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コワモテ!  作者: リソタソ
遊園地とデートと誘拐と!?
21/105

お化け屋敷で・・・・・・トラブル!?

 私たちはお化け屋敷に着いた。お化け屋敷は、もともとここにあった廃校をそのままお化け屋敷に作り変えたもので、ファンシーな遊園地のなかで、一際異彩を放つ色褪せたコンクリートの建物だった。

そびえたつ廃校には凄く雰囲気がある。私、この中に入るのちょっといやかも。

「よし、次はこの中に入って、先に出てきた方が勝ちだ」

「……ああ、いいだろう」

 なぜか、ワンちゃんの返事にどことなく違和感があった。これまでの興味のなさそうな返事ではなく、キレがない承諾の受け答えに聞こえる。

「ちょ、懸、あんたねぇ……」

 このみちゃんがこれ以上対決をさせたくないのか、懸さんを止めようとする。

「構うな!! これは男同士の決闘なんだ!!」

「……いや、お化け屋敷で決闘はないでしょ。私が言いたいのはね……」

「早くやるぞ」

 このみちゃんの言葉におっかぶせるように今度はワンちゃんが言った。相手が承諾してしまったものだから、このみちゃんももう何を言っても無駄だろうと観念したようで、ため息をつく。

「じゃあ、行くぞ!!」

 お化け屋敷は全然混んでいなかったから、すぐに入場できそう。

「あ、ちょっと待ってくださーい」

 しかし、ワンちゃんと懸さんが一緒に入ろうとしたときに、酷く痩せた男のスタッフさんに差し止められた。

「いやぁー、すみませんねー、ちょっと、このお化け屋敷はですねー、カップル限定なんですよー」

「なぁにっ!?」

「男同士はご遠慮くださーい」

 ワンちゃんと懸さんが帰ってきた。

「入れなかったね」

「ああ」

 私が残念そうに言うけれど、ワンちゃんの返事はどこか安心したような感じだった。

「ダメだ! 絶対に入るぞ!! 叶恵、俺と一緒に入ってくれええええ!!!」

「え!?」

 懸さんが私に手を伸ばした。

「ちょ、何言ってるのよ」

 止めようと懸さんの手を掴んだのはこのみちゃんだった。

「なぜ止める!?」

「そいつを賭けて戦ってるのに、その子と一緒に入ったら、本末転倒じゃないの?」

「……確かに」

 このみちゃんの言葉に、懸さんは納得したようだった。

「それに、見られていいの? あの姿」

「……それは、ちょっと嫌だ」

 このみちゃんは懸さんに何やらぼそぼそと耳打ちすると、しょんぼりと懸さんが答えた。その内容は私には聞こえなかった。

「じゃあ、仕方ない。ワン公! お前は叶恵と一緒にお化け屋敷に入る権利をやる!! その代わり、俺とこのみが先に入場するからな!」

 そう言って、懸さんはこのみちゃんを連れてお化け屋敷の入口へ向かった。

「はーい、ごカップル様ですねー、どうぞー入場して下さーい、あ、手荷物は連れの方に預けてくださいね」

 スタッフの人は、今度はあっさりと二人を入場させる。

「……」

 暗い室内に入って行く様子をワンちゃんはじっと眺めていた。その額に、つーっと、汗が伝ったのが見えた。

「じゃ、次は私たちの番だね」

 ま、結果オーライってやつかな? ワンちゃんとも二人っきりになれるし。お化け屋敷はあまり得意じゃないけど、ワンちゃんとなら大丈夫かな。

「……」

 ワンちゃんから返事が来ない。

「ワンちゃん? どうしたの」

「……ん、あ、ああ」

 どうしたんだろう、ワンちゃん。なんだか少しだけいつもと様子が違うような。

「ほら、さっさと入れよ!!」

「そうなのー、このままずっと待ってたら、懸さんの不戦勝なのー!」

 後ろからヤジが飛ぶ。これじゃ、このまま逃げるってこともできそうにないなぁ。

「行くしかないね、ワンちゃん」

「そう……だな」

 ワンちゃんと二人で並んで入場口へと向かう。

「あ、ちょっと待って、早いよワンちゃん」

 ワンちゃんは大股で歩いていた。さっきまでそんな大股では歩いていなかったのになぁ。どうしたんだろう?

「はーい、カップルですねー、入場どうぞー」

 変な臭いのするスタッフさんが、入り口のドアを開ける。

「ではではー、恐怖をお楽しみ下さーい」

 私とワンちゃんは、外とは百八十度違う、真っ暗な建物の中へ、入って行った。



「じゃあ、次は俺達が……」

「いやさ。バカジュンなんかと一緒に入りたい奴なんて誰もいないさー」

 下中は、カップル限定ということを良いことに、これは本物のカップルになるチャンスだと考え、仲間の女の子たちを誘うが、全部あっさりと断られていた。

「く、くそー、俺だって、俺だってリア充になりたいんだ」

 原因は、この誰でもいいから付き合いたい、という雑食精神なのだが、それに気づいていない以上、誰もこの男と付き合いたいなどと思うことはあるまい。それに気付くまでは誰とも付き合えないだろう。

「くっそーって、アレ? おいおい、なんでお化け屋敷の扉しめんだよ!」

 こそこそと扉をしめ、さらに入場禁止の札を立てているスタッフに対して、下中が怒鳴った。

「いやー、申し訳ないねー、スタッフが足りないからー、最高二組までしか入れないんだよー」

 スタッフの男は、妙な臭いを発する息を吐きながら愛想笑いで答えた。

「おいおい、勘弁してくれよー」

 残念がる下中。そもそも入場する権利ですら彼には無いのだが、それはすっかり忘れているようだった。

「いやー、ごめんねー」

 スタッフはそう言いながら、建物の裏に隠れて行った。

「あの人も中で仕事すんのか」

「いやっすねー、あんなに馬車馬みたいに働かされるなんて、大人になりたくねーなー」

「だなー」

「ま、下中さんは一生、別の意味で子供っすけど」

「お前!! よりにもよってそれを言うか!!!」

「うわっ、ちょ、打たないで下さいよー!!!」 

 残された懸の部下たちは、自分たちが不良であることなどそっちのけで、遊園地の楽しい雰囲気に飲み込まれてしまっていた。

 彼らを横目に見ながら、スタッフの男がジャケットの胸元からトランシーバーを取り出して、口に当てた。

「さてさて、準備は万端ですわ、淡竹さん」

 この男、あのバイヤーである。

「ああ。俺も早速取り掛かる。お前は例の場所で待ってろ」

「へい。お任せあれ」

 トランシーバーを切ったバイヤーは廃校の裏の方へと回る。これから始まるのは、アトラクションとしての恐怖の館ではなく、オカルトも種も仕掛けも無い、ノンフィクションの恐怖の時間だった。



「うわああああああああっ!!!」

「……何驚いてんのよ」

「だって、そこ、なんか動いて……」

「動いてないわよ! っていうか仕掛けも何もないところで驚くの止めてくれる? アンタの声で私が驚くのよ!」

 驚いているのはあの番長竜美懸であった。この男が酷くホラーの類が苦手なことを一緒に回ることになった水戸このみは熟知していた。

 さらに、懸はまるで抱き着くようにこのみに縋り付いている。このみも悪い気はしないでもなかった。しかし……。

「これ、逆じゃない?」

 さばさばして男らしい性格をしている彼女であっても、この状況はおかしいとしか思えなかった。むしろ、そんな性格だからこそ、この状況に納得できなかった。

「さ、早くいくわよ。それに歩きづらいから離れて」

 ついつい冷めた態度を取るのも納得である。

「あ、待って、離れないで、怖いから!」

 情けない姿だ。こんな男でも、好きなのだから、自分でも男を見る目がおかしいんじゃないか、とこのみは思う。

 順路の通り渡り廊下を歩いた先にある「こちらへ」の看板の先は、大きな両開きの重そうな扉の先だった。たどり着いたのはどうやら体育館のようだった。

 そこを潜ると、体育館であるはずなのに、狭い通路が二股に分かれていた。その前に看板がまた置いてあり、こう書かれている。

『こちらからさき、二手に分かれて進んでください』

「だって」

 懸の顔を覗くと、悲壮感が顔面を支配していた。

「……別れるの?」

「そうしないと先に進めないわ」

「やだぁ」

「ちょ、またくっつくないでよ」

 こんな状況で離れたくないと言われるのは全く本望ではない。どうにかして、このみはこの情けない男を勇気付けなくてはならなかった。

「ほら、さっさと先に進まないと……勝てないでしょ?」

「はっ……」 

 ばっ、と懸はこのみから離れた。

「勝たないと、あの子とデートできないわよ」

「そうだ!!! 俺の青春がかかっているんだああああああ!!!」

 懸が奮起して片方の道へと向かって走り出した。

 こうでもしないと、懸はやる気をださない。このみにはそうだとは分かっていても、実に切ないものだった。でも、あのままで一緒に居るよりは、ああやって一つのことに夢中になっている姿の方が心を打たれるものがある。実に皮肉なものだ。

「私も行くか」

 このみがもう一方の道へと進みだす。

「ぎゃあああああああああっ!!!」

 すぐに懸の叫び声が聞こえてきた。

「情けないわね、懸」

 ほんとに、なんであんな奴を好きになっちゃんたんだろう。ちょうどよく一人で悩める時間だから、このみは物思いをしながら歩いた。

 道は迷路になっているようで、かくかくと区切られている。このみは途中で分かれ道があるのかと考えていた。が、曲がりくねってはいたものの、一本道だった。そして、ついに行き着くところまで来た。

「どうなってんのかしら」

 しかし、たどり着いたのは行き止まりだった。

「ぎゃああああああああっ!!!」

 また、懸の叫び声が聞こえてくる。

「もう、アイツもどうなってんのよ。うるさいわねっ!!!」

 このみもついに我慢の限界が来たのか、叫びながら後ろを振り向いた。

「全くだな。脅かすものは何も用意してないのに、ああも驚かれると煩いったらありゃしないな」

 振り向くと、男の姿があった。突然のことに、このみは叫ぶことも忘れて、ただただ言葉を失いだけだった。

「ふふ。じゃあ行こうか。君をこの迷路から外に連れ出してやるよ……ま、一生暗い場所からはでれなくなるだろうがな」

 暗闇の中で笑う男の顔は、ぐにゃぐにゃに歪んでいるようでこのお化け屋敷という場所のせいもあって酷く不気味だ。それは直観的にこのみの中の恐怖を一気に駆り立てた。

「きゃあああああああああああっ!!!!」

 このみは思い出したように、精一杯の大声を上げた。言葉にはならかった思い、懸助けて、という思いの籠った叫びだった。

「ぎゃあああああああああああっ!!!? なに、何だ今の叫び声!!! こわっ!!!!」

 しかし、その思いは懸には届かなかった。

「ま、全く、アイツだって驚いてんじゃんかよ」

 このみの声だとは気付いたのに、このみの身に迫っている別の恐怖を懸が知ることはなかったようだ。



「わっ! 今、何か動かなかった?」

 私はワンちゃんと並んで歩いていた。私の驚いた声が反響する。うぅ、こ、怖いよ……。

「い、いや何も」

 ワンちゃんを見上げると、彼はまっすぐ前を向いたまま、頭をちっとも動かさずに歩いていた。どこか、返事にもおかしなものを感じる。私が見上げていてもちっとも私の方を見てくれていなかった。

 もしかして……。

「ねぇ、ワンちゃん」

「……」

「ねぇってば!」

 私はワンちゃんの掌を両方の手で掴んだ。

「わっ!?」

 ワンちゃんが驚いた声を上げる。握った手は、汗でべっとりと濡れていた。

「やっぱり……ワンちゃん、怖いの苦手?」

「……」

 ワンちゃんが顔を逸らした。照れてる? それとも恥ずかしがってる?

「もう、強がらなくていいよ、ワンちゃん」

 手から片一方の手を離す。

「このまま、手を繋いでてあげるから、安心してよワンちゃん」

「あ……」 

 ワンちゃんがやっと私を見下ろした。暗くて良く見えないけど、落ち着いた表情なのは間違いないと思う。

「……悪い」

「いいよ」

 ちょっとだけ積極的に行き過ぎたかな? いや、でも、こういうときじゃないと積極的にいけないだろうしね。このまま吊り橋効果でワンちゃんが私のこと好きになったらいいのになぁ。それに、怯えてるワンちゃんも可愛くて好きだな。ギャップ萌え?

 二人で手を繋いで歩いていたら、自然と怖さが和らぐ。このまま最後まで手を繋いでいられたらなぁ、と思っていたけど、順路通りに進んだら、大げさな扉を潜った先にある看板に出くわした。それは非情にもこう書かれていた。

『こちらからさき、二手に分かれて進んでください』

「二手に分かれなくちゃダメだって」

「……だな」

 また、ワンちゃんがまっすぐ前を見ている。怖いときは視線を固定するのがワンちゃんの癖みたい。

「仕方、ないな」

「だね。早く先に進んで早く会おうね」

 自然と恥ずかしい言葉が出てくる。早く会おうね、なんて、そうそう言えるもんじゃないよ。でも、こういうのが言えるのもお化け屋敷ならではかな?

「ああ。先行って、待ってるからな」

「うん」

 先にワンちゃんが進んで行った。私も、もう一方の道へと向かって行った。この先に行けば、ワンちゃんに会える! そう思えば、怖さもすっかりなくなった。

 この道は迷路だ。くねくね曲がっている。間違いなく迷路だ。でも、分かれ道なんか全然なくて、ずっと一本道だった。それで行き着いたのは行き止まりだった。

「あれ? どこかで道を間違えたのかな?」

 でも、間違える場所なんてどこにもなかった。

「も、もしかして、これは心霊現象!?」

 淋しいお化けのせいで、ここの迷路が作り変えられて、私をここから出られないようにして仲間にしてしまおうという策略なのっ!?

「……なわけないか。多分、私が見落としただけで行ける道が他にもあるんだよ」

 私が楽観的に考えて回れ右をして、行き止まりの壁に背を向けた時だった。

「むぐっ!?」

 突然、後ろから強い力で押さえつけられた。 

 な、なにこれ、しかも、口に布みたいなのを押さえつけられて……動け……な、あれ? なんだか、眠たく……な……て……。

「これで二人目捕獲完了。あとはあの男達をどうするかだな」

 私は失っていく意識の中で、男の声を聞いた。足の力が抜けて後ろに倒れると、少し柔らかくて温もりのある感触を背中に感じた。その時、私を捕えたのは幽霊じゃないんだ、と私は少しずれたことを思いながら、真っ暗闇に溶け込んでいくように眠りに落ちてしまった。

 ワンちゃん……、どこ?


「ったく、俺達はここで待ちぼうけかよ」

「文句言わないで下さいよ、バカじゅ……下中さん」

「お前、今バカジュンって言おうとしただろ!」

「い、いえ、そんなことないですよ」

 外では相変わらずの和やかな空気が流れていた。そこへ、こつこつと二人の大人が近づいて来ていた。

「あの、すみません。ナンバープレート×××の原チャリに乗って来たのって君たちかな?」

 男が下中に話しかける。下中はとっさに身構える。それは男達が深い青色の制服を身にまとった、警察官たちだったからだ。

「おいおい、俺達はまだなんもしてないぞ」

 彼らにとって警官は敵だ。他の仲間たちにも、緊張感が走る。

「よくもまぁ、そんなことを言えたもんだ。こいつを見ろ。これが、お前の原チャリから見つかったんだよ」

 もう一人の初老の警察官がポケットから何かを取り出した。

「なっ!? なんでそんなもんが!!?」

 下中は目を見開いて、警察官が取り出したものに目と言葉を奪われてしまった。


ども、作者です。久しぶりに液晶画面に飛び込みたくなり、トライしてみましたが案の定無理でした。

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