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コワモテ!  作者: リソタソ
友達!!
12/105

キノコ頭と坊主頭・・・・・・誰っ!?

 私が着替え終えて外に出るころには、すっかり雨は上がっていた。でも、まだ黒々といた雲は空を覆っていて、いつ雨がまた降りだすか分からないと、ワンちゃんは一応傘を持っていた。他の人の足音はない。雨のせいかみんな外出を遠慮しているみたい。それか、車で外出しているのかな?

「ねぇ、ワンちゃん」

 二人で並んで歩きながら、私はふと聞いてみた。

「なんだ?」

「勉強頑張ってるって、千和さんから聞いたよ」

「ああ。部屋まで声聞こえてた」

「あ……ごめんね、いろいろ千和さんに教えてもらっちゃって……」

「バカ姉貴が勝手にべらべらしゃべりやがったんだ。お前が謝ることじゃない」

「そうかな……あ、でね。疑問に思ったんだけど、どうしてあの学校に通っているの?」

「……」

「勉強を頑張るなら、他の学校でも……」

「内申が悪かったんだろ。他の学校じゃ、俺は受け入れられなかった」

「ワンちゃん……ところで、勉強っていまどんなことやってるの?」

「受験に向けて、高三の範囲をやってる」

「すごっ! 分かるの?」

「難しくはない。どうしてそうなるのかを理解すれば自然と解けるようになる」

「へぇ~……私には理解できないかも。授業も全然わかんないし……今度ワンちゃんに教えてもらおっかな?」

「時間があればな」

良かった。断られなかった。というか、こんなにワンちゃんと和やかに話せたのこっちに戻ってきてからは初めてだ。どうしてだろう……いつもはなんか私がワンちゃんって呼んで怒られるか、話しのネタが無いかのどっちかなんだけど……。あれ、そう言えばさっきからワンちゃんって呼んでるんだけど怒らないなぁ。なんでだろう?

話している間に、駅前までやって来た。さすがにここまで来ると、雨に濡れた人たちがちらほらと見受けられるようになった。

「ワンちゃん、もうこの辺で私は大丈夫だよ。後は道分かるし」

「……ああ、分かった」

 ちょっと間が開いて頷くワンちゃん。気を遣ってもう大丈夫、って言ったんだけど……、少しだけ後悔。ほんとはもうちょっといたいんだけどね、これ以上は……。

「あ~!! 叶恵ちゃあ~~~ん!!!」

 びくっ、と背筋が強張る。き、聞き覚えがある声が私を呼んだ。し、しかもこの声……。

「まさか……」

 呼ばれた方を見ると、駅の正面入り口あたりで、制服姿の高校生やスーツ姿の社会人たちが、忙しなく出入りをしている中に、茶髪のマッシュルーム頭の背の小さい男の人を発見した。その人は私に向かって手を振りながらこちらに向かってくる。メタルブルーの眼鏡に、丹念に手入れをしているのだろう青髭の残る顎に、おしゃれでもないチェックのシャツ。な、なんでこの人がここにいるの!?

「か、河村さん!!?」

「も~、叶恵ちゃんてば遅いよ~」

 あの、元いた町のバイト先の先輩で大学生の河村さんだった。

「お、遅いってなんですか?」

 さ、早速何の話をしているのか分からない。そんな首をかしげる私を察して、河村さんが説明する。

「え~!? 俺メールしたじゃ~ん。今度遊びに来るから一緒にデートでもどう? って。駅前で待ってるからお出迎えよろしくね~ってさ~」

 し、知らない……。もしかして、この前消したメールなのかな……。たぶん、そうだ。私、それ以外には河村さんからのメールは受け取ってないはずだから……。

「もしかして、忘れてた~?」

 河村さんは語尾をへにょへにょに伸ばす特徴的なしゃべり方をしながら聞いてくる。忘れてたっておもわれてるなら好都合だ。よかった、とりあえず、メールを見ずに削除した、なんて説明するよりは忘れてたっていうほうが、傷つけたりしないはずだしね……。

「は、はい! すっかり忘れてました」

 私はちょっと悪気があるように愛想笑いを浮かべながら謝る。

「ま、忘れることは人なら往々としてあるからね~。じゃ、そんなことはさておきデートしよっか~」

 うぎゃあああああああ、裏目に出たー!!!! 河村さんは前までとちっとも変らない気軽なノリで私をデートに誘ってきた。うぅ……これまでなら、バイト先の友達や店長が気を遣って用事をこと付けてくれることでなんとか回避してきたんだけど、まずいなぁ、どう断ろう……。

「あ、いやぁ、その……」

「俺ね、この町で結構穴場なレストランを知ってるんだ~、もしかしたら、叶恵ちゃんも行った事無いかもしれないし~、一緒に行こうよ~」

 河村さんが、そう言いながら私の肩を掴もうとしたその時。

「……おい」

 さっきまで隣にいたはずのワンちゃんが、いつの間にか河村さんの後ろに立っていて、彼のマッシュルーム頭を彼の手ががっしりと掴んでいた。

「あ? なんだ……って、いだだだだだだだだだだああああああ!!!!!?」

 河村さんの頭を掴んでいる右腕に不当血管が浮き立つ。ワンちゃんが河村さんの頭を力いっぱい、リンゴでも握りつぶすみたいに強力な万力を掛けているみたいにメキメキと聞こえる。い、痛そう。

「あだだだだ! は、離せ、離せーー!!!」

 河村さんがわめくと、ワンちゃんがさっと手を離した。

「何すんだこ……ら……」

 最初は威勢たっぷりに歯を剥きだして振り返った河村さん。でも、後ろを向いて、頂上付近に猛禽の目を携えた人間山脈を見た途端に、「ひえっ」と声を上げた。何とか腰を抜かすことだけは防いだらしく、足をぷるぷる震えさせながらへっぴり腰になっている。

「……テメェ」

 わ、ワンちゃんがなぜかお怒りになっている!? もう一度へっぴり腰の河村さんの頭を握ろうと手を伸ばすワンちゃん。

「ちょ、ちょっと待ってワンちゃん」

 と、とにかく止めないと! ワンちゃんが怒りのままに河村さんの頭を本気で握りつぶそうとしたらできそうな気がする! きっと冗談じゃ済まされないと思うから!

 私はワンちゃんの力んだ右腕にそっと手を置いた。すると、ワンちゃんは私の方を一旦見る。に、睨んでる、ぎろりって鋭い目が私を捕えてる。

「だ、ダメだよワンちゃん。落ち着いて……」

 私の言葉に耳を貸してくれたみたいで、ワンちゃんは腕から力を抜いて腕を下ろしてくれた。

「あわ、あわわわ、か、叶恵ちゃん、もしかしてこの人お知り合い?」

 河村さんはへっぴり腰のまま私に聞いた。

「あ、はい。幼馴染の……」

「あー! そっかそっか~、なるほどなるほど~。それじゃあ、俺はお邪魔だったってことだね~、きっとそうだね~、じゃあ、叶恵ちゃん! 俺、しばらくこの町にいるから~、良かったらまた今度デートしてね~!!!」

 河村さんは何かに納得して、へっぴり腰のままで走ってどこかに行ってしまった。

「ふぅ……いったい、何に納得したんだろう、河村さん」

 さっぱりわからないけど、とりあえずは河村さんを退治したから解決? ほとんど、ワンちゃんがビビらせてくれたおかげなんだけど。

「おい……」

「……何、って!?」

 ワンちゃんに呼ばれて、彼の顔を見上げると、まだぎろりと目を光らせて、私を睨んでいた。

「ど、どうしたの、ワンちゃん!?」

 な、何!? ま、また私何か悪いコトした!? もしかして、手を煩わせたことをお怒りになっている!?

「人がいる前で、その呼び方は止めろって……」

 ワンちゃんの左手が、私の頭を掴んだ。あ、これって、もしかして……。

「……」

 ワンちゃんを見上げると目が合った。そのまま、彼の左手に力が入る。

「ぎゃあああああああああああ!!!!!」

 痛い! 痛い! 軋んではいないけど指が食い込んでる! とりあえず痛い!!!

「ご、ごめんなさい! 人前じゃ呼ばないからああっ!!」

 ワンちゃんって呼び方、人前で呼ぶのはタブーみたい。さっきみたいに人が少なかったりすればいいのかな? さっきは怒られなかったし。

 私がそう誓うと、ワンちゃんが私を解放してくれた。ほっ、と胸をなでおろして一息……。

「待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待てえええええええええええい!!!!!!!!」

 なんて余裕もなく、これまた聞き覚えのある騒がしい声がバイクのエンジン音と共に近づいて来た。

「俺の愛しの転校美少女、叶恵の悲鳴を聞いて、駆けつけなかったら青春の名が廃るぜええええええええええええ!!!!!」

 あー、彼はバイクのまま歩道の段差を乗り越えて、歩行者に多大な迷惑を掛けながら、バイクの正面を私たちに向けるように旋回して勢いを殺して停車した。

「ふぅー。叶恵のピンチに駆けつける、そんな青春の申し子、その正体は!!!」

 懸さんでしょ。懸さんはバイクを降りて、着ていた革ジャンを脱いでバイクの座席にかけてから、もったいぶったヒーローの名乗りを上げる前口上みたいなことをいいながら、ヘルメットを取った。

「この俺! 竜美懸様だああああああああ!!!!!」

「……えっ!?」

「……はぁっ!?」

 その人は、懸さんに間違いはなかった。けれど、私とワンちゃんは二人そろってヘルメットを外した懸さんを見て、素っ頓狂な声を上げてしまう。

「……ん? なんだぁ、二人とも俺の顔見て眼ぇ丸くしちまって」

 首をかしげる懸さん。この前までの懸さんなら、首をかしげる動作に、もう一つ余分な動作が勝手に加わっているはずだった。けれど、今の懸さんにはそれが無い。具体的に無いのは、その動作を勝手に行っていた、リーゼントなんだけど。

「……ぷっ、ハゲ」

 ワンちゃんが吹きだす。それもそのはずで、懸さんのトレードマークだったリーゼントが今や、黒い芝生のような坊主頭になっていたからだ。私も、一瞬笑いそうになった。

「ちがーう!!! 断じてハゲなんかじゃない! おしゃれ坊主だ!!!」

「どこがおしゃれだ」

「ほら! 頭の横見てみろ! ほら、剃り込みが入っているだろう?」

 こめかみのあたりをワンちゃんに見せる懸さん。

「古っ」

「古くなんかなーーーい!!!!!」

 わ、私も少しだけ古いと思うな、その髪型。ちょっと前まで有名な歌手がやっていたヘアースタイル、だよね。

「ったく……そんなことより、大丈夫か、叶恵」

 ワンちゃんの方を向いていた懸さんが、私の方を見た。

「大丈夫って、何がですか?」

「さっきまで、こいつに頭握りつぶされてただろ?」

「あ、それは、全然……」

 私はそう言うけれど、懸さんは私の頭をじろじろと心配そうな目つきで見下ろしていた。

「うん、特に異常はないな」

 笑う懸さん。私はそんな彼をおずおずと見上げていたのだけれど……なんか、初めて懸さんの顔をしっかりと見れた気がした。もともと整っていた顔立ちをしていたとは思っていたけど、リーゼントのせいで台無しになっていたのが、坊主頭になって随分と良くなって見えた。

「ったくよぉ、こんなところで叶恵を襲うたぁ、ひでぇ奴だな」

「……誰が酷いって?」

 懸さんがぼやくと、ワンちゃんがこめかみをぴくぴくさせながら、懸さんを睨みつける。

「お前だよ、お前。全く……こんなやつがいる町を叶恵一人で歩かせるのは酷だな。よし、叶恵」

 ワンちゃんの睨みつけなんかちっとも効果がないみたいにケロッとしている懸さんが、私の方を再度向き直った。

「さ、お前の家まで俺がバイクで送ってやるよ」

 唐突な誘いだった。

「え!? あ、そ、それは……」

「遠慮なんかすんなって。何より俺がいるから安心安全だし、あっという間にお前の家まで連れてってやれるぞ」

「テメェ!」

 なぜか、ワンちゃんが懸さんの肩を掴む。

「何勝手なこと言ってやがんだ」

「勝手なもんか。お前と一緒にいるよかマシだろ。すぐに暴力に訴えかけるんだからなぁ、ワンちゃんは」

 かちん! とワンちゃんの逆鱗に触れたのが分かった。ああああ、なんてこと、ワンちゃんのことをワンちゃんって呼ぶだなんて……。あ、でもその呼び方を浸透させたの私のせいか。

「テメェ……ぶっ殺す」

 拳を振り上げるワンちゃん。ワンちゃんのパンチをひょいっと避けた懸さんは、私の手を掴んでバイクの方まで手を引いた。

「あ、ちょ、ちょっと懸さん!」

「あんな喧嘩バカほっといて、俺達で一緒に逃避行といこうぜ」

「と、逃避行って、家まで送るって」

「似たようなもんだろ」

 そう言いながら、懸さんが、バイクに跨ってエンジンを掛ける。

「さ、乗れよ!」

 そう言って爽やかな笑顔を浮かべる懸さん。なんだか、リーゼントだったころより、すっごくかっこよく見え……。

「カナちゃん!」

「……えっ、ってうわぁああ!!!」

 呼ばれて振り返った瞬間に、掴まれた手を強く引かれて、引っ張られるままに私は走り出した。手を引いているのはワンちゃんだった。

「ちょ、ちょっとワンちゃん!?」

「ほら、お前の家まで俺が送っていってやる」

「え!!?」

「ああああ!!! お前!!! 俺が送って行くって話だっただろ!!!」

 後ろの方から聞こえる懸さんの声がどんどん遠くなっていく。

「さ、早くいくぞ。青春バカに追いつかれる」

「…………う、うん」

 ワンちゃんが走るのに合わせるのはちょっと大変だけど、私は手を引かれるままに、彼に着いて行く方を選んだ。

 さっき、私のことカナちゃんって、呼んでくれた。

 その嬉しさを逃さないように、私はきゅっ、と力いっぱい彼の手を握り返した。



 時同じくしてのとある女子高生たちのライン。

「ねーねー、復讐どうするー?」

「なんかいい感じに使えそうな奴いそうなの?」

「うーん、誰がいいさ?」

「そうねぇ……前に知り合ったあのおっさん使わない? ほら、アタシたちを汚いって言ってた」

「あー! あの直前になって止めやがったおっさんー?」

「それいいの! あいつならきっとあの子を気に入るの!」

「じゃあ、決まりさ」

「うん。あいつを売ってあげちゃお」


ども、作者です。書く前はあまり好きになれないと思っていたキャラ河村さんだけど、最終的に愛着が湧いてしまった。三章以降の出番あるかな~?

ちなみに、三章も書き上がりました。でもまだ週一で更新します。

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