熱戦、激戦・・・・・・って、ここは遊園地だよっ!?
「決闘だ!! 決闘!!!」
懸さんが入場口のフェンスの向こうからワンちゃんへ物騒なことを叫ぶ。
「決闘?」
「そうだ!! 俺とお前で叶恵を賭けた決闘だ!!」
ま、またぁ!? 私、景品じゃないんだけど……というか、ワンちゃんとこれからデート……。横目でワンちゃんを見ると、力強く頷いていた。
「よし、分かった」
とワンちゃんが返事。って、ワンちゃん!? やるの決闘!?
「ははは、さすがは俺のライバルだワン公!! じゃあ早速……」
懸さんがこちら側に乗り込んで来ようとフェンスに足を掛ける。
「お客様、入場の際はこちらでチケットを啓示お願いいたします」
けれど、懸さんは受付のお姉さんの注意を受けて、駆けつけた警備員さんにフェンスから降ろされた。まぁ、当たり前だよね。
「離せっ! 俺はあいつと決闘するんだあああああああ!!!」
「ダメです。入場するのならチケットをご購入してください。それから、園内での暴力行為は禁止です。発見次第退園していただきます」
抵抗する懸さんに受付のお姉さんがさらに注意を促す。そうだよね、うん。決闘なんてできないよね。
「するんだあああ!!」
「もう、懸! 止めなさいよみっともない。ほら、チケットはあるから、さっさと入園するわよ」
このみちゃんが懸さんの腕を掴んで、警備員から引きはがすとチケットを渡し、一緒に入場口のお姉さんに提示した。
「……はい。結構です。でも決闘は禁止ですよ」
念を押すように受付のお姉さんは懸さんに注意して、懸さんもむすっとしゃくれながらも、「はーい」といたずらをした後がきんちょのように頷いていた。
入園を許された懸さんとこのみちゃんは、すぐに私たちの方へ。
「さぁ! 決闘だ!!!」
……懸さん。話聞いてた? いきなりそんなこと言っちゃったらここから締め出されちゃうよ?
「懸!! いい加減に決闘なんか忘れなさいよ!」
「ダメだ! ここで決闘を投げ出すなんて男じゃねぇ!」
このみちゃんが懸さんを止めようとするけど、彼はちっとも決闘をあきらめる気は無いみたい。諦めないと、本当に連れ出されちゃうよ、懸さん。
「分かってるぜ。喧嘩はしない。でも、決闘はする」
「それどういうこと?」
「ふっふっふ、つまり、この遊園地でできる平和的非暴力的ガンジスト的青春決闘を執り行うのだああああああああ!!!」
「つまってないわよ! 何するのか全っ然不明じゃない!!」
「?」
クエスチョンを浮かべるのは私とこのみちゃん、それからあとから入園してきた女の子たちだった。
「さっすがアニキ! 場所を利用するだなんて頭良いぜ!」
「非暴力的決闘……くぅ、俺達には思いつかないですよ!」
うんうんと頷く懸さんの仲間の男の子たち……分かるの? 言ってる意味。
「……分かった。やってやる」
ワンちゃんも同意する。
「ワンちゃんも理解したの!? 今ので!?」
ワンちゃんまで……男ってなんなの、ミステリアスなんだけど!!?
「よーし、それじゃあまずは……」
「対決その一! 青春ジェットコースター対決だ!!!」
私たちはジェットコースター乗り場の前まで移動していた。
「うおおおおおお!!!」
「やああああああ!!!」
「なんで男どもはこんなにテンション上げていられんのよ」
はぁ、とあきれるこのみちゃん。私もそれには同感だよ。ワンちゃんもまんざらじゃない顔して腕を組んでいるしさ。
「このジェットコースターに乗って先に声を出した方が負けだ!!」
「よし、やってやる」
ワンちゃんはあっさり承諾。あの、ワンちゃん私とのデート……。そんなことはすっかり忘れているらしく、ワンちゃんは懸さんと一緒にジェットコースターに隣り合って乗り込んだ。
私たちはジェットコースターのレールを取り囲んだフェンスの周りで立ち尽くして待つしかなかった。動き始めたジェットコースターの一番前の席にワンちゃんと懸さんが、お互いに仏頂面して座っていた。仲がいいんだか悪いんだか分からないシュールな光景だなぁ。
「きゃあああああああああ!!!」
「ひゃああああああああああ!!!」
「アッーーーーーーーーー!!!」
車両がぐわんぐわんと立体的な作りのレールに弄ばれ、乗っている乗客たちは嬉しんだか怖いんだか判別のつかない絶叫を上げていた。けど、その中に懸さんの声もワンちゃんの声もちっとも聞こえなかった。
……数分後。ふらふらしていたり、笑顔で乗り場から降りてくる他の乗客たちの中に、未だに表情を変えないワンちゃんと懸さんの姿があった。
「どっちが勝ったの?」
私がワンちゃんに聞くと、隣にいる懸さんの方に目配せをする。懸さんもワンちゃんを見返した。
「やるな、ワン公」
「ふん」
……どゆこと?
「勝敗は……?」
「引き分けだ」
「……どっちも声を上げなかったってことね」
これって、はたから見れば全然ジェットコースターを楽しめていない人の反応だよね。キモが座りすぎだよ二人とも。
「次だ。次で決着を付けてやる!!」
続いて、懸さんに連れられてやってきたのはコーヒーカップ。
「次は青春コーヒーカップ対決だ!!! 回転させたコーヒーカップで酔った方が負けだ!!」
「ふん」
懸さんとワンちゃんは同じコーヒーカップへと足を運ぶ。途中、近くにいた小さい女の子が二人を見て泣きはじめた。私の方からは後姿しか見えないのだけど、二人ともどんだけ怖い顔してるの……。いや、多分普通に無表情なんだと思うけど、それだけでもこのファンシーなカップたちが踊る夢の舞台には明らかに不釣り合いな顔なんだ。……もっと違う場所にしなよ、二人とも。お化け屋敷とか。
「うおおおおおおおおおお!!!」
懸さんとワンちゃんの乗ったカップは、まるで車のタイヤのように早く回転していた。ハンドルを持って回しているのは懸さんだ。
「……」
ワンちゃんは目を開けたまま腕を組んで無反応だった。これなら、勝てそう? 早く勝ってデートしたいなぁ。
「な、何あのカップ」
「ちょ、怖いんだけど、何叫んでるのかしら」
「あたしのかっぷよりもはやーい」
「コラ! 見ちゃダメよ」
ワンちゃんたちが悪い意味で注目を浴びてしまっている。二人っきりになっても注目されちゃいそうで嫌だなぁ。
……数分後。
「……」
「……」
降りてきた二人は、すぐに通路の脇に逸れて壁によりかかった。
「どうしたんですかアニキ?」
下中君が、懸さんに声を掛ける。私もワンちゃんの傍に寄って話しかけた。
「大丈夫? 酔ってない?」
「……」
「……」
問いかけても二人は黙ったままだった。どうしたんだろ?
「アニキ?」
二人の様子は明らかにおかしかった。顔を正面に上げながらぴくりとも動かさずに口を強く噤んでまるで遠くを眺めているようだった。二人の視線を追うと、ちょうど緑の山がビルの並んだ町並みの中からひょこりと頭を出していた。
「……無理っ!」
「……俺もっ!」
そして二人は突然走り出した。
「わ、ワンちゃん!?」
「アニキ!?」
駆け込んで行く先は、コーヒーカップの横に設置された可愛らしいサーカスのテントを象ったトイレだった。
「……我慢、してたんだ」
結局、出てきた二人は今回も引き分けということで納得し合っていた。もう、デートも何もないよ。雰囲気とか完全にぶち壊しだよ。
懸と一和がトイレに駆け込んでいき、二人が出てくるのを懸の手下たちと叶恵が待っている間、二人の男が彼女たちを眺めていた。
「はぁ、俺みたいなやつが、こんな格好をするなんてなぁ」
一人は、顔に傷を持った男だった。アロハシャツに短パンと、夏を先取りしているような服装で、いくら熱いとはいえ、まだ五月の初めなので肌寒さを感じていた。どうやら服装を間違えてしまったようだ。
「仕方ないですよ、淡竹さん。あんたみたいなやくざ者がいつものスーツ姿じゃ、悪目立ちしちまいますよ」
傍に控えるもう一人の男は、ジーンズに黒のポロシャツと、こちらは休日のお父さんのような姿。しかし、まるで骨と皮だけのような痩せ細った姿に、影ができるほどやつれた頬は、まるで病人のような風体で、立っているのが不自然に思えるほどに弱弱しく見える。
「ったく。もう少しましな服を用意しててくれよ」
不満を漏らす淡竹と呼ばれた男は、ただでさえ強面な顔に鋭い皺を寄せる。そんな男がアロハシャツなんて着ている物だから、余計に目立ってしまっているのを彼は切実に感じていた。今も、通って行く子供が、目を丸くして淡竹を見ていた。
それも服のせいだけだと思っているが、彼の顔つきと大の大人二人きりというのも目立つ要因となっている。彼はそれを完全に度外視していた。
淡竹はどうしようもないイラつきのせいで、煙草が吸いたくなった。ズボンのポケットから煙草を取り出す。
「ダメですよ。ここはもう全面禁煙なんすよ? 八十年代じゃないんですから」
「んあ? あ、そうか……ちっ、悪い時代になりやがったもんだ」
イライラした顔つきを崩さないまま、淡竹は煙草をポケットにおさめた。それを見て、ニヤつきながら、今度はもう一人の男がポケットから紙包みを取り出して男に見せた。
「それに、そんなもんよりこっちを吸いましょうよ。安くしときますよ?」
男の顔は怪しく歪む。まるで骸骨が笑っているようだ。
「止めとく。売る立場の人間がそいつにはまっちまうのは嫌なんだ。ミイラ取りがミイラになるのは嫌なんでね、お前みたいに」
そう言うと、もう一人の男は包みを戻した。
「ちぇっ、いい気分になれるんすけどねぇ」
この男は麻薬のバイヤーだった。ここ最近、この町で随分と稼ぎを上げていたのだが、あちこち練り歩いていた結果、自分の首を絞める結果になってしまった哀れな男である。警備が酷くて逃げられず、助けを求めたのが淡竹の所属するとある組だった。協力する代わりに逃がしてもらうことが、彼の報酬だった。
「ところでよ。なんでまだ持ってるんだよ」
「もちろん、自分が吸うためでさぁ。隙さえあればいつでも吸えますよ」
「仕掛けに抜かりはないだろうな?」
淡竹がバイヤーに詰め寄る。二人の体の大きさは、つまようじと家の大黒柱ほども違う。バイヤーくらいなら言葉通り一捻りにできるだろう。
けれど、怯えた様子もなくバイヤーは答える。
「ええ。計画通り進むようにやりましたよ。こいつは余った分です」
「ならいい」
二人は言いながら、ターゲットである少女、咲宮叶恵の方を見た。
「あいつと、さっきトイレにいった二人で違いないですよねぇ」
「あんな子供がねぇ。うちらのシマを荒らしたなんて信じられねぇな」
「見かけに寄らず、ですよ。でも、あっちにいるケバイ女の子の方がよっぽど現実味ありますねぇ」
「そう……だな」
聞いたバイヤーが淡竹の方を見ると、淡竹はしっかりとケバイ女の子と言われた水戸このみにしっかりと目を奪われていた。
「……」
「あの、淡竹さん?」
「……あ、なんだ?」
あー、この男はロリコンだ。ケバくても高校生なんかに目を奪われるなんて。ちっともその気が無いバイヤーは呆れながら思った。
「折角なんで、あの子もやっちゃいます?」
「……いいのか?」
「ええ。ターゲットが一人増えるのくらい、どうと言うことはないでしょうよ」
「そうだな」
淡竹はにやにやと笑った。もともとやる気のある仕事ではあったが、プラスアルファで報酬が増えるとあればやる気が上がるのはやくざ者であっても、一般の仕事人たちと変わらなかった。
「そいじゃ、次の場所で待ち伏せするか」
「ええ。そこで吸ってもいいっすか?」
「匂いがきついから、人目に付かない場所でな」
二人は集団から目を離して歩き出した。目指す場所は、コンクリートで作られた、遊園地には不釣り合いの無骨な建物だった。
「次は、観覧車バトルだあああああああ!!!」
トイレから帰ってきた懸さんが、完全に元のハイテンションに戻って宣言した。までは良かったんだけど。
たどり着いた観覧車乗り場はかなり混んでいた。長蛇の列を作っていて、懸さんとワンちゃんはその一番後ろで待機することになった。私たちもなぜか待たされることになる。
「くそー、まだか、まだか……」
懸さんは踵をかんかん地面にたたきつけて待ち時間の長さにむかつき始めていた。
「ふん。ガキかよ……」
そんな懸さんに対してワンちゃんが毒づいた。
「んだとおおお!!?」
ああ、それだと火に油だよワンちゃん。
「さっさと決着つけようぜ。こんなとこで待つのは俺も嫌なんだ」
ワンちゃんが懸さんにガンつける。ちょ、ちょっと……。長蛇の列に待たされるのはワンちゃんも嫌だったみたい。
「こンの……」
再び一触即発の空気。
「やるか?」
さらに今度はワンちゃんが火にガソリンをかけるような発言をしちゃった。
「いいぜ……」
懸さんが拳を握った。
「……ふん、そう来なくっちゃな」
ワンちゃんも拳を握る。ちょっと! こ、こんなところでまさか、また殴り合い!? そんなのダメだよ。
「わ、ワンちゃん! お、落ち着いて!!」
私がそう言ったのももう遅かった。二人の拳が振り上げられる。
「あー! もうダメ!!」
私は目を瞑る。走馬灯のようにここに来るまで立てたプラン通りに進んだデートコースをワンちゃんと歩く姿が想像される。た、楽しみにしていたのに……。もう終わりだ。
と、思ったときだった。
「最初はグー!」
「じゃんけんポン!!」
ワンちゃんと、懸さんの声だった。
「え?」
目を開けると、懸さんとワンちゃんの差し出された掌ががお互いに力いっぱい開かれていて、突きあわせているところだった。
「あいこで……」
「ショ!!」
今度は拳を突きあわせる。
完全にじゃんけんをしていた。
「なに、やってんの?」
一気に力が抜ける。酷く和やかな雰囲気の遊園地に、やっと馴染めるような決闘、その名も絶対に白黒つけるぜ青春じゃんけんバトル(懸さんネーム)が始まっていた。
「あいこでしょ!」
「あいこでしょ!」
二人はずっとあいこのまま、列はどんどん進んで行く。
「はい、次の方~」
「あいこでしょ!」
「あいこでしょ!」
スタッフの人が乗車を促している間も、二人はじゃんけんをしていた。
「ちっ、続きは……」
「中でやるぞ!」
二人はどたどたとあわただしく観覧車に乗った。
「あいこでしょ!」
「あいこでしょ!」
外にいても、二人の声が聞こえてきた。
……数分後。
「なぁ、このぬいぐるみ大きくてじゃまなんだけど」
「へっ、ざまぁねえやこのリア充め」
外に控えている私たちはなぜか和やかだった。これも、遊園地の雰囲気にのまれているせいだろう。でも、私だけは一人でぽつんと、揺れる観覧車の、ワンちゃんたちが乗っている籠を見ているだけだった。
「はぁ……何もかもダメね」
「懸さんも、諦めればいいのにねー」
「そうなの。折角ミトッチがこんなにも想っているのに……」
「ちょ、変な事言うなって!!」
このみちゃんたちも、相変わらずお話し中。なぜか、この場で一番浮いているのは私だけだった。
「はい、お疲れ様でしたー」
スタッフの声がして、ワンちゃんたちが降りてきた。
「はぁ、はぁ」
「ふぅ、ふぅ」
なぜかすっごく息の上がっているワンちゃんと懸さん。じゃんけんはもうすでに終わっているようだった。これで、決着はついたのかな?
「八百二十七戦……」
「八百二十七引き分け……」
「くそっ、また引き分けか」
「ちょ、どんだけあいこ続いてんの!? 何万分の一の確率なのそれ!?」
どうやらまだ決着はついていないようだった。はぁ、もうデートはあきらめた方がいいのかな?
「よし……それじゃあ次は、お化け屋敷だあああああああ!!!!!」
「……ふん、いいだろう」
返事を返したワンちゃんに、少しだけ間があった。
ども、作者です。つぎこそは日付が変わってすぐに更新したいものです。




