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コワモテ!  作者: リソタソ
誰がための
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50/105

このみちゃんの……嫉妬?

「アンタねぇ、ぼーっとし過ぎなのよ。これで何回目? そんでもって、働き始めて何日目よ。いったいいつになったらミスなくして、まともに働けるわけぇ?」

 夜の八時過ぎ。お店の終業は少し早い。人手が足りないけれど、夕方から夜にかけては、工事も終わるから客足が途絶えるみたいで、私とこのみちゃんは上がることになっていた。

 懸さんの実家のラーメン屋は、私たちの住む町からは少し離れていて、徒歩で行くのには遠いから、私とこのみちゃんは最寄りの駅まで電車で行き来している。その帰り道の電車内。通勤に使われることが少ない、空いている電車内にこのみちゃんの呆れたような声が響いていた。

「ご、ごめん、このみちゃん。ちょっといろいろと考えることがあって」

 素直に妄想していました。なんて言えるわけがない。はぐらかすように苦笑いで答えることしかできない。このみちゃんは一つ大きなため息をついた。でも、それは私に対する呆れや、失望の表れではなかったみたい。

「まぁ、仕事に入れ込めってのが酷だけどね。あんな理由で働かされててもさぁ」

 それは懸さんへ向けての文句だった。

「でも、懸さんのご両親が倒れちゃったんだもん。非人手不足の解消のためだから、仕方ないよ」

 懸さんに説明されたとおりのことを、素直に述べる。するとまた、このみちゃんはため息をついた。それからすぐに私をじとっとした目で見るに、今度の矛先は私のようだ。

「……ねぇ、叶恵。ただ単に人手が足りないだけで懸がアンタに仕事を頼んだと思ってんの?」

「え? 何か別の理由があるの?」

「あるに決まってんでしょ! っていうかおかしいと思わなかったの?」

「そ、それは……」

 とはぐらかしては見るが、実のところどうして私に、という疑問はあった。だって、人手が足りないのなら、懸さんの仲間に頼めばそれで済みそうだもん。懸さん、たくさん仲間がいるし。

「別に、懸がアンタに拘る意味なんてないでしょ。それなのに、アイツがアンタに拝み倒したのに、何か理由があるとは思わないわけ?」

 向かい合っているボックス席の正面から身を乗り出して、このみちゃんがきつく尋ねる。少しどきっとした。このみちゃんの顔が近いから、じゃなくて、質問をされて、その理由を言語化されるのを詰め寄られて。

「何か理由って……そうだなぁ。なんだろ?」

「あんた、わざととぼけてるでしょ」

 あ、バレてる。彼女の言う通り、私は疑問に思うのと同時に、一つだけ当たりを付けていた。

「アンタの近くに居たいからよ。いとしいいとしい叶恵ちゃんにねぇ、懸のバカがすぐに考えそうなことよ」

「ちょ、ちょっと、いとしいって……」

 照れくさくて、慌てて訂正を求める。

「事実じゃない。バレバレでしょ、アイツの好意なんて。っていうか、その意図もバレバレよ」

 このみちゃんは心底あきれ返っている、という風に肩をすくめてみせた。

 このみちゃんの言っていることは、間違いなく当たっている。そう思う。私も、同じように思っていた。

 懸さんが私のことが好きだっていうのは、彼も隠していないから知っていることだ。真剣に告白をされたこともないから、私もずっと放っておいたままにしていた。

 どうすればいいんだろう。私はこのことを持て余している。私はワンちゃんのことが、その、好き。だから、懸さんの好意を受け止めることなんてできない。できるはずもない。

 懸さんにはいろいろとお世話になったし、嫌いじゃない。むしろ、できればこれからも仲良くしたいと思っている。一人の友達として。

 なんだけど、いきなり「あなたと付き合えません、好きな人がいます!」だなんて言い辛いし……。ずっとずっと先延ばしにしてきて、ずっとずっと、わざと向き合ってはいなかった。

「……うん。知ってた」

 いい加減、それに向き合うべきなのかもしれない。そう思わせるのは、何も自分のためだけじゃない。今、目の前に座っているこのみちゃんのためでもある。

 懸さんには、できることならば、このみちゃんに振り向いてほしい。いつまでも私のことを好きでいないで、自身のことを想ってくれている人がいると知ってもらいたい。一番身近にいるって。

 そうじゃないと、このみちゃんがかわいそうだもん。

「で、どうすんの、アンタは。結論なんてはなっから出ているでしょうけど」

 座席に背を預け、このみちゃんが尋ねる。

「……けど」

 尋ねられても、未だに私の胸には迷いが燻っていた。言うべき。でも、言える勇気がまだない。

「けどって何よ。はぁ、いいわねアンタは。いろんな男にモテて」

 このみちゃんが嫌味っぽく言う。

「べ、別に私は……」

 と否定つつも、どうしても何人かの顔が浮かぶ。だれかに好意を寄せられるだなんて、それこそこれまでは滅多になかったのに。それが一気に二人、もしかしたら三人もだなんて。

「あら、否定しちゃうの? ああそう。いっそのこと三人まとめてってわけ?  それともとっかえひっかえかしら?」

「そ、そんなことしないって!」

 思い浮かべて真っ赤になる。まとめてもとっかえひっかえもしないって! と全力で否定をするも、このみちゃんはやけになったような顔ではん、と鼻で笑う。

「どうかしらね。自分に言い寄ってくれる男がたくさんいるんだから。別にとっかえひっかえでもバレなきゃ問題ないわよ」

「私はそんなことしないって!! っていうか、できもしないよ……ただでさえ、一人だけでも悩んでいるのに……」

 悪い冗談を言わないでよ。とは言えなかった。言う必要が無かった。

「そうね」

 このみちゃんが、目を細め、下を向く。その顔は悲しげで、口に出した言葉を後悔しているようだった。

「ごめん。アタシ、僻んでちょっと昔の自分に戻ってた」

 本当にごめん、と繰り返して謝られる。私も気にしないで、と返答したが、それ以降電車が駅に到着するまで会話はなかった。

 所在無げに私は目線を泳がせた。外の景色は真っ暗で、ぽつぽつと見える明かりがどんどん通り過ぎて行く。このみちゃんも外を眺めていた。ガラスに映る彼女の表情はやっぱりアンニュイで、切なさを噛みしめているように見える。

 このみちゃんも、私にとっては大切な友達だ。昔は嫌なことをされたこともあったけど。今は本当の友達。

 だから、哀しい顔をされたら私だって胸が苦しくなる。

 早く、そしてはっきりと伝えなくっちゃ。懸さんに、自分から。そうするのが一番このみちゃんのためになるんだ。

 よし、できれば早く。……チャンスがあれば……明日にでも。勇気、出さなくっちゃ。





ども、作者です。


このみをサブタイトルに使うのが地味に汎用化しつつある気がします。


多分、これからも使います。便利な女です。酷い言い方です。

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