表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コワモテ!  作者: リソタソ
誰がための
PR
30/105

嘘はつけない……本当の気持ち!

 階段を二段飛ばしずつで、まるで飛び降りるみたいに駆け降りる。悩んでいたことに決着をつけるため。前向きに考えられるようになってか、足取りは軽い。途中、何人もの人にぶつかりそうになる。

「あぶねぇな! どこ見てやがんだ!!」

 間一髪で急停止して、私へ怒鳴り散らすが、私はすぐに答える。

「ごめんなさい! 急いでるの!」

 そして彼の脇をすり抜け、先に進む。走っていると背後からまた、同じ声で何かが聞こえるが、そんなことを気にしている場合ではない。十中八九私が悪いのだけど、仕方ないよね。

 昇降口の下駄箱で靴を履きかえて、外に出る。何人も学校に向かってくる中、私だけが逆走する。昇降口から、すっかり緑色の葉を付けた桜並木の一本道の抜け、階段を、坂を下りる。そうして、一番下にたどり着いた頃、ちょうど、鉢合わせになった。

 立ち止まり、膝に両手をつく。はぁ、はぁ、と息が上がっていた。ほんのちょっと走っただけなのに、かなり呼吸が乱れていた。ちょっと、運動不足だ。

 私が息を整えている間に、私の前に立っている彼は、両耳に差し込んだイヤホンを外し、人差し指と中指にぐるぐる巻きにしている。それを外して、ちょうどきゅっ、と結んだところで、私はやっと彼に声をかけた。

「ま、真虎君……」

 見上げると、彼は無表情に聞き返す。

「……何?」

 言うことは決まっている。私が捜していたのは真虎君だ。彼に、私の思っていることを全て、告げるつもりだ。

「ごめんなさい! 私、やっぱり……やっぱり、自分自身の気持ちに、嘘を吐けない。私には好きな人がいるの! だから、真虎君と付き合っているのなんて、できないよ」

 私はその気持ちをはっきりと言語化し、伝える。緊張していた。どんな返答が帰ってくるのか分からなかった。でも、まずは彼に伝えなければならなかった。

「……そう」

 真虎君が口にしたのはその一言だけ。そして、残念そうでもなく、悔しがるでもなく、私に背を向けた。そのまま歩いて行く。

「待って!」

 返ってしまう。そう思うと、私は彼の背中にもう一度声を掛けた。ぴたり、と真虎君は足を止める。

「お願い、帰らないで。私、あなたとは付き合えないけど、それでも、真虎君のためにできること、ちゃんとやりたいの!」

「やりたいって、具体的にどうやるし」

 真虎君は振り返らない。イヤホンを再び解いて手に持っていた。

「それは……」

 考えてはいなかった。どうしても言い淀んでしまう。そこへ、畳み掛けるように、真虎君が口を開く。

「僕のためって、何が僕のためになるし」

「学校で、友達と話したり、遊んだり……」

「あいつらが、僕と遊んだり話したりすると思う?」

 みんな、真虎君を嫌っている。真虎君が教室に来たときのざわめき、懸さんや、その仲間達が真虎君を取り囲んでいたときの険悪なムードを思い出す。

「私が、説得して……」

「説得しても、あんな野蛮人らと話すの、僕からも願い下げだし」

「野蛮じゃないよ! 中には優しい人だっている。気にかけてくれる人だっているもん!」

 気性の荒い人はたくさんいるけど、根はやさしい人もいる。このみちゃんやワンちゃんや、懸さんだってそう。真虎君はそれを知らないだけだよ。

「私だって、真虎君のことを気にかけてるよ。真虎君を、今の状態から救いたいの」

「でも、僕とは付き合ってはくれないんでしょ?」

 ……うん。一点張りの彼に私は力なく頷いて答える。

「全く……わがままだし。僕は君が付き合ってくれないと、学校には行きたくないし。それなのに、君は嫌だって言う。だったらもう、決裂。僕は学校には二度と行かないし」

 片方のイヤホンが、右耳に付けられる。

「……わがままだけど、でも、それでも……、私は真虎君を助けたい。力になりたい」

「だったら付き合うしかないし」

「だから、それはできないって! それ以外の別の方法を……」

 私も真虎君も譲らない。私だって、もう譲りたくはなかった。それが私の決めたことだったから。

「煩いし」

 ぴしゃり、と私の言葉を真虎君が遮った。

「君って本当にダメだし。そんなんじゃあ、自分はなにもしないって、言っているようなもんだし。僕自身が望んでいることが、君の望む結果を得られるんだってこと、理解していないの?」

「私の、望む結果?」

「僕を助けるってこと」

「付き合えばってことでしょ? でも、それは……」

「できないなら、僕を救えない」

「そんなこと……」

「あるし。それに、そもそも僕は君に助けて欲しいだなんて言った覚えないし。君が僕を助けたいって言ったから、それに条件を出してただけだし。その条件を飲めないのなら、無理に決まってるし。いい加減気付けば? その助けたいっての、偽善だし。君のわがまま以外のなんにでもなし」

「そんなんじゃ……」

「君の独りよがりだし。まぁ、僕だって利用しようとしたから、別に咎めるきなんてさらさらないし」

 利用。私が利用されているって、みんな言っていた。でも、そうじゃないって心のどこかで思っていたのに、はっきりと、本人から言われてしまった。

「利……用?」

「そう」

 やっと、真虎君が振り向いた。真虎君は冷めた目で、私をじっと、睨みつける。

「っていうか、君のやったことも僕と同じだし。君の望みを、誰かを助けたいってことを望んでいたんでしょ? それに白羽の矢がたったのが僕だっただけだし。君だって、僕を利用しようとしていたんだし」

 違う、そう言おうとしたとき、彼は私にかぶせるように言った。

「君は「誰かを助けたい」の? それとも「僕だけを助けたいの」?」

 言葉が詰まった。何も言えなかった。

「やっぱり、君は誰でも良かったんだ。僕も誰でもよかったけど……同じだし。ふん、違うって言えるの? 僕も君も、お互いを利用していただけってわかったでしょ? お互い、利用されるのなんて嫌だし。君もそれを分かっているから、僕を拒絶したんだし」

 真虎君はからからと笑いながら、左耳にイヤホンを付けた。

「じゃあ、さようなら」

 待って、とも言えなかった。遠ざかって行く真虎君の後姿を見ながら、歯茎から血が出そうなくらい、歯を食いしばっていた。

 悔しい。彼の言っていたことは、本当にその通りだと、痛感していた。信頼関係を築かなくちゃいけなかった。私は真虎君のこと何も知らなかったから、教えてもらおうと思っていた。でも、私は彼の提案には乗れない。自分の気持ちになんて嘘をつくなんてできなかった。

 だから、本当の気持ちを告げたのに……私の行動に、彼が見抜いていた事実を、私も彼を利用しようとしていたことがあったことを、思い知らされてしまった。

 もちろん、そんなつもりも、自覚も無かった。それなのに、違うと否定できなかったのも、彼の後を追いかけることもできないのは……私自身、彼のことをきちんと考えることも、知ろうともせずに、ただ、言われただけのことをこなそうとしていたと、自覚してしまったからだ。

 誰かを助けたい。私にあるのは、その気持ちだけ。その「誰か」が真虎君だっただけ。

 私は彼のことを何も知らないから、間違ってしまった。

 全身から力が抜ける。地面に膝をつく。日に当てられて、熱を持ったアスファルトに膝に当たり、熱かった。

 涙が、薄らと目に浮かんだ。滲んだ視界の先には、もう真虎君の姿は映っていなかった。

ども、作者です。ストックが足りなくなってきたぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ