向かって飛んで行った。下中君の頬を掠めて、うっすらと頬に横一線の傷ができる。一瞬間が開いて静まった教室に、ぺきん、と後方から何かが割れる音が響いた。振り返ってみると、教室の一番後ろの黒板に蜘蛛の巣みたいな亀裂が入っていた。
「あら~。今なんって言いましたか~下中君」
亀裂の真ん中あたりには白い粉が色濃くついていて凹んでいた。恐る恐る前を向くと、笑顔で下中君に質問する先生の手には、白いチョークが握られていた。
「げ、え、えっと……」
「今ぁ、年、なんとかって聞こえたと思うんですけど~?」
確信犯だ。先生は細めた目から脅迫の漆黒に染まった眼を覗かせている。最初に出会ったときのあの目だ。下中君もたじろいで、顔から血の気がどんどん失われていった。
「と、年若いのに幸せそうだなぁと」
下中君は青ざめた顔中を汗で濡らし、裏返った声で精一杯のご機嫌取りを言った。
「も~、そんなに褒めないでよ下中く~ん」
笑顔を崩さずに先生は嬉しそうに言うけど……人差し指と親指でつかんでいたチョークがぷるぷると震えて、ぱきん、と粉々になった。
「あらやだ~、このチョーク古かったんですかね~?」
もしかしたら、この学校で一番怖いのはあの先生かもしれない。
あ、でも……。後ろの席をちらっとしり目に見ると、みんなが若槻先生の笑顔に青ざめる中、ワンちゃんだけが何食わぬ顔でぼーっと机の上に広げた教科書を眺めていた。ワンちゃん、怖い物無しなのかな? と思っていると、視線を感じたのか、ワンちゃんの目がぎろりと動いて、私の方を見た。
「……あ?」
目が合うとワンちゃんが低くくぐもった声を出して鼻頭に皺を寄せた。視線を回避するみたいに私は途端に前を向いた。わ、ワンちゃんも私にとってはまだ怖いかも……。
そんなこんなで、午前の授業を終えての昼休憩。後ろを見ると、ワンちゃんはいつの間にか席を立って、教室から姿を消していた。
一緒にお昼食べてみたいなぁ。どうせ私は一人ぼっちだし。
ため息をつきながら自分の席でお弁当を広げていると
「よっ」
誰かが私に声を掛けてくれた。
「み、水戸さん!?」
顔を見てみるとむっとした顔で私を見下ろす水戸さんだった。
「あたしらもいるよー」
水戸さんの後ろから、ひょっこりと顔を出す水戸さんの仲間たち。え、な、なに、ま、まさかまたお弁当を……!?
そう思っていると、ばん! と水戸さんが私の机に何かを置いた。音で目を瞑った私は恐る恐る目を開ける。も、もしかしてまたバリカン!? それとも、今度はもっと怖い……コンクリートの塊とか!?
「……あれ?」
置かれていたのは、こじんまりとしたお弁当だった。
「アズ。その辺からテキトーに椅子取ってきて」
「うんなの!」
「机もいるわね……サミちゃん」
「まかせるさ!」
水戸さんはどんどん指示を出す。
「あ、あの……これは一体?」
私が問いかけると、水戸さんはぷい、と横を向いて言った。
「見て分かんない? 一緒に食べてやるってこと」
「え?」
「え、じゃないわよ! アンタ、私に同じこと二度も言わせる気?」
水戸さんの吊り上がった眼が私を睨みつけた。
「ミトッチー。その前に言うことあるよねー」
くすくすと水戸さんの仲間が笑いを零すと、水戸さんは怪訝そうに口を曲げた。
「な、何よフーミン。そんなに笑って……わ、分かったわよ」
水戸さんは彼女に促されるのが不本意なのか、口を尖らせる。そして私と眼を合わせると、ちらちらと目線を外したり、また合わせたりする。
「こ、この前は……その、ごめんなさい」
ゴメンナサイ? 新種のサイ? なんて、水戸さんの一言があまりにも彼女の口から出たものとは思えなくて、一瞬おかしなことを思ってしまった。でも、それは紛れもなく彼女の口から告げられた謝罪の一言だった。
「あ……」
気にしてないとか、大丈夫だよ、とか言えればよかったのに。ついつい言いよどんでしまう。思い出してもまだ少しだけ嫌な気分が蘇ってきて、気の利いた言葉を出すのでさえ、躊躇ってしまった。
「あ、アンタさえよければ……なってあげてもいいのよ、……友達に」
「え? あの、水戸さん、最後の方声が小っちゃくて聞こえなかったから、もう一回・・・・・」
私がそう言うと、水戸さんは顔を真っ赤にした。
「あ、アンタ! き、聞こえなかったの!?」
真っ赤になった水戸さんが目じりを一層つり上がらせた。
「そりゃそうだよミトッチー。ほーら。照れてないでもう一回も一回―」
けたけたと笑う、フーミンと呼ばれた子。とても愉快そうに水戸さんと手に持ったスマホを交互に見ていた。
「わ、分かったわよ……と、友達になってあげるから! い、一緒に食べましょ、お昼ご飯」
水戸さんが大きな声を出したから、クラスのみんなが彼女に注目してしまった。真っ赤な水戸さんが、もっともっと真っ赤になって、頭から湯気を噴き出してしまいそうだった。
「……」
つい、黙ってしまった。
「な、何よ! だ、ダメならダメだって、さっさと言いなさいよ!」
そう言って水戸さんが置いたお弁当をもう一回手に取ろうとしたときに、私の口から一言、涎のように零れ落ちた。
「か、可愛い」
「……は?」
み、水戸さん、これはまさか、ツンデレというやつでは!? あぁ、リアルで出会ったらそんなに可愛くないだなんて言われてるけど、そんなことない! み、水戸さん、か、可愛い。今も「何言ってんのよ!」ってまた問い詰めてきそうなくらいに顔を赤くしてるし……。
「な、何言ってんのよ!」
あ。ほんとに言った。
「あ、うん! いいよ。一緒に食べよお弁当!」
私の承諾を待っていたかのように、椅子を取りに行っていた子と机を取りに行っていた子が戻ってきて、私の周りに座り、それぞれがそれぞれのお弁当を取り出した。
「もう、さっさとそう言いなさいよね!」
あぁ、水戸さんもうツンデレすぎぃ。むくれながらも私の正面に座って、ちらちらと私の顔とスマホの画面に視線を行ったり来たりしてる。
「じゃ、さっそく食べ……」
「待つさ!! まずは自己紹介さ!」
「そうだねー。カナちんうちらの名前知らないしねー」
「か、カナちん!?」
も、もしかして……私のあだ名ああああ!! やったー、あ、あだ名まで付けてもらっちゃったぁあああああ!!
「ちょっと、叶恵。なに神様の祝福を受けてるシスターみたいなポーズ取ってんのよ」
水戸さんに言われて、私が手を組んで少々トリップしていたことに気が付いた。
「あ、ご、ごめん」
「じゃ、まず私からなの! 私は折月あずさ、アズって呼んでなの」
金髪のベリーショートの子がつけまとアイラインで真っ黒な目を細めて言った。次に、金髪をベースに、ところどころ赤と茶とピンクのメッシュの入ったふんわりした髪の子が、目線を落としていたスマホから私の方を見て言った。
「私はさ、近藤麻美。サミちゃんってみんなから言われてるさ」
「サミちゃんは最初あっちゃんって呼んでたんだけどねー、アズも昔あっちゃんって呼ばれてたから混乱するってことでー、サミちゃんに変えたんだよねー。あ、私は井笠富美香。フーミンだよー」
茶髪のツインテールの子、フーミンが机に置いたスマホをタッチしながら言った。み、みんなそれぞれニックネームも教えてくれて……これ、呼んでいいってことだよね!
「よ、よろしく。アズ、サミちゃん、フーミン。それから……」
まっすぐ、水戸さんの方を見る。水戸さんは机の下から目を上げると、私と目がばっちりあった。
「よろしくね、このみちゃん!」
私が笑顔で言った。すると、このみちゃんの顔が、また赤くなる。
「な、なんでアタシだけ名前で言うのよ!?」
「だって、そっちの方がこのみちゃんは可愛いんだもん」
「そうだねー、ミトッチより可愛いかもー」
「ちょっと、フーミン! さっきから余計な事ばっか言ってんじゃないの!」
「そんなことより、お腹空いたの!」
「そうさー。早く食べるさ。あ、カナちん、おかず頂戴さ。この前のおいしかったし」
「あ、いいよ。でも、今日のは私が作ったのだから……」
「そうなのー? カナちん、意外と女子力高い?」
「い、意外かな……?」
お話しながら、弁当箱を開ける。楽しい。うん! やっぱり、学校生活はこうでなくっちゃ! わいわいと過ぎていく昼休みはあっという間の出来事のように私は感じた。
同時刻の四人のラインのグループ会話にて。
「ミトッチー、うまくいったねー」
「そうね。こいつ、バカなのかしらね」
「こんな簡単に人信じるとかさ、かなり頭弱いって感じさ」
「カナちん、とか変な名前気に入ったみたいなの。ふふん、いつか必ず余計なものつけて呼んでやるの」
「人前では言わないでよね。恥ずかしいから」
「分かってるの」
「で、どうやるさ、復讐。ミトッチは個人的な恨みもあるから、徹底的にやらなくっちゃ気が済まないさ?」
「こ、個人的な理由って、そ、それは関係ないし! だいたい、懸が勝手に変な理由で惚れただけだし、そのうちアタシだって簡単に惚れさせてみせ……って、何言わせるのよ!」
「別に私は懸さんのことだって言ってないさー。バリカンの弁償だと思ってたさー」
「も、もう! からかわないでよ!」
「やっぱりー、ミトッチはツンデレだねー」
「それだけはカナちんと同意なの」
「ちょ、アンタらまでおかしなこと言うな!!!!」
叶恵と話している間に交わされたこのやりとりを、まだまだ彼女は知らない。
ども、作者です。二章スタートです。さぁ、もう二か月続きますよ。




